三つ目のカテゴリー
まだ俺もイリスも十歳とかそのぐらいの頃だったろうか。
あの頃はまだ、現在帝都にいる姉さんが嫁ぐ前で、あの人は俺たちにとっては奇行としか思えないような行動ばかり取っていた。
そんな彼女に色んなことを吹き込まれたらしいイリスが、あの悪い魔法使いに影響されておかしな行動に出るようになったのは当然とも言える。
多分、そのせいでイリスはより一層おかしな性格になってしまったんだろうが、最近ではそれを見て、ナーシャまで真似するようになっている。
このままでは第三のイリスが誕生するのも時間の問題と思われた。
――この辺で軌道修正しておかないと、ホントに大変なことになるぞ?
こんなに可愛い幼女がおかしな妖女になろうものなら目も当てられない。
「とにかくだ。一旦落ち着けって。話はそれからだ」
俺は溜息を吐きながら、まとわりついていたイリスの頭を撫でてやった。
彼女は相変わらず物言いたげな不満顔を見せていたが、
「ふんっ。わかったわよ。今回だけは見逃してあげるわ」
そう言って、居住まい正して俺の横に座り直そうとしたときだった。
「きゃっ……」
車輪の下に小石でも入り込んだのだろうか。馬車が大きく揺れ、イリスがバランス崩して転倒しそうになった。
「危ない……! 大丈夫か?」
咄嗟に左手を伸ばして彼女の腰を抱きしめた俺。
「え、えぇ、なんとか……ありがとう」
イリスは気まずそうに笑いながら隣へと座る。
俺はそれを確認してから、ふと、自分の左手を見つめた。
なんだか酷く、反応速度が上がっているような気がしたのだ。いや、それだけではなく、力も。
少し前の自分だったら、彼女を支えるときに一緒にバランス崩して転倒していてもおかしくなかったのに、まったく体幹がブレることなく事なきを得ていた。
――これってもしかして、身体機能が強化されているってことか?
イリスが大人しくなったからか、ナーシャも俺の膝の上から退いて右側に座り直してぽこちゃんを膝の上に乗せていた。
そのお陰で自由になった右手の甲を目の前に持ってきて、眺める。
展開されていく女神スキルの紋章。大カテゴリーが消えて子カテゴリーである二つが描かれたが、知らない紋章がもう一つ浮かび上がっている。
――新しいカテゴリーか。
朝目を覚ましてから大分時間も経っているからか、かなり頭もはっきりしてきたお陰で、俺は昨日、自分がぶっ倒れる前のことを朧気ながらに思い出せるようになっていた。
意識を失う直前に見た大量に浮かび上がってきた女神スキルの紋章。
それらが思い切りブレて、見たこともないような数多の紋章が明滅していたように記憶している。
もしかしたら、新しく追加されたこのカテゴリーもそんな紋章の一つだったのかもしれない。
「ねぇ……」
一人物思いに耽っていたら、いつになく真剣な顔をしたイリスがじっと俺のことを見つめていた。
「ん? どうした?」
「昨日からずっと気になっていたのだけれど、本当に身体大丈夫なのかしら?」
「どういう意味だ?」
「だって、女神スキルが暴走したのよ? あんなの、私初めて見たわ。おそらく、王国始まって以来の大事よ。私の王家スキルでも見通せいないぐらい、あなたのスキルが普通じゃないってことも知っているし、だからこそ、心配なのよ。しかも――」
そこまで言って、更に食い入るように俺を――正確に言うと、俺が胸の前に上げていた右手を見つめてきた。
「なんだか、見慣れないものが見えているのだけれど?」
訝しげな瞳を向けてくる女王様。さすが、王家スキルを持つ彼女の目は誤魔化せないと見える。
俺は苦笑してから、
「まぁ、おおよそ、読み通りのことが起こってるみたいだよ。どうやら、スキルが追加されたらしい」
乾いた笑い声を上げる俺に、イリスは目を細めるだけだった。
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