四つ目のカテゴリー
鉱山の村へと続く山道を少し下ったところに、南へと抜ける獣道が現れる。
その先は闇が深い樹海のようになっている大森林だった。
鉱山の村は公国から南へと続くエーデンフォレス山脈の西側に作られた村で、山の中腹の木々を伐採し、土砂を削って人工的に平たく整地した土地に作られている。
そういった立地条件にあるため、この鉱山の村へと続く山道も土砂を堆積させたり、元々あった山を削って作られたりしている。
その関係上、本来、山の周囲に広がっていた森は一続きだったのだが、山道によって二つに分断されることになった。
今俺たちが向かっているのは、その分かたれた南側の森、ということになる。
ちなみに、北はかなり木材を削っているせいか、開けた場所も多いらしいが、南は手つかずらしい。
しかも、例の魔獣大量発生の一件以来、どうも、南の森は入るのを躊躇うぐらいに濃密な闇が支配していた。
「これはどう考えてもやばいよな、この森」
「そうね。なんだか先程から粟立つような感覚に襲われているわ」
先頭を一緒に並んで歩いていたイリスが抜剣した長剣を片手に、周囲を警戒しながらそう応じた。
今この場には、俺とイリス、ナーシャとぽこちゃん、それからエルレオネの四人と一匹がいる。
本当ならナーシャのような幼子を連れてくるべきではない。しかし、色んな意味で、村長のところに残してきた方が危ないような気がしたのだ。
俺たちがこの森で探索中に万が一、追手がこっちに来てナーシャが拉致されてしまったら目も当てられないからな。
「エルレオネ、いつもすまないが、ナーシャのこと、頼んだよ」
「えぇ。お任せください。二度と、泉での失態は繰り返しません」
黒髪メイドさんはそう言って、俺たちや彼女の間に挟まれるようにして歩いていたナーシャを見下ろした。
ちびっ子はフードを被った状態のまま、頭にぽこちゃんを乗せて歩いている。
――また暴走して飛び出したりしなければいいんだけどな。
俺は妖精の泉での戦いを思い出して、胃が痛くなった。
一応釘は刺してあるからもう勝手な真似はしないと思うのだが、イリス並みに猪突猛進に敵を倒しに行かれたらと思うと気が気でなかった。
「それにしても暗いわね。本当に今は昼前なのかしら」
「確かにな。村に着いたときには昼にはなってなかったし、今日もよく晴れているから明るいはずなんだけどな」
俺は上を見上げた。
この南の森林は鉱山の村がある場所よりも十メートル以上低い位置にある。
東側――向かって左側は山肌となっていて、そちら側へ行けば行くほど暗くなる。
右側は右側で、どこまでも太い木々が立ち並び先が見えない。
上もほとんど空が見えないぐらいに鬱蒼と生い茂った樹木が天へと伸びていた。
これでは地面に光が差さなくても当然である。
「おまけに結構草とかも生えているしな。歩くのがやっとといったところか」
俺はほとんど草で覆われて見えなくなっている獣道を歩きながら、手にした長剣で雑草を薙ぎ払った。
ザッと小気味よい音を立てて、なんの抵抗もなく草が刈り取られていく。
恐ろしいほどの切れ味だった。
以前までの剣もそれなりによく切れたのだが、量産品だからか、イリスが手にする王家代々伝わる王者の剣に比べたらゴミみたいなものだった。
しかし、今は違う。強化されて神聖剣グラムシュナイデンとなった新生剣は明らかに別物の存在へと進化していた。
「本当に凄いな、これ。精霊の力が宿るとここまで凄くなるのか?」
俺は一人感心しながら歩き続けた。
精霊と妖精の力が宿った剣。魔力のような力で剣刃が覆われているだけでなく、金属の中にまで俺のスキルによって、それが埋め込まれている。
おそらくその事実が、この武器を一級品に仕上げてしまったのだろうが――
「あ……そうだ。すっかり忘れてたけど、あれがあったな……」
精霊で思い出したが、俺はふと、大事なことを忘れていることに気が付いた。
「ん? どうしたのかしら?」
「いや、新しいカテゴリーが追加されたなってね。彼らの力を借りれば、この森も進みやすくなるんじゃないかと思ってね」
「なるほどね。いいんじゃない? 試してみれば」
そんなことを言いながら、目を細めて口元に笑みを浮かべるイリス。
この女王様は王家スキルで俺がどんな力に目覚めているのか、既に知っているからな。まるっきり驚く素振りすら見せない。それどころか、いつものニヤけ顔を浮かべていた。
「んじゃまぁ、少し試してみるよ」
俺はそう宣言して立ち止まると、右手を前へ突き出し、女神スキルを強く意識した。
すぐに四つの子カテゴリーが浮かび上がる。
『真眼』『事象変化』『結晶錬成』
そして、もう一つの新しいスキル。
それが『精霊神術』だった。
女神スキル『世界龍の円環』の子カテゴリーの一つ。
土地土地に住まう精霊たちの力を借りられる、古の時代に失われたとされる精霊魔法に似たようなスキルだった。
太古の昔には精霊魔法を始めとした現代では再現不可能な古代魔法なども多数存在したらしいが、この時代に使えるものは誰もいないとされている。
世界各国が保有している古文書などにそのことが記されているだろうから、もしかしたら魔法に特化した能力を持っている皇后のあの人なら使えてもおかしくはないだろうけど、ともかく、そういった力の一端を、俺は妖精から授けてもらったのだ。
――まぁ、これだったら魔法技能がまったくない俺でも扱えそうだしな。
魔力は消耗するかもしれないが、このスキルは精霊魔法に近いからな。俺が失った通常魔法に使われる魔法技能とは根本的に違うはずだ。
俺はそんなことを考えたあと、意識をスキルへと集中した。
もしこの森の中に現在は不可視の存在となっている精霊たちが眠っていて、なおかつ俺の力が本物であるならば、俺の召喚に応じて出てきてくれるはずだ。
「頼むぞ、精霊たちよ」
俺は体内に宿る魔力を右腕へと集約させていくようにイメージを高め――そして、
身体中を駆け巡るエネルギーが一気に腕先で爆発したかのような感覚に襲われた次の瞬間、周囲が文字通り、昼の様相へと変わっていった。
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