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激おこ女王様パート2

【女王様サイド】

 秘密裏の会談を終えて、表の執務室へと戻ってきたイリスレーネは、瞬間的に嫌な気分となった。



「宰相閣下殿……」

「おお、これはこれは陛下、お待ちいたしておりましたぞ。どこへ行かれておいでで?」



 齢五十八になる白髪赤瞳(はくはつしゃくどう)の男。宰相や摂政の立場を利用して、かつて、五公爵家筆頭だったラーデンハイド公爵家を追い落として今や王国の頂点に君臨する権力者。

 その力はおそらく、弱体化された今の王家よりも上だろう。



「どうかされましたか?」



 イリスレーネは表向きの顔を浮かべて、広い執務室に置かれた王者の椅子へと腰かけた。

 リッチ宰相は執務机越しに腰を折る。



「はい。まずはお礼をと思いましてな」

「礼?」

「左様で。先日は私めの提案を受け入れていただき、感謝の言葉もありません」



 そう言って、にんまりと笑う宰相。

 それを見たイリスレーネの顔からは一瞬のうちに余裕の一切が消え去っていた。



「ふざけないでちょうだい! あれは丁重にお断りしたでしょう!?」



 思わず立ち上がって、両手でバァンっと机を叩いてしまう。

 ヴァルトハイネセン王家は元々が戦闘民族として知られており、常人よりも身体能力が高い。

 更に、イリスレーネは女神スキル『剣姫』まで授かっている。


 一般的に、戦闘系スキルを手に入れた者たちは、その恩恵を受けて身体能力が強化されると言われている。

 そのため――

 ミシッ。


 渾身の力を込めて叩かれた執務机が今にもヒビ割れそうな嫌な音を立てていた。

 しかし、鬼のような形相を浮かべるそんな女王を前にしても、宰相の表情から笑みが消えることはなかった。



「おわかりくださいませ。すべては陛下の御為にございます。そして、栄えあるこのヴァルトハイネセン王国が更なる繁栄を掴むため――いやはや、めでたいですなぁ。さぞや我が愚息も喜んでいることでしょう。何しろ、陛下のことを大変お慕い申し上げておるようですからな」



 リッチ宰相は終始ニヤニヤしながら、



「それから陛下? あまりおいたが過ぎますと、火傷することになりますぞ? くれぐれも火遊びはお控えくださいませ。でなければ、可愛い可愛いあのお方まで大火傷しかねませんからな」



 それだけを言い置き、ガルガリオス・アーザスター・リッチ宰相は顎髭撫でながら出ていった。

 一人呆然と佇むことしかできなかったイリスレーネは、最後に憎たらしいあの男が言い残した言葉の意味を理解して、無意識のうちに身体(からだ)が震えてきてしまった。



「ナーシャ……!」



 大切な大切なかけがえのない唯一の肉親といっても過言ではない幼子。

 彼女の身が危険に晒されるかもしれないと思い、イリスレーネは慌てて飛び出していこうとしたのだが、そこへ――



「お姉たまぁ~」



 いつもニコニコした笑顔を浮かべている件の幼子が、重そうに扉を開けて中へ入ってきた。



「ナーシャ!」



 元第三王女で、現在はイリスレーネが女王の座についたことで王妹殿下となっている五歳の女の子。アナスタシア・ヴァルトハイネセン。近しい者に自らナーシャと呼ばせている女の子。



「お姉たま?」



 膝をつくような格好で勢いよく抱きついてきた姉に、銀髪サイドツインテの幼女がぽかんとする。



「ナーシャナーシャナーシャ……!」



 泣きながらただそれだけを叫ぶように呟いている姉に、何を思ったのか、アナスタシアはニコニコしながら、



「よしよし、いい子でしゅね~~。泣いてはいけませんよぉ~?」



 そう言って、姉の背中やら頭やらを撫で始めた。しかし、それもほんの少しの間だけ。すぐにそれを止めてしまうと、



「あ~! そうでしたぁ! ジークたんがお姉たまを呼んでるでしゅよ!」



 大きな翡翠色の瞳を目一杯見開くと、彼女は腕を左右に開いてバタバタさせた。



「え……? ジーク……?」

「うん~~~!」



 愛らしいニコニコ顔を浮かべる幼子に、イリスレーネはただ泣き濡れた顔で唖然とするだけだった。




◇◆◇




 王城深くに作られた巨大なうろ

 そこには白銀の鱗に全身が覆われた巨大な何かがいた。

 人々に神と恐れられることもある生物。


 彼女はただ、そのときが訪れるのをじっと待ち続けていた。

 自身に課された盟約を果たすために。


 そして――



「来たわよ、ジーク」



 その場に現れた白銀の髪が美しい少女二人。

 眠るように地につけていた巨大な頭をもたげる白銀の古代竜。


 彼女は目の前の少女二人を見て、目を細めた。



(来たか。ヴァルトハイネセンの血を継ぎし者たちよ)



 脳に直接語りかけてくるような声を発する巨大な竜。

 そんな彼女の声が聞こえたのかどうかは定かではないが、背の高い方の少女はただニヤリと笑うだけだった。


 イリスレーネ・ヴァルトハイネセン。

 現ヴァルトハイネセン王国女王の座についている少女の瞳には既に涙の欠片もなかった。


 あるのは女王の威厳と、そして何かを秘めた決意だけだった。

拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます!

『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。

皆さんの応援が、執筆の励みとなっておりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑

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