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宴の終わり

 ――その日の夜。


 村人総出でナーシャの将来を祝ってもらったあと、いきなり妖精が出てきて世界の終わりを告げられたり、あまり口外しない方がよさそうな新しい四つ目の力に目覚めたり、スキルが進化して念願の武器強化も果たせたりと、予想外の出来事が連続して起こってしまったが、そのあとはすべて、順調に予定されていた行程通りに執り行われていった。


 昼時までは宴の準備が進められ、昼からは例によって広場で飲めや歌えやの大騒ぎ。

 広場各所に設けられた椅子には村人が顔を赤くしながら座り、歓談に花を咲かせていた。

 その話題の中心はなんと言っても、精霊のことだろう。

 今この村に住んでいるすべての村人は、実際に精霊の姿を拝んだことなどなかったのだ。


 それなのに、村の古い伝承でしか語られていなかった存在が目の前に現れて、半信半疑だった者たちも信じざるを得なかっただろう。

 それほどの珍事だったのである。

 しかも、妖精まで現れた。

 あのとき泉にいたのは村長と俺たちだけだったが、おそらく村長が村人たちに話したのだろう。

 その話題で持ちきりだった。


 当然、そんな数百年振りの奇跡を引き起こした祝祭の祈りで祝福を受けたナーシャは、村人たちから感謝されたり、大仰なまでにお祝いされたりした。

 もはや、神の使いなのではないかと言いたげな村人たちまで出る始末。

 悪ふざけもあっただろうが、地面に跪いてナーシャに祈りを捧げ始めた村人たちに、当の本人は本当に楽しげに笑っていた。


 そうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていき、辺り一面に夕闇が下りていった。

 名残惜しい気持ちもあったが、村人たちは最後に盛大な拍手をし、ナーシャが将来、幸せになれるようにと精一杯祈って、宴は終了していったのである。



「こんなにも穏やかな時間を過ごしたのは子供のとき以来かもしれないな」



 夕飯も終わり、泊めてもらっている女主人の家でくつろいでいると、



「そうかい。あんたらは何やら訳ありの旅をしていそうだし、骨休めになったんだったら何よりだよ」



 居間に置かれた長椅子に座っていた俺の元へ、エルレオネと一緒にお茶を持ってきてくれた女主人。

 俺は苦笑した。



「本当に何から何までお世話になりました。お陰様で、いい思い出作りができました」

「いいって、いいって。お礼なんて言いっこなしだよ。むしろこっちが礼を言いたいくらいさ。この村はホント、大分過疎化が進んでしまってるし、もうあの儀式はできないって諦めていたぐらいだからね」

「そうだったんですね」

「あぁ。だけど、あんたたちのお陰で、死ぬ前にもう一度、あんなにも素晴らしい儀式をすることができて嬉しいったらないよ。しかも、精霊様まで見れるなんてね。死んだ旦那にあの世で自慢できるってもんさ」



 終始明るく笑う女主人に、俺の隣で座っていたイリスがニヤッと笑った。



「まだお若いんですから、今から向こうに行く準備していたら、旦那様に一生こっち来るなって言われてしまいますよ?」

「あはは。違いない!」



 そうして、二人して声を上げて笑い始める。

 女主人の旦那さんは数年前に病でこの世を去っているらしいので、そのときからずっと、彼女はこの家で一人だったそうだ。

 だからだろうか。

 俺たちの訪問を心から歓迎してくれたのかもしれない。



「お兄たま」



 そのとき、ぽこちゃんと戯れていたナーシャが、当の黒いスライムを胸に抱いて、俺の背後にてくてく歩いてきた。



「うん? どうした?」

「うん~~。ナーシャ、お風呂に入りたいでしゅ」

「あぁ……もうそんな時間か――イリス、入れてあげなよ」



 俺は隣を見てそう、声をかけたのだが、



「ちがうでしゅ! ナーシャ、お兄たまに頭あらってもらいたいでしゅ!」



 そう言って、頬をぷく~~っと膨らませてしまった。



「え……? 俺……?」

「うん~~! ナーシャ、お兄たまと一緒に入りたいでしゅ!」

「マジか……いやまぁ、別にいいんだけど……だけど、なんでよりによって俺?」



 俺は冷や汗かきながら、盗み見るようにイリスを一瞥したのだが、彼女はまったく気にした素振りも見せずに茶をすすっていた。そして、



「フレッド?」

「な、なんだ?」

「ナーシャが一緒に入りたいって言ってるんだから、入れてあげなさいよ」

「え? いや、でも、お前……」



 なんだか非常に嫌な予感がした。こいつ、今までだと、こんなちっちゃな女の子相手にすら嫉妬心剥き出しにしていたからな。

 それなのに、風呂だぞ?

 今からナーシャを風呂に入れるという話をしてるのに、まったく動揺しないどころか、さっさと入れろとか。


 こいつ、絶対、何か企んでいるに違いない。

 俺は徐々に全身から血の気が引いていくのがわかったが、そこへ、止めとばかりに、



「フレッドさん? 妹さんが入れて欲しいって言ってるんだから、さっさと入れてあげなさいな」



 そう、女主人がニコニコしながら死刑宣告をするのであった。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

とても励みとなりますので、【面白い、続きが気になる】と思ってくださったら是非、『ブクマ登録』や『★★★★★』付けなどしていただけるとありがたいです。

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