3.踊るは火の戯れ②-4
見捨てられなかった。
炎に包まれ、命を失いそうになる子供。猛火も、噴き出さんとする神力の荒々しさも、どちらか一方でも命を塵と化す。
迷っている暇はなかった。
後悔はしてない――いいえ違う、後悔しないために走った。
子供が死ぬくらいなら……あたしは……。
「アディ!」
「おねえちゃん! 見ていてくれたんだ!」
「ええ見てた、見てたけど説明している時間はないわ! ここを離れるわよ!」
儀式に対してなにも疑問を抱えていなかったであろう。そんなアディが満面の笑みを浮かべる。
「アディを助けてくれるの?」
「そうよ、今ならまだ間に合う! あたしを掴んで!」
「ありがとうおねえちゃん!」
アディは大切な人形を片手にロフティの首元を抱くように腕を回した。
――ほんとは離してほしいけど仕方ない……!
人形はかけがえのない友達だ。火の山に置いていくのはアディにとって友達だけ残して置いていくのと同義だろう。幸いこの少女の体躯なら軽く抱えられる。
「いい? しっかり掴んで――!」
「おねえちゃん」
アディは耳に顔を寄せた。
まるで火の熱さを忘れるほどの抱擁。その安心するぬくもりは、胸に灯ったかのような熱になる。
そしてその熱は、猛火となった。
「っ――!」
突然、背中に痛みが走る。それは激痛となり胸は熱と共に脈を打つ。
ロフティは背中を確認しようとして、だがすぐそばにあるアディの顔から目を外せなかった。
頬を紅潮させたアディは、潤んだ綺麗な目で、甘い吐息のかかる近さでロフティを見つめていた。恋をしているように、いや、愛しているように。
まるで恋愛映画のワンシーンのような、心臓が跳ねあがる。
「アディ……?」
ぞっとして、熱さとせめぎ合う激しい悪寒がして、ロフティは思わず名前を呼んだ。呼ばれた少女は、嬉しそうに目を細めた。
「おねえちゃんが助けに来てくれて嬉しい。アディを大切だって想ってくれて……命を張ってくれて……」
アディは背中に回した手にぎゅっと力を込めた。
火の手はもうすぐ傍まで迫っているというのに、ここだけ時が止まっているかのようだった。永遠が続きそうな、そう錯覚させられる中でアディは囁いた。
「でも置いて行ったよね」
「――⁉」
ドクン、と、熱と脈が強く跳ね上がった。
「殺した人を忘れて自分勝手に生きて死んで逃げて死んで。挙句の果てに逃げて逃げて逃げて。でもアディを助けることは戸惑わなかったね。ううん、誰かと面影を重ねちゃっただけなのかな。それでも嬉しい」
熱い、痛い、苦しい。呼吸が激しい、だが肋骨を動かす度に激痛が襲い、呼吸がままならない、ずっと、ずっと苦痛が思考と体を蝕んでいく。
「あ、アディ……? いったい……あなたは……」
朦朧としてくる視界の中で、彼女の面影はふたつに分かれて笑顔を浮かべた。
「ずっと逢いたかったの、わたしの抱いたひとかけら、わたしから離れたひとかけら」
「そう、ずっと、ずうっと、あなたごと抱きしめたかったの」
「「ああ、おかえりなさい、わたしのひとかけら」」
二人の赤い髪の少女に抱かれると、視界が真っ赤に染まった。
痛いのか熱いのか、それらはもはや一緒くたになっていく。
肺に残った酸素すら燃え尽きて、息苦しさだけを残し、意識を手放した。




