事後処理1
すべての邪霊を倒し、更に燃え広がってしまった炎を鎮火させてから、村の中へと戻ってきた俺たち。
事後処理をすませたあとも念のため、泉周辺を調査してみたが、めぼしい発見は得られなかった。
その代わり、邪霊すべてがいなくなり周辺一帯からおかしな気配がなくなったあと、俺たちは不思議な光景を目の当たりにすることとなった。
「光っている……?」
予備で持ってきていたたいまつに火をつけ、元通りの数の明かりに周辺一帯が照らされる中、明らかにそれ以外の光源が泉周辺に現れていたのである。
赤や黄色や白、それから青や緑といった大小様々な光が泉の上や森の中を浮遊していた。
その姿はまるで、伝承で語られている精霊そのものだった。
「……あれ、多分、本当に精霊よ。信じられないかもしれないけれど」
王家スキルで正体を突き止めたイリスがそんなことを言っていた。
なぜ、今はもう見えないはずの精霊が突然見えるようになったのかはわからない。
もしかしたら、シェード・アンタレスを倒したことで、一時的に太古の昔と同じようななんらかの条件が揃って見えるようになったのかもしれないが、特殊能力を持っている俺もイリスも、その辺のことまでは見抜けなかった。
しかも、精霊が見えていたのはほんの数分間だけ。次第に光が弱まっていき、最後は完全に姿を消してしまった。
「ひょっとしたら、これは何かの予兆なのかもしれないな」
「予兆?」
「あぁ。安直な考えかもしれないけど、俺たちの行く先々に明るい未来が待っているのかもしれないっていう」
ナーシャを抱っこして隣に立っていたイリスに笑顔を向けた俺に、彼女はきょとんとするだけだった。
◇◆◇
「なるほどの。そのようなことが。いやはや。何はともあれ、皆さん方には随分と世話になってしまったの。これで明日の祝祭の祈りは無事、行えそうだの」
女主人の家で俺たちの帰りを待ってくれていた村長に事の次第を報告した俺たち。
結構派手に森の木を燃やしてしまったことについても話しておいたが、特に怒られることもなく、むしろこれ以上ないほどに感謝されてしまった。
まぁ、あれを引き起こしたのは俺じゃなくてぽこちゃんだけどな。
俺はあのとき、ぽこちゃんたちとは逆方向でシェードを駆逐していたから、何が起こっていたのかいまいちよく理解していなかった。
そこで、色々事情を聞いてみたところ、ぽこちゃんが放った溶解液が原因だと判明したのだ。
『ニトロソリュート』
それがあの溶解液の正式名称らしい。
以前、リヨンバラッドの宿屋でも目撃していたから、爆発を伴う溶解液攻撃を使えることは知っていたけど、あのときは非常時だったので調査している暇がなかった。
それに加えて、最初にイリスがぽこちゃんを王家スキルで確認したときには、あのスキルの詳細があまりよくわかっていなかったので性能自体も不明だったのだ。単純に、溶解液であり、反転属性効果があるというだけ。
なので、改めて王家スキルで綿密に解析した結果、とんでもなく危険な代物だと判明した。
引火性がとても高く、一度火がつくと、超高エネルギーを発生させて一瞬にして爆発させてしまう代物らしい。
本来であれば、普通のスライム同様、ものを溶かしてしまうだけの攻撃なのだが、火の側でこれを使用しようものなら大惨事を引き起こしかねない。
そこに反転属性効果が関係しているのかどうかはわからないが、ともかく、それほどに危険性を伴う攻撃だったのだ。
しかも少量でもかなりの火力を伴う爆炎攻撃ときたもんだ。
「だからあれだけ、一気に燃え広がって爆発したんだろうな。これはもう、今後、火のある場所では使わせない方がいいだろうな」
俺は土間から居間へと上がるちょっとした段差の上に腰を下ろして、ぐったりしていた。
既に時刻は二十一時を回っている頃だろうか。
ナーシャは相変わらず元気で、居間の上をぽこちゃんと一緒にぴょんぴょん飛び跳ねている。
エルレオネは俺の前方にある炊事場で女主人と何やら話しながら作業していた。
「そうね。でもまぁ、状況によってはかなり強力な武器にはなると思うけれど」
隣に座っていたイリスもいつになく真面目な顔で呟いている。
俺も彼女も、あの炎によって発生した煙やシェード操る木人のような大樹から放たれた樹液によって、大分すすけた状態になっていた。
着ていた服のあちこちに穴が開いていて、結構ボロボロだ。
溶かされた皮膚などは、エルレオネが持参していた回復薬などでなんとか傷は塞がっているものの、失った体力はまだ完全回復していない。
「とりあえず、ぽこちゃんのことはいいとして、問題は明日だな。明日、無事儀式が終わったと仮定して、そのあと村を出立するとなると、随分遅い時間となってしまうか」
「確か、儀式はお昼頃に終わるって言ってたわよね?」
「あぁ。朝から泉で儀式を行って、そのあとは例によって村人総出で祝福の宴だったかな。本当は夜まで続くらしいんだが、さすがにもう一日ここに留まるのもどうかと思うしな」
「そうね。村の人たちはもう一泊していきなさいって言ってくれているけれど、私たちには時間がないしね」
いつまでに帝都に着かなければいけないといった予定は、今のところ存在していない。しかし、王国からの追手が迫っているという話だったから、悠長なことはしていられないのだ。
「だが、そうなると、次の宿場宿に辿り着く前に、途中で野営することになるんだよな」
俺たちが先日立ち寄った城塞都市バーレクの次に待っている町まで五日ほどの距離がある。
一日目は宿場砦を利用し、二日目はこの村。次は距離的に宿場砦を利用するのがセオリーだ。
そうすれば、その次の日も宿場砦を利用し、五日目に無事、次なる町へと辿り着ける。
しかし、逆に言えば、このスパンが狂ってしまうと、ことごとく野営しなければならなくなる可能性が出てくる。
「これまでの旅で結構おかしな連中に遭遇してるしな。暴漢騒動や今回のシェードのこと。どちらも、なんでそんな状態になっているかの根本原因がわからないから、なるべく野宿は避けたいんだよな。ひょっとしたら、原因となっているのがその辺にいる魔獣かもしれないし」
「そうね。それに、もし万が一、野宿しているところで追手に追い付かれたら、不意を突かれる可能性もある」
「だな。街中だったら奴らもそこまで表だって攻撃してくることもないだろうし、身を隠す場所もいくらでもあるけど」
そうなってくると、明日は多少無理をしてでも強行して夜間を走り続け、少しでも時間的ロスを減らす方がいいのかもしれない。
あるいは。
俺は背後を振り返ってナーシャを見つめた。彼女は床の上に女の子座りして抱き上げたぽこちゃんと何やら楽しそうに笑い合っている。
「あんな姿見ちゃうとな。儀式を中止して早朝から出立するなんて選択肢、俺には選べないな」
軽い溜息を吐いて天を見上げていたら、そこへ、エルレオネがやってきた。
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