爆誕1
イリスが指摘した通り、若干生活臭が漂う露天通りを突っ切った先には幻魔屋が居を構えていた。
しかも、どうやらこの町の幻魔屋はトゥーランよりも大きいようで、小規模な円形広場を囲うように三軒が軒を連ねていた。
俺はその広場に馬車を緊急停車させると、大慌てで飛び降りた。
そのまま、ナーシャが持っていた卵を引き取ろうとしたのだが、
「だめぇぇぇぇ! ぽこちゃんはナーシャがもつのぉぉ~~!」
メチャクチャ怒られてしまった。
もしかしたら、俺に卵を壊されると思っているのかもしれない。
「ホント、嫌よねぇ。こんなちっちゃな子が大切にしている宝物を奪おうとするだなんて。大の大人がすることじゃないわ」
「何言ってんだよっ」
ナーシャを抱きかかえるように馬車から降ろした女王様が、さもバカにしたようにニヤけた笑顔を向けてくる。
「ふふ。まぁ、冗談はさておき」
「冗談なのかよっ」
しかし、俺の華麗な突っ込みは無視された。
「さてっと、ナーシャ? 初めてだから緊張するかもしれないけど、い~い? あなたの持っている王家スキル、使うわよ?」
「うん~~」
ちっちゃな銀髪ツインテの女の子は元気いっぱいに、そして楽しそうに頷くと、にかっと笑った。
そのまま二人は中央にあった一番大きい幻魔屋へと歩いていく。
「――あ、おい! ちょっと待てよっ。ていうか、王家スキルってなんのことだ!?」
「行けばわかるわよ」
そう言って中へと消えていってしまう。
「なんなんだよ……」
相変わらず身勝手な女王様にうんざりしながらも、仕方なく俺も中へと入っていった。
「店主さん? 契約の間を使わせてもらえるかしら?」
「はい? ――あぁ、幻魔契約ですか。幻魔は……て、卵!?」
店の中に入ると、何やらイリスと店主らしき恰幅のいいおっちゃんが話し込んでいた。
「何か問題があるかしら?」
「い、いや。問題というか、失礼ですがご婦人方、ビーストテイマーではありませんよね?」
「まぁ、そうね。でも問題ないわ。さくっと終わらせるから」
「さくっと!? いやいやいや! テイマーでもない普通の人が――」
しかし、人のよさそうな顔をした中年親父の言葉は最後まで続かなかった。なぜなら、
――ピキッ……ピキピキピキ……。
卵が派手に割れ始めたからだ。
「ひぃぃ~~~~!」
「うっふふ。さぁ、早くしないと、生まれてしまうわよ?」
そう笑う彼女の口元を見て、俺は血の気が引いてしまった。
――いつもの顔。
子供の頃、俺と顔を合わせる度に、必ず浮かべていた妖しい艶微笑。
何かを企んでいて、その妄想に酔いしれているときの顔だった。
「あ、あんたら……! ちゃんと責任持てるんでしょうなっ」
「大丈夫大丈夫♪ ――あ~、契約の儀とかも必要ないから心配しないでね~」
そう言って、イリスはナーシャを連れて奥へと歩いていってしまう。
俺はそのあとを慌てて追いかけながら店主を一瞥し、
「どうもすいません。連れが我が儘で」
そう謝っておくことも忘れなかった。
店内はトゥーランの幻魔屋と同じような作りになっていて、中央に奥へと通じる通路が走っている。
二人はその突き当たりの扉の奥へと消えていった。
俺も急いであとを追い、契約の間の中へと飛び込む。
そこは広々とした四角いホールのような場所だった。
中央には魔方陣のようなものが描かれている。
それ以外は何もなく、よく見ると、壁や天井すべてに結界魔法が施されていた。
おそらく、契約に失敗したときのことを考えて、壁に防護結界魔法がかけられているのだろう。店が壊されて魔獣が外に飛び出さないようにと。
二人はそんな部屋の中央に描かれた魔方陣の上にいて、丁度、ナーシャが卵を置いたところだった。
「い~い、ナーシャ。両手を組んで、ちゃんとお祈りするのよ? 私と契約してって」
「うん~~。いっぱいお祈りしゅる~~。ナーシャ、い~い子にしてるから、お友達になってぇ~~」
ちっちゃな幼子は両膝立ちとなって両手を組み、祈るような仕草をしながらそんなことを言った。
「――ちょっと、今から何が起こるんだ?」
俺は狐につままれたような気分のまま、二人の背後に近寄る。
「何って、勿論契約するのよ」
「契約? 契約って幻魔契約か?」
「他に何があるって言うのよ」
「いや、だって、調教もまだなのにそんなことできるわけないじゃないか。しかも、契約に必要な道具だってないのに」
通常、幻魔契約するためには最低限クリアしておかなければならない条件というものが存在する。
その一つが調教だった。
しっかり調教して、ある程度人に従順で服従するような状態となっていない限り、決して彼らが人間と契約することはないのだ。
しかも、契約するときには契約の腕輪が必要となってくる。
大抵は幻魔を購入したときにセットで買うことになっているが、これが結構なお値段と聞いたことがある。
そんな腕輪だが、一度幻魔に装着されると契約が解除されるまで外れないし、もし契約者を裏切るようなことがあったら、装着された幻魔はダメージを受けるか即死する仕様となっていた。
「まぁ、フレッドが心配するのもわかるけれど、とにかく見てればわかるわよ」
彼女がそう無表情に答えたときだった。
――パキンッ。
より一層派手な音がして、卵から何かが飛び出してきた。
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