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浮気許すまじ2

 なんとか夜になる前にリヨンバラッドに到着できた。

 上から見ると正方形の形をしているように見える城塞都市。

 その西門を何事もなく無事、くぐり抜けられた。


 一応、例によって身分証明書や馬車の中を確認されたが、特に怪しまれずにすんだのは幸運だった。

 やはり、イリスが用意してあった偽造だか本物だかよくわからない身分証明書が効果絶大だったってことなのだろう。


 この時代における個人を特定する方法は各人が保有する身分証明書がすべてだ。

 戸籍のような住民リストを作成して管理している町もあるが、もしそれを作っていたとしても、他国の住民まですべて把握するなんてこと、できるはずがない。


 人数も多いし、何より、それを成し遂げるためには高いレベルでの外交交渉や連携が必要となる。それこそ、世界同盟レベルで。

 なので、自国民はいざ知らず、外国の人間の身元を確かめる術など、内容云々はともかく、それが本物の身分証明書かどうかで確認するしかなかったというわけだ。


 そんなわけで、書かれている身元はいいとして、本物の身分証明書を使って偽造した俺たちの身の上を見抜ける者は帝国には一人しかいない、ということである。

 無事、検閲を突破できた俺たちは、そのまま衛兵に街道であった出来事のすべてを包み隠さず報告しておいた。

 その際に、助けたエレノアという女性も引き渡し、事後を託すことにしたのだが、



「エレノア……? エレノアじゃないか。どうしたんだよ、お前。そんなにボロボロで」



 馬車から姿を現した彼女の姿を見て、俺たちの相手をしていた衛兵が酷く驚いたような顔をしていた。



「あ……ギーヴ……うん……あのね……」



 彼女はそう言って、目に涙を溜め始めてしまった。

 どうやら彼女と衛兵は知り合いらしい。恋人なのか友達なのか、それとも家族なのかはわからないけど。

 そんな気を許せる相手の姿を前にしたからだろう。安心して泣いてしまったのかもしれない。



「色々積もる話とかもありそうね」

「そうだな」



 御者台の上から二人を見下ろしていたイリスに俺も頷いた。



「それじゃ、俺たちは行くよ。その、色々大変だろうけど、元気出してね」



 ニコッと笑う俺に、エレノアは目元を拭う仕草をしてみせたあとで、愛らしい笑みを向けてきた。



「この度は本当にありがとうございました」



 軽くお辞儀してみせる彼女のあとを継ぐように、ギーヴと呼ばれた衛兵も申し訳なさそうな顔をして口を開く。



「本当に助かったよ。エレノアを助けてくれてありがとう」

「いえ。たまたま通りかかっただけですから」



 苦笑してみせる俺に、衛兵は胸に手を当て敬礼してみせる。



「このご恩は一生忘れません。もし、滞在中に何かありましたら、遠慮なく西門詰め所まで顔を出してください。できる限り善処いたしますので」

「あぁうん。そのときには頼みます」

「はい。あ、それから、先程の妖魔の件はすぐに上に報告して調査隊を向かわせます。そちらもご協力ありがとうございました」



 なんだか人のよさそうな青年はそう言って、深々と頭を下げてきた。

 俺はなんだか全身がこそばゆくなりながらも、改めて彼女を助けられてよかったなと思い、少し満足感に頬が緩んでしまったのだが、どうやらそれが気に入らなかったようだ。



「いてっ!」



 突然、隣に座っていたイリスに思い切り脇腹をつねられてしまった。



「何すんだよっ」

「浮気……浮気浮気浮気………………ブツブツブツ…………」



 すかさず文句を言ったのだが、彼女はひたすら呪詛を吐くかのようにぼそぼそ呟き続けていた。なまじフードで顔半分隠れているから余計に怖い!



「……ぇぃっ」

「いてっ」



 そんな彼女の姿を見たからか、荷台から身を乗り出してきたナーシャまで真似して、俺のことをつねってきた。



「うわきは許さないでしゅ!」



 意味がわかってて言ってるのかどうかわからないが、ともかく。



「ちょっと、二人ともっ」

「「ふんっだ」」



 銀髪姉妹は二人して、左向け左し、知らんぷりを決め込んでしまった。



「なんなんだよ、いったい……」



 そう思わずにはいられない夕暮れ時だった。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。

皆さんの応援が執筆の励みとなり、ひいては大勢の方に読んでいただくきっかけともなりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑

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