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邂逅、そして、事件の真相

「フレくん」

「大好き!」

「は?」



 突然俺の周りにいた女たちがおかしなことを言い始めた。

 最初、眼前の黒髪美人さんが俺の名前を呼んだとき、一瞬、ドキッとしてしまったが、俺のことを呼んだわけではないとわかって、すぐさま嫌な汗をかいた。



「お前らいったい何を……」



 しかし、俺の声など無視して勝手に話が進む。



「結婚するなら?」

「フレくん!」

「……おい」



 なんなんだ、このやりとりは!

 俺は一人ぽかんとしてしまったが、当事者たちはいたって真剣だった。

 戦斧槍を持った女は相変わらず無表情だし、イリスはイリスでこちらもいつものニヤけ顔などまるで見せずに無表情。

 もっと言うと、公式の場で見せている女王の顔そのものだった。

 それから判断するに、二人ともふざけているわけではないのだろうが、いかんせん、内容が内容だ。バカなこと言ってるようにしか感じられない。



「では、この質問はいかがでしょうか。フレくんに近づく女は?」

「全員排除!」

「…………」



 俺にはもう、何が何やらさっぱりわからなかった。

 一人げっそりしていると、



「では最後の質問です」



 そう言ったときの彼女の雰囲気が明らかに変質した。


 ――殺気。


 いつ臨戦態勢に入ってもおかしくはない。そんな気配が漂っていた。

 一気に緊張感が高まっていく。

 そんな中で、もう一度、黒髪美女が凜とした声音を発した。



「皇后陛下をいつか殺したいと思っていますか?」

「そんなの決まってるじゃない。あんな悪の権化、いつか私の足下に跪かせてあげるわ!」



 そう勝ち誇ったように宣言するイリス。

 その瞬間、ふっと、眼前の女の気配が消えた。



「やばい! イリス!」



 俺は焦りつつも、すぐさま身体が反応していた。

 手にした長剣を両手で構え、一直線に突撃してきた女がイリスに向かって振り下ろそうとしていた戦斧槍を受け止める。


 炎をまとった強烈な一撃に両手が痺れ、そのまま剣が弾き飛ばされそうになってしまった。しかし、まるですべての動きを見切っていたかのように、俺の剣の下に、もう一本の剣があてがわれていた。

 イリスである。

 彼女は口元に不敵な笑みを浮かべて、俺の剣と彼女の剣でクロスするように、戦斧槍を受け止めていたのである。



「お見事です」



 そんな俺たちの反応に黒髪女性はまるで表情を変えず、炎魔法を解除して一歩後退すると、戦斧槍を地面に寝かせて片膝ついた。



「これまでのご無礼、お許しください。私の名前はエルレオネ・クウェイス。皇后様より密命を受け参上いたしました。これ以降、皆様方の護衛役を務めさせていただきます」



 彼女はそう、深々と頭を下げた。




◇◆◇




 俺たちは荷物を置きっぱなしにしていたギーヴの家に向かう道すがら、新しく仲間に加わったエルレオネという女性から事情の一切を説明されていた。



「じゃぁ、あなたは今回の暴漢騒ぎには一切関与していないと?」

「はい。本来であればあのような騒ぎには首を突っ込まない方が賢明なのですが、あなた方を待つまでの間、時間もありましたし、気にもなっていた案件でしたので」

「それで広場でたまたま事件現場に遭遇したから手早く処理したってことか」

「そうなりますね」



 俺たちは南門から街に入り、南東街区を歩いていた。

 あと少ししたらギーヴの家だ。


 エルレオネが言うには、彼女は三ヶ月ほど前にこの町に入ってそれからずっと、俺たちと合流するまでひたすら一小市民として潜伏していたらしい。

 その頃既に、あの騒ぎはポツポツと起こり始めていたらしいが、今ほど酷い状態にはなっていなかったようだ。



「だけど、調べていたって言うぐらいだから、何か原因とか掴めているんじゃないのか?」

「そうですね。確実とは言い切れませんが、私の読みでは、あれはおそらく、ある種の毒かと思います」

「毒?」


「はい。よくある植物や魔獣が持っている毒とは違うので、毒物反応は出ないのですが、本当によく似ているのです。なぜ、そのような毒に侵されていたのかはわかりませんが。それが人為的なものか、あるいは魔獣によるものなのか。あの者たちの鮮血を大量に浴びると二次感染を引き起こす可能性はありますが、そうでなければ感染性も低いですし、呪いの類いでもないように思われます。更に、汚染された方々は皆、この町より南方の方からやってきたと聞いています。ですので、その道中、なんらかの原因で遅効性の毒物のようなものに侵されたのだと考えます」

「なるほど。そういうことか」



 腕組みして考え込む俺のあとを、イリスが継ぐ。



「そこまでわかっているのなら、もう詰め所には?」

「――行けるはずがありません。私はあなた方の護衛という極秘任務を請け負う身。表に身を晒すなど言語道断です。ですので、常に闇の中に身を潜ませていたのです」



 感情のこもらぬ静かな声で告げる彼女。

 俺は殿を務めてくれている彼女に顔だけ振り返った。



「だったらなぜ、俺たちに接触してきた? その話が本当なら、今こうして、会話すらできていなかったはずだ――いや、違うな。昨日、俺たちがこの町に来たとき、既に当たりをつけてずっと尾行をしていたでしょ?」



 常にどこかから見張られているような、そんなおかしな気配がしていたことを俺は思い出していた。



「はい。それらしい特徴を備えていましたから。ですが、確証が得られませんでした」

「だから、今朝まで声をかけてこなかったってことね?」

「えぇ。ですが、あなた様のご尊顔を拝し、すぐにピンときました。何しろ、我が主に瓜二つでしたから」

「てことはやはり、さっき歓楽街で一瞬イリスの顔が晒されたときに見たってことか」

「そうなりますね。ただ、それでも万が一ということもあります。ですので、少々、あなた方の力を試させていただきました」



 俺は溜息を吐いた。

 一歩間違ったら殺されていたかもしれない力試し。

 結果的には丸く収まったからいいものの、ホント、いいんだか悪いんだかよくわからないな。

 結果よければすべてよしってことなのか?

 だが、それにしても、一つだけ納得できないことがある。



「さっきのあのやりとりはいったいなんだったんだよ? あのこっぱずかしやりとりは」



 森の中でご婦人方が言い合っていた一件。

 今思い出しても冷や汗が出てくる。



「あれはお姉様から指示された符号よ」

「符号だと? あれがか?」



 俺の問いかけに答えたイリスの言葉に、俺はうんざりしてしまった。

 俺を出汁に使った符号とか、あの人の考えそうなことだった。

 イリスのことを熟知しているからこそ考えついたんだろうけどな。

 まともな符号よりかはよっぽどもイリスにぴったりのものでもある。

 しかし、それでももっと他にやりようがあったと思うんだよな。



「はぁ……なんだかなぁ。だけど、最後、エルレオネさん、俺たちを本気で殺そうとしたよな? あれってやっぱり、符号が間違ってたってことか?」

「違いますよ。想定された通りのお答えでした。ですが私は皇后様にお仕えする身。ですので少々、イラッときてしまっただけです。それに皇后様から許可を頂いておりました。『その程度の試練すら乗り越えられないようであれば、どの道王国など救えない。死んだら死んだで所詮はそれまでのこと』、だそうです」



 そんなことを平然と言ってのける護衛役の女性だった。


 ――こ、この人、怖くない?

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。

皆さんの応援が執筆の励みとなり、ひいては大勢の方に読んでいただくきっかけともなりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑

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