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第一〇話:四日目、お弁当、かいが かおりを食堂に誘う

<この誘いが、私の運命を大きく変えることになるなんて、まだ知らなかった。>


通常授業が始まった四日目。午前中の授業を通して、蓬田香織よもぎだ かおり山本嘉位やまもと かいの異端ぶりを改めて目の当たりにし、彼との距離を感じていた。数学の授業で先生の間違いを指摘し、周りの生徒たちを驚愕させた「かい」。彼の才能と存在感は、香織の平凡な日常とはあまりにもかけ離れていた。


昼休みになり、教室は一気に賑やかになった。生徒たちはそれぞれ持ってきたお弁当を広げたり、購買部へパンを買いに行ったりと、思い思いに時間を過ごしている。香織は八重と一緒に、教室の窓際の席でお弁当を食べることにした。


「いやー、今日の数学、すごかったね! いきなり、教室に入ってきて、まさか先生の間違いを指摘するなんてさ! しかも、あんなに分かりやすく!」八重は感心した様子で話す。

「うん…」香織は曖昧に頷いた。

「あれが山本嘉位かー。やっぱ、なんか違うね。オーラっていうかさ」

「…そうだね」


八重はバスケ部の話題に戻り、楽しそうに話している。香織は八重の話を聞きながらも、「かい」のことを考えていた。彼のあの数学の才能。あれだけ頭がいいのに、どうして自分なんかに興味を持つんだろう。


お弁当を食べ終え、八重は購買部へデザートを買いに行くと言って席を立った。香織は一人で席に残る。教室のざわめきを聞きながら、ぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。


その時、教室の扉が開いた。入ってきたのは、山本嘉位だった。彼は迷うことなく香織の方へまっすぐ向かってくる。香織は思わず息を呑んだ。なぜ、ここに?


「蓬田さん、ちょっといいかな?」と「かい」は香織の席まで来ると、声をかけた。

「は、はい…」香織は緊張しながら答える。


周囲の生徒たちが、一斉に香織と「かい」に視線を向ける。教室のざわめきが、少しずつ静かになっていく。また、注目されてしまう。香織は顔が熱くなるのを感じた。


「もしよかったらなんだけど、一緒に食堂に行かない? ちょっと、話したいことがあって」


突然の誘いに、香織は戸惑った。食堂? ここで話すのではなく? しかも、二人きりで。


「え、あ、でも…お弁当、もう食べちゃったし…」香織はなんとか断ろうとする。

「いいんだよ、食べる必要はないんだ。ただ、少し静かな場所で話したくて」

「…でも…」


「かい」は香織の様子を見て、少しだけ真剣な表情になった。「もしかして、迷惑かな?」


その言葉に、香織は何も言えなくなった。迷惑。そうではない。ただ、どうしていいのか分からないのだ。彼のような存在に、こんなにも気軽に誘われるなんて。


「あの、少しだけなら…」香織は小さな声で言った。断りきれなかった。彼の真っ直ぐな視線に、弱い自分を自覚する。


「ありがとう! じゃあ行こうか」


「かい」は嬉しそうに微笑むと、香織に手を差し伸べた。香織は一瞬ためらったが、意を決してその手を取る。彼の指先が、少しひんやりとしていた。


二人が席を立つと、教室中の視線が二人に集まる。ひそひそ話が聞こえてくるような気がした。香織は顔を伏せながら、「かい」と一緒に教室を出た。


食堂へ向かう廊下を歩きながら、「かい」が香織に話しかける。「数学の授業、聞いててくれた? ちょっと先生には申し訳なかったんだけど、廊下越しに、どうしても気になっちゃって」

「うん、聞いてた…すごいね、山本君」

「そんなことないよ。蓬田さんだって、勉強できるって聞いたし」

「え?!」香織は驚いて「かい」を見る。なぜ、彼が自分の勉強のことまで知っているのだろうか。

「八重さんから聞いたんだ。かおりは勉強ができて、書道とか料理とか、色々な特技があるって。すごいなって思ったよ」


八重が自分のことを話していた。それにしても、彼の情報の早さにも驚く。


食堂に着くと、多くの生徒たちで賑わっていた。二人は席を探し、少し離れた空いているテーブルに座った。周りの視線が気になるが、「かい」は全く気にする様子もなく、自然な笑顔で香織に向き直った。


「あのね、今日、蓬田さんに話したかったことなんだけど…」


「かい」の言葉に、香織はゴクリと喉を鳴らした。いよいよ、本題だ。



二人だけの昼休み。

その一歩が、やがて想像を絶する物語の始まりになるとは、誰も知らなかった。

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