えっ!? もう孵ったのか!? 1
「――で? このあとどうするの? 確か護衛と合流するんだよな?」
俺は銀髪姉妹にさんざかおもちゃにされたあとで、溜息を吐きながらそう呟いた。
このあと、予定では姉さんが送り込んできているはずの護衛と合流して、速やかに帝都へと向かうことになっているようだが、結局、西門にはそれっぽい人はいそうになかった。
「そうね……私もこの町で合流するって言われているだけで、それ以上のことは何も伝えられていないのよね。だけれど、一応、符号のようなものは教えられているわ」
「符号か。合い言葉みたいなものか?」
「えぇ。それと落ち合う場所もいくつかね。ただ、いつそこに行けばいいのかはわからないの。お姉様がいつ護衛の人をこの町に忍ばせたのかもわかっていないし、何より、私たちがいつここに到着するかも具体的な日取りは伝えられていないしね」
「なるほど」
王国での作戦決行日は事前に知らせているけど、それがこの町にいるかもしれない護衛の人に伝わっているかどうかはわからない。そういうことか。
「計画が計画だしな。帝国領土内であっても、あまり公にできる内容でもないからな」
「えぇ。この国でも色々権力絡みの問題があるでしょうし、私たちのことを快く思わない人間も多いでしょうからね」
「そうだな。もしそいつらにバレたら面倒なことになる。そう思って、誰が護衛かも知らされていないってことか」
「密書のやりとりも絶対ではないしね。万が一敵の手に渡ったら大事だから、当事者しかわからないような曖昧な書き方するのが定石だしね」
「ふむ。となると、しばらくの間この町に滞在して、合流場所に顔を出し続けなければいけないってことか?」
しかし、それはあまりにも愚かで危険極まりない行為に思えた。
既にここは帝国領内だから、イリスを連れ戻そうと宰相たちが追手を差し向けていたとしても、おいそれと越境することはできない。しかし、軍隊として越えることはできなかったとしても、軍ではないただの旅人としてなら話は別だ。
軍人を示す身分証明書を持っていたとしても、個人的な目的、私用で帝国内に入ることは可能なのだ。
だったら、奴らがここまで追いかけてくると思って身構えていた方が利口だろう。
「今日はもう時間があれだから、この町で一泊した方がいいけど、明日以降どうするかだな」
「そうね」
追手のことを気にしてこのまま夜通し街道を走っていくというのも、滞在し続けるのと同じぐらい愚かな行為である。
世間一般的に、昼間の方が街道移動は安全と言われている。
昼間よりも夜間に活動する夜行性の魔獣の方が数多く存在しているからだ。
中には昼間とは違い、桁外れな強さの凶悪な魔獣などが出没することもある。
他には野盗の類いか。
それゆえに、可能であれば日中に移動して、夜間は町に泊まるなり、安全地帯で野営するのが定石とされていた。
――しかも、昼間ですら妖魔が出たぐらいだしな。
そんなだからとにかく、護衛といつ合流できるかわからないからとか、追手が怖いからと、無理して今から町を飛び出すのも愚か者のやることだった。
「なら、宿でも探すか」
俺は独り言のように言い、そう締めくくりながら、ひたすら馬車を東門の方に向けて走らせていた。
そちら側に、俺たちのような旅人が寝泊まりしやすい宿があるということを、ここに来るまでの道中でエレノアに教えてもらっていた。
リヨンバラッドは町の中心に大きな噴水広場があるらしく、そこから東西南北に向かって大通りが通っている。
噴水広場にはハンターギルドを始めとした公共施設や宿屋、比較的大きな店舗などが軒を連ねている。
各方面に向かって延びる大通りにも、露天や様々な店舗が建てられていた。
広場から南に向かって進むと歓楽街なんかもある。
そこは所謂娼館などが建ち並ぶ場所らしいが、まぁ、俺たちには関係ない。
もしそんなところに行ったら――
俺は自分の身に何が起こるか想像し、思わず背筋が寒くなってしまった――と、そんなときだった。
「あ~~~! お姉たまっ。見て見てぇ~。これしゅごいのぉ~~~」
突然、フードを取っ払った状態のナーシャが、荷台からひょこっと、身を乗り出してきた。
「どうしたんだ?」
俺は怪訝に思って振り返ったのだが――思わずぎょっとしてしまった。
「なっ……嘘だろ!? もう孵ったのかよっ」
――そう。
大きな瞳をぱっちり開けて、にかっと笑う幼子が手にしていたのはデカい斑模様の卵。
どうやら異変に気が付いて鞄から取り出した、ということのようだが、その天辺から下に向かって、徐々にヒビが入り始めていた。
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