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汚染される団員たち2

【レンディルサイド】

「な……なんなんだ、これは……!」



 その現場に辿り着いたとき、あまりの惨状にレンディルは言葉を失ってしまった。

 町の噴水広場から北門へと続く大通り。

 そこには多数の死傷者が折り重なるように地面にうずくまっていた。


 血塗れとなって動かぬ骸と化した者。

 比較的軽傷だが、身体中から血を流している者たち。

 地面に倒れたままピクリとも動かないハンターに偽装した仲間。

 そして――



「お、おい! お前ら、何してやがる!」



 彼が見つめる先。

 門に近い場所で、化け物のように暴れ狂っている追跡隊のメンバーがいた。

 彼は複数の守備隊によって囲まれており、今しも斬り殺されようとしていたのだ。



「やめろっ。貴様ら何してやがる!」



 レンディルは叫び、守備隊らを退けるために駆け寄ろうとしたのだが、すべては遅かった。

 明らかに正気を失って大暴れしていた仲間の一人が、魔獣のような雄叫びを上げて、守備隊へと飛びかかっていった。

 彼を包囲していた者たちが素早くそれに反応し、一斉に斬りかかる。無残にもそこら中を切り刻まれた仲間の一人は、そのまま、地面に倒れていった。



「ビンス!」



 レンディルは惨殺された仲間を助けることもできず、ただ呆然とその場に立ち尽くしていることしかできなかった。

 しかも、彼の視界には他にも信じられないような光景が広がっていた。

 死亡したビンスだけでなく、他にも仲間の隊員たちが獣のように大暴れしていて、それらがすべて、町の守備隊たちによって殺されていってしまったのである。


 レンディルは開いた口が塞がらなかった。夢かとも思った。彼の目の前でただ何もなさずに死んでいくことしかできなかった隊員たち。彼らは誰もが醜く歪んだどす黒い顔をしていた。

 本当にあれは先程まで自分たちと一緒に行動を共にしていた連中なのかと、疑いたくなってしまうような見た目と言動だった。

 しかも、レンディルの目には、報告に上がっていた魔獣は一匹たりとも映っていなかった。



「おい! お前ら! いったいこれはどういうことだ!」



 暴漢と化した連中すべてが動きを止め、喧噪が収まり始めた頃、正気を取り戻したレンディルは死体の処理を始めていた守備隊の一人へと、足音荒く近寄っていった。

 そんな彼の声に気が付いた兵の一人が振り返る。



「えっと……失礼ですが、あなたは?」

「俺はこいつらの仲間だ! なんで貴様らはこいつらを殺した!」



 今にも殴りかからんばかりの勢いで守備隊員の肩を掴んで揺さぶるレンディル。



「レンディル様! 抑えてください!」



 そこへ、慌てて駆け寄ってきたゲールやハワードが彼を両脇から抑え込んだ。

 更に、騒ぎを聞きつけて別の守備隊員も近寄ってくる。



「なんだなんだ? いったい、なんの騒ぎだ?」

「あ、隊長」

「ん? ギーヴか。どうしたんだ、こいつらは」

「あ、はい。どうも、汚染された人たちの仲間だったようでして」

「ほう……そいつはなんとも……。気の毒だったというより他ないな」



 守備隊員と、どうやらその上司に当たるらしいこの町の守備隊長は互いに顔を見合わせ、なんとも言えない顔をする。

 そんな彼らを見ていたレンディルが更なる怒りに顔を赤くしたとき、遅れてこの場にやってきた黒騎士ことヒースがニヤけた顔をして二人に近寄ってきた。



「状況がよくわかりませんが、とりあえず、事情はお聞かせ願えるんですかねぇ? 一応あれでも、仲間だったものでしてね」



 そう言って彼は、取り押さえられているレンディルを見やった。その顔は相変わらず揶揄するように笑っている。

 守備隊員ギーヴは隣に佇む隊長ともう一度顔を見合わせたあと、彼が頷いたのを受け、口を開いた。



「実は最近、この町では流行病のような暴漢騒ぎが起こっていまして」

「ほう?」

「つい先日、一応、この暴漢騒ぎの原因の一つが判明したのですが、それが、ある種の毒によるものらしく、それに汚染されると皆、理性をなくして魔獣のようになってしまうらしいんですよ」



 そのあとを守備隊長が続けた。



「ただまぁ、毒っていうのは判明しているんだが、なぜそんなものに汚染されたのかまではわからんがな」

「なるほど。では、俺たちの仲間も、その毒にやられたと言うんですかい?」

「おそらくは。多分だが、オタクらの仲間は先程、暴漢となった汚染者に絡まれていてな。そのときに、どうも奴らを殺して返り血を大量に浴びたらしい。もしかしたら、それが原因なのかもな」

「つまり、汚染された血によって俺たちの仲間も汚染されたと?」

「そう考えるのが自然だろうな。まぁ、多少の返り血であれば問題ないんだけどな」



 隊長はそう締めくくった。



「ともかくだ。奴らはああなったらもうどうしようもない。殺すより手立てはないのだ。だからとは言わんが、今回のことは不幸な事故だったと思って諦めてくれ」



 そう言って隊長は姿を消した。

 ギーヴもお辞儀してその場をあとにしようとしたのだが、



「ところで衛兵さん」

「はい?」

「ちょっと尋ねたいことがあるんですがねぇ」

「尋ねたいこと……ですか?」

「えぇ。実は俺たちは人を探してましてねぇ。あなたと同じぐらいの背格好で歳も一緒ぐらいの男と。それから小さな女の子を連れた銀髪の女性。この三人組なんですが、見かけませんでしたかねぇ?」

「男の人と、子供と銀髪女性……? あぁ、あの方々ですね。見ましたよ。つい最近」



 明るく笑顔で応えるギーヴに、仲間の死を前にして激情に駆られていたレンディルが取り巻きを振り払うと、血相変えて詰め寄ってきた。



「どこだっ。どこにいる! そいつらはどこへ行きやがった!」



 血走った目で絶叫する青髪青年。

 その姿は毒に汚染された暴漢を連想させるほどの危険をはらんだものだった。

 ギーヴは一瞬、気圧されたように仰け反ったが、



「た、確か、北に……! 北門を抜けて公国へ向かうと言っていましたよ。なんでも、あちらに親戚がいるとかで!」

「あぁ!? 親戚だと!?」



 レンディルは叫び、ギロリと守備隊員を睨んだが、



「そう言えばあのクソ野郎、昔、公国がどうとか言ってやがったな――おい、お前ら! 今すぐ向かうぞ! こんなクソみたいな町、一分一秒たりともいられるかよっ」



 そう吐き捨て、彼は汚物を見るような目で、地面に転がっていたかつての仲間たちを一瞥したあと、足早に北へと歩き始めた。しかし、そんな彼をヒースが呼び止めた。



「お待ちください、坊ちゃん。そのように急いては、思わぬところで足下をすくわれかねませんよ?」

「黙れ! ヒース! この俺に指図するんじゃない! クソ親父に尻尾振るだけしか能のないセルフリードの犬が!」



 レンディルは地面に唾を吐き捨てると、一人、北門へと歩き去っていった。

 ゲールとハワードも慌ててあとを追う。

 そんな中、ヒースは軽く肩をすくめてみせたあと、一度、目を細めていやらしい笑みをギーヴへ送ってから、彼もまた去っていった。


 ハンターの格好をした一団が去っていった北門通りには、事後処理を行う守備隊員だけがあとに残った。

 そんな中、ギーヴはほっと胸を撫で下ろしたあと、遠くから彼を見守っていた隊長と目線を合わせ、ニヤッと笑うのだった。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。

皆さんの応援が執筆の励みとなり、ひいては大勢の方に読んでいただくきっかけともなりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑

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