えっ!? もう孵ったのか!? 2
「ちょっとこれ、どうすんだ!?」
俺は馬車をゆっくり走らせながら、思わずその場でジタバタしてしまった。
「どうするって言われても、孵るの待てばいいんじゃないかしら?」
「はぁ!? 待つって……! 自分が何言ってるのかわかってるの!? この卵、鶏とかそういうのとは違うんだよっ? 幻魔だよ、幻魔!」
「わかってるわよ、そんなことぐらい。だから、孵るの待てばいいって言ってるのに――もう。本当に、仕方がない人ねぇ。あんまり大きな声出すと、皆からじろじろ見られちゃうじゃないの」
彼女はどこか面白そうにそう言うと、目を細めて笑った。
俺は彼女に言われて初めてそのことに気が付き、慌てて周囲をキョロキョロする。
俺たちが今いる場所は件の噴水広場だったが、彼女が指摘する通り、確かに俺たちの馬車の左右を歩いていた帝国民が物珍しそうにこちらを見ていた。
「くそっ。注目の的ってわけかよ。だけど、ホント、今すぐこの町から出ていかないと、大変なことになるぞっ?」
俺はそう叫ぶや否や、慌てて馬車を走らせた。
しかし、そんな俺に呆れたような顔をするイリス。
「まったくもう。大丈夫だって言ってるのに――ねぇ、ナーシャ?」
「うん~~。これ、なにが生まれるのかなぁ?」
「う~ん。なんだろうねぇ。でもきっと、可愛いのが生まれると思うわよ?」
「ほんと!? やた~~!」
隣の女王様が発する優しげな声に、ナーシャが年相応の可愛らしい歓声を上げた。
俺は一人だけ焦りながら二人をチラ見する。
彼女たちは、本当に楽しそうに笑い合っていた。
その姿はまるで、今から愛玩動物の卵が孵るのを温かく見守っているかのような、ごくごくありふれた平和な日常風景そのものだった。
「はぁ……本当に緊張感ないよな、君たちは。どんな化け物が生まれてくるかわからないっていうのに」
周囲を歩く人たちを跳ね飛ばさないように気をつけながら東門目指して馬車を操り、そう愚痴をこぼしたのだが、どうやらそれが気に入らなかったらしい。
再度ちらっと二人を一瞥したら、イリスに白けた眼差しを向けられてしまった。
更に、ナーシャまで頬をメチャクチャ膨らませていた。
「化け物じゃないもん! か~いぃ~ぽこちゃんが生まれるんだもん~~!」
そう怒りの叫びを上げながら、卵を持ったままぴょんぴょんその場を飛び跳ねる幼女。
――まぁ、そんな顔されたって怖くないんだけどね。
俺が恐れているのは、凶悪な化け物が生まれてこないかってことだけだから!
そう心の中で抗議したあと、更に馬の足を速めたのだが――
「あ~~~。見て見てぇ~! なんか出てきたぁ」
メチャクチャ明るい声が背後から聞こえてきて、思わずぎょっとしてしまった。
「マジかっ」
どっと脂汗が吹き出してくる。
「あ、ホントだ。なんか黒いのが少し見えてきたね」
「うん~~~」
二人の姉妹は相変わらず脳天気だった。
「くそっ。このままじゃ間に合わないぞ!?」
この辺境の町は圧倒的にトゥーランより広い。
どう考えても卵が孵る前に門の外に出られそうになかった。
「街中で魔獣なんか孵ったら大変なことになってしまう!」
もし万が一卵から孵った魔獣が町の人たちを傷つけようものなら、とんでもないことになる。
俺たちは、その時点で犯罪者確定となり、衛兵に取っ捕まってしまうだろう。
そうなったら一巻のおしまいだ。
たとえ、さっき知り合ったばかりの衛兵やこの国の皇后の座についているテオドラ姉さんが根回ししてくれたとしても――一時的にしろ、牢に放り込まれたら追手に捕まってすべてが終わる。
ゆえに、絶対に大事にするわけにはいかなかった。
「くそぉ~! ホントにどうすんだよ、これ!」
ビーストテイマーではない俺たちじゃ、どうすることもできない。調教なんてできないんだからな。
孵った瞬間にぶった切って抹殺するか、その前に卵ごと破壊するしかない。
俺は卵の状態を確認するため、横目でちらっと背後を見た。
「う……」
ナーシャが見たこともないような、本当に嬉しそうなキラキラとした笑顔を満面に湛えていた。
――くそぉっ! あんな顔されたら、殺すに殺せないじゃないかっ。
そう一人、心の中で苦悩していたのだが、
「な~~んか、ホント、フレッドって昔から変わらないわよねぇ?」
「はぁ? いきなりなんだよ」
「うふふ……なんでもないわ――あ~、そこ右に行ってちょうだい」
「は? 右!? 右行ってどうすんだよ。町の外に出るんじゃないのか?」
もし卵が孵ったとしても、町の外ならどうとでもできる。そう思って、俺は独自判断で東門に向かっていたのだが、
「外に出なくても大丈夫よ。ちゃんと手は考えてあるから」
「手って、いったい何を考えてるんだ?」
「あとで教えるから、とにかく今は急いでちょうだい。多分、町の作りからして、あの角を右に曲がったところに幻魔屋があると思うから」
「はっ? 幻魔?」
俺は無表情に一点を指さす彼女がそれ以上何も喋らなくなってしまったため、軽く溜息を吐きながら、方向転換して脇道へと躍り出た。
そして、ひたすら馬車を走らせ続ける。
そんな俺たちを迎え入れてくれたその路地裏は、たくさんのテント小屋が建ち並ぶ、どこか貧民街を思わせるような露店市場通りだった。
本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!
『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。
皆さんの応援が執筆の励みとなり、ひいては大勢の方に読んでいただくきっかけともなりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑




