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第百話:酒造りの情熱と御曹司の計画

山本嘉位やまもと かいは、海外での経験を通して、日本の日本酒や焼酎が世界で高く評価されていることを実感し、蓬田香織よもぎだ かおりの実家が酒造メーカーであることを知って、深い興味を抱いた。そして、それは、彼が抱える困難な状況を乗り越えるための、希望の種になるかもしれないと直感していた。


「蓬田さんの家の…酒造り…もしよかったら…見学させてもらえないかな…?」


「かい」の真剣な眼差しに、香織は戸惑った。彼の言葉は、単なる興味だけではない。何か、深い意味があるのだろう。


「…あの…はい…大丈夫だと…思いますけど…」香織は、顔を赤らめながら答えた。自分の実家を、彼に見学させる。それは、香織にとって、少し恥ずかしくもあり、そして、彼に自分の世界を見せるということへの、期待もあった。


「ほんと!? ありがとう!」と「かい」は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔は、以前の影を含んだものではなく、彼の情熱を感じさせる、明るい笑顔だった。


しかし、二人が話している傍らでは、かえでと婚約者らしき女性が、二人の様子を冷たい視線で見守っていた。彼女たちの視線は、香織に突き刺さる。


「お兄様、何をなさっているんですか? 早く参りましょう!」楓が、イライラした様子で「かい」に促す。


「かい」は、楓の言葉に顔を曇らせた。そして、香織の手を握りしめた。


「ごめん、蓬田さん。もう行かないと…今晩駅前で20時で」


「…え?…はい…」


「かい」は、香織の手を離し、?と婚約者らしき女性の元へ向かった。香織は、彼の後ろ姿を見送ることしかできなかった。


短い時間だったけれど、彼と話せたこと。そして、彼が自分の実家の酒造りに興味を持ってくれたこと。それは、香織にとって、暗闇の中の一筋の光だった。


その日の夜、「かい」からメッセージが届いた。千佳ちかではない、見慣れない番号から。


「蓬田さん。今日のことは、本当にありがとう。君の家の酒造りのこと、もっと詳しく知りたいんだ。今晩駅前で20時で必ず行くから」


彼のメッセージに、香織の心臓がドキドキと鳴る。鍵。未来。彼の言葉は、香織の期待をさらに高めた。


今晩、今日はクリスマスイブ・・・え?


色々な事が速すぎて駆け足で抜けていったので心も、頭も整理できていなかった。


山本君は、クリスマスに戻って来てくれたんだ。あ、洋服、どうしよう・・・。


帰宅し、クローゼットを漁るが、際立ったデザインの洋服が無い。今からだと買うにも間に合わない。


シャワーだけ浴びて、急いでお化粧をして、駅前に足早に向かう。


外は寒かったが、山本君に会えると思うと、鼓動の響きがとまらなかった。


どこかしらから聞こえてくるクリスマスキャロルが、今まで耳も貸さなかったはずなのに


大音量で聞こえてくる。待ち合わせの時間までは十分ある。


手が冷たい。ふぅーふぅーと息をあてて温める


どこか落ち着かない、見渡すとカップルで賑わっている。


目の前にはクリスマスツリーが飾られている。カップル達が写真を撮りあったりしている。


ふと目の前に、タクシーが停まる。


下りてきたのは、山本君。


「蓬田さんの待たせてごめん。車が出せなくて急遽タクシーで」


ドアから出てきただけの「かい」は、珍しく息を切らしていた。


「…あの…山本君…大丈夫…ですか…」


「大丈夫、道が混んでいて、家から車出しても大きいから進まなくて」


「タクシーに乗り換えて来た」


香織は思わず微笑んでしまった。今までの何かが吹っ切れたように。


あの山本君が慌てる事なんてあるんだと、目の前の彼を目の当りにして、クスっと声に出して笑ってしまった。


「食事まだだよね?」

まだ慌てている様子の山本君を見ていると、なんだかとても可愛い感じがしてしまい、頬がにやけてしまった。


「…はい」


「いこう!」


手を繋ぎ、街中のイルミネーションを潜り抜け、お店に着いた。


山本様でございますね。ご案内いたします。


ディナー中


海外に何故行ったのか、実際に婚約者は同行していなかった事、海外で何をしてきたのか


何故連絡が取れなかったのか


全てを話してくれた。


香織は、お料理の味より、涙が止まらず


私のために、山本君が頑張ってくれたんだ。


誰とも連絡を取らずに、たった一人で。

そう思うと、胸が張り裂けそうになり、涙は止まらなかった。



「…ありがとうございます…」


涙は全く止まりません。


「もう、泣かないで蓬田さん」


「いや、香織」


「全て、解決したから」


ジャケットから何かを取り出した、嘉位。


そっと、香織の前に、すっと、跪く。


香織は涙が止める事は、出来なかったが、山本君が跪いているのはもちろん瞳に移りこんだ。


しずかに、立ち上がり、山本君の手を取った。


涙は止まらない。


嘉位の手のひらには赤い箱があり、彼はそっと開けた


ダイヤモンドの指輪である。


香織の涙は、いっこうに止まらない。もう、考えがまとまらないというのが正しい。


今まで辛かった事が、全て私の為に山本君が頑張ってくれたことだけをとっても涙がともらないのに


指輪を観て、涙がとまらなくなる


「受け取ってくれますか」


「…はい…」


「一生幸せにします。僕と結婚してください」


もう、涙を止めるすべはなく香織は・・・壊れそうな小さな声で



「…はい…」


と、答え、左手を出しだす。


まるで映画のワンシーンであるかのように、


夢のような時間



香織の薬指に輝く指輪


嘉位も安堵したかのように、深呼吸をして席についた。


僅か数分にも満たない間であったが、とても長い時間に感じ、又とても短い時間にも感じた。


うれしさで、うれしさで、涙が止まらない。


嬉しくて嬉しくて泣いたのはこれが初めて。


嘉位は、やさしく「ありがとう」


と言ってくれた。



最高のクリスマスを迎えた二人であった。


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