汚染される団員たち3
【レンディルサイド】
どれだけ北へと向かったかわからなかったが、大分日も暮れ、夜の帳が落ちようかという時分になっていた。
レンディルたちは一足遅れて合流してきた他の追跡隊メンバーと落ち合って、野営の準備に取りかかっていた。
野営地に定めたそこは、辺り一面の荒れ地だった。
数百メートル東に離れたところには街道があり、西は岩山となっている、そんな場所だった。
背後を岩場にすれば、魔獣が襲ってきても、少なくとも全方位から囲まれることはない。
そう思っての野営場所だったのだが、
「れ、レンディル様!」
「あ? なんだ騒々しい奴だな」
大分怒りも落ち着いてきたからか、レンディルは岩場に背中を寄りかからせて、焚き火を前にぼ~っとしていたのだが、面倒くさそうに左手側から近寄ってきた仲間の一人を見た。
彼には周辺の索敵を任せていたのだが、そんな彼は焚き火の明かりでもわかるぐらい恐怖に顔を歪めていた。
「い、今すぐお逃げください! 魔獣が! 魔獣が――」
しかし、その声は最後まで続かなかった。
――どす黒い巨獣。
狼とも獅子ともつかない、よくわからない姿形をした魔獣。
ぱっと見は狼だが、顔と尻尾が獅子のようだった。そして極めつけはその胴体。
明らかに腐っているとしか思えないような見た目をしていた。
身体の一部が外気に晒されて中身が見えてしまっており、腐敗臭まで放っていた。
そんなおぞましい獣が、逃げてきた仲間の背後へと襲いかかり、頭から一飲みにしてしまったのである。
「な、なんだ、こいつはっ」
一気に騒然となるその場。
急いで臨戦態勢を整える彼らだったが、襲ってきた魔獣は人の二倍はありそうなほど、デカい図体をしているにもかかわらず、どんでもなく動きが速かった。
「ぎゃぁぁ~~!」
「ぐあぁぁ~~!」
「レンディル様~~!」
追跡隊隊長のレンディルを守ろうと、彼の前に出て勇敢に立ち向かっていった者たちが次から次へと魔獣の前肢によって切り裂かれて倒れていった――いや、倒れたと思った次の瞬間、いきなり彼らはおかしな動きをして起き上がったのである。
そして――
「ガァァァァ!」
耳障りな奇声を発して、なんの前触れもなくレンディルへと襲いかかっていった。
その姿はまるで、夕刻、町の中で暴れていたかつての仲間たちにそっくりだった。
「な、なんなんだこれは!? いったい何が起こった!」
振り下ろされた長剣をかわすため、慌てて後方へと飛び退くレンディル。
そんな彼の前に、
「クフフ。坊ちゃん、お下がりください。ここは俺にお任せを」
言うが早いか、ヒースは背中にしょった大剣を抜き放つと、横薙ぎに一閃した。
ザシュッという耳障りな音をさせ、暴漢と化した元仲間の三人が、たったの一振りで全員、真っ二つに切り裂かれていた。
レンディルはそれを、ただ呆然と眺めていることしかできなかった。
曰く付きの返り血を浴びることすら厭わず、ただひたすら愉悦に歪んだ笑みを浮かべながら躊躇いもなく仲間を惨殺した黒騎士。
彼は、更なる獲物を求めてこちら側へと突進してきた巨獣へと肉薄し、応戦し始めた。
甲高い金属音や獣の咆哮が上がる中、レンディルは徐々に切り刻まれて肉片へと変わっていくデカい魔獣以上に、幼少の頃から彼に付き従ってきたリッチ公爵家の影、セルフリード公爵家の次男坊に、吐き気を催すほどの嫌悪感を抱くのだった。
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