手に入れた女神スキル
まるで意味がわからないバグ表示されたスキル。
そんなものを習得したせいで、すぐ近くで見物していた貴族の子弟たちが大騒ぎし始めた。
「ガ……ンセ……キソ……ゾウ? ――岩石創造だぁ!? ギャ~~ハッハッハッハッ。なんだそのスキル! こいつは傑作だ! 岩でも作り出すってか!? 代々竜騎士の家系であるラーデンハイドがかっ?」
この国の宰相でもあり、五公爵家の一人でもあるリッチ公爵家の嫡男レンディル・リッチが腹を抱えて大笑いし始めた。
奴とはこの数年間、イリスレーネを巡って至極どうでもいい小競り合いを繰り返してきたから、ここぞとばかりにコケにしてくる。
「ですがレンディル様、ある意味、奴にはお似合いなんじゃないですかぁ? 竜に乗って岩作って上から落とせばいいだけなんですから……くく、まさにクソ雑魚岩石攻撃」
ニヤニヤしながらそう告げる取り巻きの少年。
竜騎士の王国や女神の国とまで称されるこの国にとっては、竜騎士とは格式ある誉れ高い職業である。
近衛騎士団や聖騎士団、神殿騎士団といったなくてはならない騎士団もある。
しかし、古の時代から語り継がれてきたジークリンデの存在があったから、それ以上に竜騎士という職業は皆の憧れの的だった。
小型の翼竜であるワイバーンを駆り、空から一気に地上へと滑空し、専用のランスで敵を突き刺し、仕留める。
ときには敵の精神を蝕み、戦闘不能に陥らせる竜の咆哮や極炎のブレスで向かいくる敵を薙ぎ倒す。
それが王国人にとっての竜騎士であり、最も華麗で格好いいとされる姿だった。
ゆえに、やりようによっては戦略級の攻撃にも匹敵する岩石落としではあるが、滑稽な姿以外の何物でもないとして、取り巻き連中が俺をバカにしてきたのである。
「クク……いいこと言うじゃねぇか、ゲール。まさしく言い得て妙って奴だ! しかも、自分で作った岩に自ら押し潰されてミンチになったりしてな! ギャハハハ……! ホント、クソだせぇあいつには似合いのスキルだぜっ」
レンディルは一人、狂ったように笑い続けていたが、それも長くは続かなかった。
「――だがな」
やおら真顔となって俺を睨んできた。
「そんなクソみてぇなスキル授かるってことは、普段からてめぇが女神様を冒涜してたって証拠だよな? このクソ恥知らず野郎が。筆頭竜騎士が呆れてものも言えねぇぜ!」
勝ち誇ったようにそう罵ってくるレンディル。
それに同調するかのように、周囲にいた取り巻き連中まで俺を揶揄し始めた。
「だなっ。てめぇみてぇなのが、守護竜ジークリンデの契約者にして最強の称号である白焔の竜騎士とか、笑えねぇ冗談だぜ」
「つーかさ。女神様に楯突いたんだから、いっそのこと、国家反逆罪で今すぐ処刑しちまうってのはどうだ?」
「いやいや、さすがにそれはやり過ぎだろうさ。称号剥奪した上で国外追放が丁度いいんじゃねぇのか?」
その場にいた貴族の御曹司たちすべてが右倣えして一斉に嘲弄し始めた。
奴らはレンディル同様、すべてがラーデンハイドの敵対勢力だった。
おまけに、常日頃から俺に対して敵意剥き出しの連中でもあった。
何しろ、すべての竜騎士の目標である筆頭竜騎士――即ち白焔の竜騎士の称号を俺が幼少期に授かってしまったからな。
だから奴らは、同じ竜騎士の家系の人間として、あるいは同世代の若者として俺を妬み、隙あらば蹴落とそうと手ぐすね引いて待ち構えていたのである。
しかし――
俺は罵詈雑言の嵐を浴びても、露ほどにも屈辱的な気分を味わうことはなかった。
なぜなら、
「やばい……」
全身から噴き出す冷や汗と共に、俺の脳裏に浮かんでいたのは、ただ一つの未来だった。
幼き日に見た、クソスキル授与が原因となって転落の人生を歩む未来。
習得したスキルは『調理スキル』ではなかったが、こんなバグ表示されたスキルを手に入れてしまったら、本来の歴史以上に悲惨な結末しか訪れないのは自明の理だった。
それが証拠に、バグ表示されたのをいいことに、周囲の者たちが皆一様に『岩石岩石』と連呼している。
「あれだけ努力してきたっていうのに……やはり未来は変えられなかったってことか……?」
茫然自失といった体で俺は一人呟いた。
やれることはすべてやってきた。
筋トレ、剣術、槍術も手を抜かずに日々鍛錬し続けてきた。
筆頭竜騎士として、竜操術の訓練も怠ることはなかった。
白焔の竜騎士となったことで、それまでは不可能だったジークリンデとの会話もできるようになったから、彼女との交流も盛んに行ってきた。
本来であれば、公爵家の人間として政治や座学といったことも、もっともっと勉強しなければならなかったが、未来視のことがあったからクソスキル回避だけを考えて、そういったことを後回しにしてでも竜騎士に相応しいスキルをもらえるようにがんばってきたのだ。
それなのに、
――結局はすべてが無駄だったか……。
あとできることと言ったら、来るべき日に備えて、今まで以上に金を貯めておくことぐらいだった。
そうすれば少なくとも、追放されても野垂れ死ぬことはないだろうから。
俺はぼ~っとしながら、イリスレーネを見た。
彼女は壁にもたれるように、遠くから俺のことを眺めていたが、視線が合うとすぐに顔を逸らし、そのまま大臣や侍女たちを引き連れ姿を消してしまった。
その際、なぜか眉間に皺を寄せ、唇を噛んでいたように見えたのは気のせいだろうか?
「――フレデリック」
ショックから立ち直れずに跪いたままだった俺に、親父が声をかけてきた。
「話がある。すぐに屋敷に戻る準備をせよ」
無表情に言う父の顔を見て、「あぁ、そうか」と、俺は一人納得してしまった。
『未来視通り、縁を切られるのか』と。
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