『アツアツお風呂のだるま湯屋さん』
♨ひだまり童話館「開館10周年記念祭」企画参加作品です。
♨「アツアツな話」のお題で書かせていただきました。
ここはみんなのお風呂屋さん。
その名前は「だるま湯」。
アツアツなお風呂が有名なお風呂屋さんです。
今日も店主のだるまさんが玄関口に暖簾を掛けて、お風呂屋さんの始まりです。
まずやってきたのは、旅をしているというかめさん。
一番風呂に入ったかめさん。
ちゃんと掛け湯をして、片足からそろりと湯船に入ります。
「ふー、アツアツでいい湯だな~」
ほっこりとした表情で甲羅までお湯に浸かります。
「あー、いい湯だった。だるまさんありがとう」
「あいよ、またいらっしゃい!」
次にやってきたのは、アヒルの親子。
アツアツなお風呂屋さんにいつも来ている常連さんです。
「くわっくわっ、さあみんなお湯に入る前にちゃんとお湯で体を流してね」
「はーい、ママ」
掛け湯をしてから、そろそろとみんな片足から入ります。
「あつい!」
「アッチチ!」
「でも、気持ちいい~」
アヒルの親子はホカホカになるまでお風呂に浸かると、仲良くお風呂の歌を歌って帰りました。
お風呂屋さんにお客さんは次々やってきては、アツアツお風呂に入って帰ります。
みんな心も体もほっかほっかになって紅いほっぺたのお顔はすっかり笑顔です。
さあ、そんなアツアツのお湯に浸かろうと赤鬼さんと青鬼さんもやってきました。
二人はちゃんとお風呂のルールを守りながら、ざぶん! とお湯に浸かりました。
大きな体の二人ですから、浴槽の端からざっぷんとお湯がこぼれました。
「いやあ、いい湯だなぁー」
「さすがだるま湯さんだ。お湯がアツアツだ」
肩まで浸かりながら赤鬼さんと青鬼さんは二人揃ってふぅ~、と息を吐きました。
周りのお客さんたちが入れ替わる中、二人はまだお湯に浸かっています。
こんなに熱いのに大丈夫なんでしょうか。
でも見てみて、赤鬼さんと青鬼さんのほっぺたが段々紅くなってきましたよ。
「はは、さすがにアツアツだからなのぼせそうだよ」
青鬼さんが笑いながら言いました。
そしてよいしょ、と立ち上がろうとします。
「いや、わたしはまだまだお風呂に入っていられるぞ。青鬼くんは我慢弱いなぁ」
赤鬼さんがわっはっは、と大きな声でからかう様に青鬼さんに向かって言いました。
弱いと言われ頭にかちん、ときた青鬼さんはそのまままたお湯にざぶんと戻りました。
「いやいや、わたしだってまだまだ大丈夫ですよ。あと三十分だって平気です。赤鬼さんお先にどうぞ上がってください」
今度は赤鬼さんの頭がかちん、となりました。
「はっはーん。わたしだってまだまだまだまだ平気だぞ。あと一時間だってへっちゃらだぞ。青鬼くんこそお先にどうぞ」
「赤鬼さんこそお先にどうぞ」
「青鬼さんこそお先にどうぞ」
かちん、かちん、お互いの言葉のやり取りはますます激しくなっていきました。
むむむ、と鬼の二人はにらみあって
「よし。どちらがアツアツお風呂にずっと入っていられるか我慢くらべだ!」
「受けて立とう! 負けても泣くなよ!」
とうとう意地の張り合いが始まりました。
二人とももうお顔が真っ赤っかなんです。
なのに、首のぎりぎりまでお湯に浸かっています。
赤鬼さんの赤いお顔はますます赤色になり、青鬼さんなんかお顔の色が赤鬼みたいに真っ赤です。
それでと二人はまだお湯に浸かっています。
周りのお客さんも心配そうに二人を見ています。
とうとう二人が入ってから三十分が過ぎた頃。
「何だか目が回ってきた~」
「ぐるぐるする~」
二人はざぶんと同時に立ち上がって、すぐに近くの水風呂に飛び込みました。
「ああ~」
「あー」
のぼせる寸前までだったことも忘れてスッキリした顔の赤鬼さんと青鬼さん。
この後、二人はお湯屋のだるまさんにうんと怒られましたとさ。
~おわり~
お読みくださり、本当にありがとうございました。