ハンターギルド
訪れたハンターギルドは俺たちが借りている宿から少し離れた場所に建っていた。
位置的に言うと、俺たちの宿が噴水広場から東門大通り入ってしばらく行った先にあるのに対して、ギルドは噴水広場から東門大通り入ってすぐの角に建っている。
つまり、広場に接するように建てられた建物だった。
既に辺りは夜闇に包まれているが、ギルドの窓から明かりが外に漏れているので、建物周辺は多少明るかった。
一応営業時間も決まっているらしく、二十三時までとのことなので、時間的には余裕がある。
俺たちは意を決して中に入ってみた。
「結構盛況だな」
「そうね」
ギルドは三階建てらしく、一階入ってすぐが待合ホールのような感じになっていて、そこに丸テーブルと椅子がいくつか置かれていた。
右手の壁と左手の壁には掲示板があり、ギルドからのお知らせや急募を知らせる依頼票などが張られている。
ホール奥は一面カウンターになっていて、六人ほどのギルド職員が立っていた。
いずれもホール内にいる大勢のハンターたちの相手をしていて、忙しそうだった。
「大通りや広場もまだ人の往来が激しかったけど、ギルド内も大概だな」
「それだけ、ハンターが多いってことでしょうね」
「あとは、それだけのハンターたちに仕事を振り分けられるぐらい、問題を抱えている連中が多いってことか」
基本、ハンターギルドに寄せられる依頼は魔獣退治である。
作物を荒らす昆虫型の魔獣駆除や、人的被害を出しているもの。
それ以外だと、予防線なんてものもある。実際に被害が出る前に、兆候が見られた地域に人を派遣して、魔獣駆除に当たるって感じだ。
まぁ、いずれにしても、世界規模で事業展開しているハンターギルドに依頼を持ち込んでいるのは、それぞれの支部が置かれている町の住民や周辺の村々だったりするから、依頼内容も雑多なんだけどな。
当然、報酬や依頼の難易度も違ったりする。
推奨人数が設定されていたり、ギルドが定めたハンターランクによって受けられる依頼が変わったりなんてものもあるから、結構面倒くさいシステムだった。
「とりあえず、登録しに行くか」
「そうね」
「えっと、登録カウンターは……と、あそこか」
六つあるカウンターのうち、一番左側に立つ職員のカウンター下部にその旨が記載されていた。
「ようこそ、リヨンバラッド支部へ」
登録カウンターに並んでいる人は誰もいなかったので、俺たちはすぐに対応してもらえた。
なぜか職員全員若い女性で、しかもすべてが人族という謎な状態。
この大陸には俺たちのような人族だけでなく、獣人種も数多く生活している。
その大半は国民の大多数を占めるシュネルリンゲン獣魔連合王国で暮らしているが、一部の者たちは世界を見たいという思いから、余所の国に旅に出ていた。
王国内ではほとんど姿を見かけないが、国境を接する帝国などでは旅人だけでなく、実際に移住している者たちもいるらしい。
なので、この町でも見かけていいはずなのだが、どうやら、今のところはまだ会えず仕舞いのようだった。
「えっと、実は俺たち、ハンター登録したいんですけど」
「はい。登録ですね」
「えぇ、俺と、それからこちらの女性です」
俺はそう言って、ナーシャを挟んで立つイリスを指さしたのだが、彼女はなぜかニコニコしながら、
「初めまして、私、この人の妻です」
などと自己主張し始めた。
「おい……」
すかさず突っ込みを入れてやるが、まったく相手にされない。
そんなおかしな雰囲気の俺たちに、腰までの長い金髪をした受付嬢が苦笑した。
「まぁ、ご夫婦でらしたんですね。ご夫婦一緒にハンターなさるなんて、本当に羨ましいぐらい仲がいいですね」
「そうなんですよ。とっても仲がいいんですのよ。うふふ。しかも私たち、最初はハンターから始めようと思っていますが、ゆくゆくはこの子含めて三人でテイマーとして活動していけたらって思っていますの」
「あらまぁ、そうなのですね。素敵な夢ですね」
「えぇ、うふふ」
「ふふふ」
なんだか俺を置き去りにして、すっかり二人は意気投合したように、それでいてどこか腹の探り合いをしているかのように愛想笑いの応酬をし始めた。
なんだかなぁと思いながら俺は口を挟んだ。
「とりあえず、登録を頼みたいんですが」
「あぁ、はい。そうでしたね」
そう言って受付嬢が登録用紙二枚をカウンターの前に置いた。
「それではこちらに必要事項をご記載の上、身分証明書のご提示をお願いします。それから、登録料といたしまして、お二方で銀貨二十枚ほど頂戴いたします」
「わかった」
言われた通り銀貨を用意した上で、俺とイリスはそれぞれ身分証明書を取り出した。若干、偽物だとバレやしないかヒヤッとしたが、これまで出会った人々の反応を見るに、おそらく大丈夫だろうという確信めいたものもあった。
案の定、受付嬢は疑うことすらしない。
「一応、補足説明させていただきますね。書きながらお聞きください」
「あぁ」
「ハンター登録は十五歳以上であれば誰でも登録できます。ですが、先程話に出ていたテイマーに関しては、それに加えてテイマー認定試験というものを受けていただき合格しなければ登録できません」
つまり、俺とイリスは現時点ではハンターになれるが、五歳児のナーシャはテイマーどころかハンターにすらなれないということだ。
「それから魔獣や依頼書のすべてにランクが設定されていますが、ハンターにもランクが存在します。ハンターランクに限らず、どんなレベルの魔獣でも狩ることは認められていますが、ギルドから発行されている依頼書は最低ランクを満たさない人たちは請け負えません」
魔獣もハンターも、基本は上からS、A、B、C、D、E、Fの七段階存在する。
極一部の魔獣やハンターには更にその上を行くダブルSやトリプルS、レジェンドなんてものもあるらしいが、魔獣も含めて俺はそんな雲の上の域に到達したハンターなんか見たことも聞いたこともない。
更に、彼女が言う仕事請負資格についてだが。
魔獣ランクとハンターランクにおけるそれぞれの強さは一対一で同格扱いとされているが、依頼書に設定されている必要最低請負ランクというものには落とし穴がある。
それが、推奨人数だ。
たとえば、Dランク以上でなければ受けられない依頼書の場合、参加できるのは全員Dランク以上なのだが、ここの推奨人数が三人と設定されていた場合、三人以上のDランクパーティでなければ受けられないということだ。
つまり、それだけ敵が強いということになる。
単純に考えても、Dランクハンターの三倍の強さを持っている人でないと、単独で依頼をこなせないということを意味していた。
「他にも色々と細かい規定やシステムがありますが、詳しいことはハンターマニュアルをご覧ください」
そう言って、彼女は二冊、分厚い本を渡してきた。
「わかった。色々教えていただき、ありがとうございます」
必要事項を書き終えた俺とイリスは受付嬢に用紙を手渡す。
「いえいえ。それでは、こちらがハンター登録証となります。お納めください」
受付嬢が差し出してきたのは俺たちの身分証明書だった。そこに証明書とそっくりな長方形のものが追加されていた。
ハンターランクを示す記号と、登録番号だ。
俺たちは駆け出しということで最下級のFということになっている。
記載されている番号は、今後事務手続きをするときに使われる最も重要なものだった。
「これで一応、登録は完了となりますが、何かご質問はありますか?」
俺は戻ってきたそれを首にかけ直してから、受付嬢に向き直った。
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