運命の三女神洗礼の儀2
「なんだかなぁ……」
そんな連中を冷めた目で見つめる俺。
そのあとも滞りなく儀式は行われていく。
『剣聖』だの『戦略級魔法士』だの『大魔道士』、『槍神術』などといった秀逸な女神スキルが次から次へと授与されていった。
「今年は実に素晴らしい! これで我が王国は安泰ですな、女王陛下!」
「……そうですね」
リッチ宰相が芝居がかった口調でイリスレーネへと近づく中、遂に俺の番がやってきた。
今日、この瞬間に、俺の運命がすべて決まってしまう。
そう思って緊張気味に祭壇へと近寄ったのだが、
「ふんっ。次はあのくそったれの番か。せいぜいいいスキルが得られるよう祈っててやるぜ」
いかにも人を食ったような台詞を吐いてきたのはレンディルである。
奴とは色々あって、犬猿の仲だ。
「ぷっ。まぁ、あの野郎には少々痛い目を見てもらいたいですけどね。陛下に目をかけていただいているばかりか、あのジークリンデに認められるとか。何か裏があるとしか思えませんからね」
「まったくだ」
レンディルに呼応するように、奴の取り巻きで俺と同じ竜騎士の家系の御曹司たちや聖騎士たちが一斉に騒ぎ始めた。
中でもレンディル同様人一番、卑しい笑みを浮かべていたのは奴の腰巾着となっている聖騎士の二人、ゲールとハワードである。
この二人はレンディル同様、俺にとっても幼馴染で、昔からああでもないこうでもないと、さんざか絡んできた連中だった。
だから余計に、俺の名誉をおとしめようと鼻息荒く罵ってきたのだろう。
「静粛に!」
厳正なその場には似つかわしくないと腹に据えかねたのか、大司祭が一喝した。
途端に静寂を取り戻す洗礼の間。
俺は祭壇へと一歩踏み出し、女神像の前で片膝ついた。
未来視によると、本来の歴史では俺はここで体力を捧げて、『調理スキル』などという下らないものを手に入れてしまうようだ。
だったら、もっと別のものを捧げたらどうなるのか。
それこそ、この世界では必要不可欠なもの――即ち、魔法を扱うことのできる魔法技能のすべてを。
俺はうちに流れる魔力の息吹に全神経を傾けた。
俺たち人間の体内には生命力とは別に魔力が宿っている。
生命力がどちらかと言えば肉体寄りのものとすれば、魔力は魂寄りの力か。
そういった目に見えない不可思議な力を形に変え、奇跡を引き起こすのが魔法。
魔法は世界中でそれぞれ独自に研究されているから、地域によって様々な形態がある。
この王国では普通に呪文詠唱して、力を行使するといった形になるが、諸外国では使い方も種類も違うのだそうだ。
ただ、属性に関してはほとんど変わらない。
現存するものは六属性あると言われ、地、水、火、風、光、闇といったものが知られている。
中には属性を組み合わせて合成魔法を発動させることもできるらしいが、俺は詳しくない。
そんな、素晴らしい力。
それを操るために必須とされているのが、文字通り魔法技能と呼ばれているものだった。
王国には女神スキルなんてものがあるから、魔法関係のスキルを習得した人間は通常の技能とは別のやり方で魔法を使うことになるが、そうではない普通の人間はいたってシンプル。
魔力を感じ、高め、詠唱し、放つ。
ただそれだけだ。
だけど、ただそれだけのことなのに、これができなければ魔法が使えない。
いくら強大な魔力を持っていたとしてもな。
俺は大司祭が儀式呪文を唱える中、両手を組み合わせて一心不乱に祈り続けた。
本当に便利で大切な魔法という力だけど、そんなものが使えなくなっても構わない。
だから――
『魔法技能のすべてを供出いたします。その代わりに、ヘッポコスキルなんてものは与えないでください』と。
その結果はいかに――
「な、なんだこれはっ……」
大司祭が呻くような声を上げていた。
目を瞑っていたから実際のところ、何が起こったのかわからない。
眼球の奥を焼き尽くすような強烈な光が、瞼を通り抜けるようにして入り込んできた。
そして、爆発的で得体の知れない歪な力が内側から俺の肉体を破壊しようと、膨れ上がってくる。
「ぐっ……」
俺は懸命にそれを堪えながら、倦怠感と光が収束していくその瞬間をじっと待ち続けた。
そうして、それらが完全に収まったのを見計らい、瞼をゆっくりと見開いていったのだが――
「……は?」
俺は祭壇に表示されていたスキルを見て、思わず絶句してしまった。
スキル名『※■ガ◇◆◇ン◇※○セyキ※※★×○ソ×u※ゾウ』
そこには、思いっ切りバグ表示された女神スキルが映し出されていたのである。
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