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妖魔と暴漢の謎

「それじゃまず調査結果からなんだけど、残念ながら、めぼしい情報は得られなかった。奴らの犠牲となった被害者たちの身元も一部の者たちしか特定できなかったし、妖魔がなんであんなところをうろついていたのかもね」



 内容が内容だからだろうか、ギーヴの声は一段低かった。



「まぁ、妖魔は倒した時点で消えてしまうから、痕跡も残らないんだよな」

「そうなんだよ。だから奴らの目的はわからないんだけど、どこから来たのかはなんとなく予想できる」

「そうなのか?」

「あぁ」



 両肘をテーブルについて指を組むような格好となっているギーヴ。

 そんな彼にイリスが質問した。



「ひょっとして王国との国境最南端からじゃないかしら?」

「うん。おそらくね。俺たち守備隊は全員同じ見解だよ」



 ギーヴは言い、運ばれてきた果実酒を飲み始める。

 俺はイリスを見た。



「最南端って言うと、海岸線付近か」

「えぇ。そうなるわね」



 この大陸は三角形みたいな形をしている。

 北と東が直線で、南西が斜線の。

 そして、妖魔どもの本拠地である魔の領域が三角形北西に対して、王国はその南に位置するため、西と南が海に面しているのだ。

 帝国や公国とは東側が国境で接しているので、もし、妖魔どもが帝国に入ったとしたら、王国を横切るしかない。



「実はさ。今回が初めてじゃないんだ」

「初めてじゃないってことは、まさか何度も襲撃されてるってことか?」

「あぁ。この国は王国だけじゃなくて公国とも接しているからね。それでその公国も魔の領域と国を境にしているから、そちら側からも時々侵入してくるんだよ」

「そうだったのか」



 公国は帝国の北に位置する国で、王国の北東にある。この国も魔の領域と接しているから、もし侵入を見逃していた場合、そのまま素通りして帝国や、帝国の東に位置する獣魔連合王国にも流れていきかねない。


「だけど、なんでそんなことに?」

「それがわからないんだよ。こんなこと言うのもあれだけど、今までは奴ら、王国や公国、それから最北端の教国でしか目撃情報がなかったはずなんだ。しかし、ここ数年、国境を接していない帝国でも度々見かけるようになってきた。今回のは位置的に見て、多分王国から流れてきたものだと思うんだけど、侵入されたら当然、その都度、駆逐してるんだけど、正直、奴らが何を企んでこんなところに現れるのかまったくわからないんだよ」


「なるほど。俺が相手したインレクティスなら斥候が目的だろうけど、他にもいるってことか?」

「いや、今のところはそいつだけさ。だけど、奴らが動いているってことはさ、そのうち、大規模な部隊が編成されて、襲いかかってくるかもしれないってことだろ? もし本当にそんなことになったら、王国に近いこの町は真っ先に襲われることになる」

「かもしれないな。ただ、さすがにそれだけの規模の部隊ともなると、王国側も見逃すことはないと思うけどね」

「そう願いたいけどね」



 ギーヴは溜息を吐いてから肉に食らいついた。

 まぁ、彼がそこまで深刻に考える気持ちもわからないでもない。実際に親しい間柄のエレノアが襲われているんだ。

 あの程度の小競り合いですら命を落としかけたのに、もしそれが大規模ともなれば、もしかしたら町全体が全滅してしまうかもしれない。


 俺はそのときの光景を想像し、一瞬、未来視で見た王都陥落の映像が脳裏をちらついてしまった。

 城壁も町も城もすべてが瓦解し、そこら中から火の手が上がっている。

 人々は妖魔どもに喰われ、炎に包まれ、すべてが死に絶えている。

 そんな中、最後まで懸命に戦っていたのが、親父率いる竜騎士団と、そしてイリスだった。

 しかし、そんな彼女たちも……。


 ――くっ……。


 俺は軽い目眩に襲われてしまいふらついてしまう。

 その気配をいち早く察知したらしい隣のイリスが支えてくれた。



「大丈夫かしら?」

「あ、あぁ、すまない」



 俺は謝ったあとで、



「えっと、ギーヴさん、でよかったですか?」

「ん? あぁ、うん、そうだけど――俺のことは呼び捨てで構わないよ。俺もそうさせてもらうから」

「わかった。じゃぁギーヴ」

「ん?」

「とりあえず、妖魔どもの越境問題はおいとくとしても、先程のあの暴漢騒ぎって、ひょっとして妖魔になんか関係していると思う?」

「――あれか……」



 彼はそう呟くと、更に深刻そうな顔をした。



「正直なところ、あれに関してもまるっきりよくわかってないんだよ。なんでさっきまで元気だった奴が突然正気を失って殺人鬼になってしまうのか、な」



 あまり食事中に話す内容ではないが、気にしてられないので先を続けた。



「何か魔法みたいなもので変質させられているってことは?」

「魔法?」

「あぁ。たとえば呪いとか」

「呪い……呪詛か何かってことか?」

「あるいは疫病みたいな何かかしら?」



 考え込むような仕草をしているギーヴのあとを継ぐように、イリスがそう口を挟んだ。

 俺はギーヴからイリスに視線を向ける。



「疫病って、伝染する流行病みたいな奴か?」

「えぇ。私は実際に現場を見てないからなんとも言えないのだけれど、フレッドから聞いた限りだと、その可能性も捨てきれないわね。何しろ、急に理性を失って化け物みたいに暴れ狂うのでしょう? しかも、肌の変色まで見られる。まるで病気にかかって頭をやられて内出血でもしたかのようじゃない?」



 いつもみたいにニヤリともせず、真面目に言うイリス。

 彼女の話す内容がきつかったのか、食事していたエレノアが顔を引きつらせた。



「だけど、もしそれが事実ならやばくないか? 俺たちまでうつる可能性があるし、下手したら都市大封鎖だぞ?」

「そうね。まぁ、可能性の一つだからあまり真に受けないで」



 あくまでも可能性。

 だったら、そうなる可能性もあるということだ。

 これは早急にこの町から出ていった方がいいのではないか?

 思わずそんなことが脳裏をよぎる。

 ただ――



「灰色のローブ」

「うん?」



 俺の呟きに、ギーヴが反応した。



「暴漢を倒したって奴さ。そいつの正体もわかっちゃいない。普通ならその場にいて事情説明して褒美でももらえばいいのに、敢えてそうしなかった。まるで逃げるように」

「もしくは人に見られたら困るってことかもしれないわね」



 暴漢に絡まれて返り討ちにしたのか、見て見ぬ振りできずに倒してずらかったのか。

 そのうちのどちらか次第で答えが大きく変わってくる。



「はぁ……気苦労が絶えない旅になりそうだな……」

「うん?」

「なんの話だ?」



 イリスとギーヴがぽかんとし、目が合ったエレノアがクスッと微笑み返してくれる。

 俺はなんだかなぁと思いつつ、ふと、何気なく酒場入口へと視線を投げてそれに気が付いた。

 灰色ローブ。

 件の現場で目撃されたという灰色のローブを着た人間が三人ほど、それぞれがバラバラの席について食事をしていた。

 うち二人はフードを外して普通に食事をしている男。

 もう一人はイリスやナーシャ同様目深に被っていて素顔が見えない。



「――まさかな」



 俺は一人、背中に冷たいものが流れていった。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。

皆さんの応援が執筆の励みとなり、ひいては大勢の方に読んでいただくきっかけともなりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑

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