さらば、王国よ
翌日早朝。
旅の準備をすませて宿を引き払ってから、俺たちは朝食を取るべく、一階食堂へと立ち寄った。
早朝の食堂はそれほど混んでいなかった。
全部で丸テーブルが十ほどある場所で、その半分も埋まっていない。
俺たちは入口から比較的離れた奥まったところで食事を摂っていた。
テーブルに並べられているのは旅人や一般市民が口に運ぶような代物で、高級料理ではない。
注文した魚介のスープや羊肉のパイ包み、出汁の利いた卵を何層にも重ねて中に野菜を詰め込んだもの、それからゆで野菜の塩炒めなど。
どれをとっても大味だし、見た目も綺麗というよりかは豪快といったところだ。
これを貴族連中が見たら顔をしかめるだろうが、俺にとっては大変なごちそうに見えた。
何しろ、この二年間、肉がほとんど入っていないようなスープと硬いパンしか食っていなかったからな。
ホント、あれに比べたら物凄く高級な料理に見えてくる。
味も大味で品がないけど、そこがまた庶民的でいい。
「ぃや~、極楽だな」
注文した料理を半分ぐらい食い終えた俺は、思わずニヤニヤしてしまった。
「ごくらくごくらく~~~♪」
隣にべったり張り付きながら、子供用の椅子に座っていたナーシャがすかさず真似してくる。
グーで握ったナイフとフォークを上下に揺さぶって、可愛らしい笑顔を浮かべていた。
「ナーシャ? お行儀が悪いですよ?」
「いいのでしゅ! ごくらくなのでしゅから~~♪」
意味がわかってて言っているのかどうかはともかく、本当に楽しそうに笑いながら、一生懸命食事をしていた。
そんな彼女から視線を外したあと、珍しく俺の横ではなく、対面に座っていたイリスを見た。
「さて、食いながらこのあとのことについて再確認するか」
「そうね」
「だけどその前に、一つ確認しておきたいんだけど」
「うん? 何かしら?」
「あの人に、俺のことをどんな風に説明してあるんだ?」
「どんなって言うと?」
「ん? つまり、俺のスキルのことだよ。俺がどんなものを持ってるとか、全部話してあるの?」
「う~~ん。細かいことまでは話してないわね。ていうか、教えたくないし。だって、あなたのことをすべて知っているのは私だけにしておきたいから」
そんなことを言って、テーブルに頬杖つきながら目を細めて笑う。
俺は背筋がゾゾゾとして、思わずぶるっと震えた。
「そ、そか。じゃぁ、おかしなものを手に入れたってことだけか」
「そうね。ただ、さすがに構造がおかしいってことは話してあるけどね。それ以外は話してない、ていうより、話しようがないから話してないんだけどね。何しろ、あなたのスキル、今のところ、二つだけだしね。話すこともほとんどないから」
「なるほど」
だが、俺はいい判断だと思った。
事象変化はとりあえずいいとして、真眼のことを話したらどうなるかわからない。
何を考えているのかまったくわからないのが姉さんだ。もし、真実を見抜くとか話したら、どんなあくどいことに利用されるかわかったものではない。
「帝国の国庫を潤させるために、俺を鉱山に叩き込んで、死ぬまでこき使いそうだからな」
思わずそんな未来を想像して余計に寒気に襲われた。
「まぁ、ともかく、あなたのスキルについては追い追い考えるとして、今はこのあとの行程についてよ」
イリスはそう、話を切り替えた。
「そうだな。普通に国境越えて、街道沿いに南下していけばいいんだよな?」
「うん。ただ、追手のことも気になるし、比較的安全とは言え、魔獣や野盗の類いも出没するから、臨機応変に移動ってことになるでしょうけどね」
「だな。あとは町から町まで数日かかる場所もあるから、そこが一番の難所だな」
帝国は平原や丘が大半を占める国だけど、中には森の中や山の中を街道が通っている場所もある。
基本的に街道沿いに馬車を走らせていけば、十日ほどもあれば帝都へと辿り着けるだろう。
しかし、町と町がかなり距離の離れている区間がある。その場合には、安全な場所を探して野宿しなければならない。
一応、俺とイリス二人で見張りを立てながら野営することになるが、それでも万全とは言い切れない。
旅に絶対はないからだ。
「途中、小規模な集落とかもあるから、泊めてもらえそうだったらそこで厄介になるか」
「そうね」
「あとは予定だと、リヨンバラッドで護衛の人たちと待ち合わせるんだったか」
「えぇ、あの人が派遣してくれた人が二人、同行してくれる手筈となっているわ」
姉さんの計画では、王国を脱出したあと、次に立ち寄る予定のリヨンバラッドという町で、俺たちの護衛をしてくれる人たちと合流する手筈になっているらしい。
本来であれば、国境砦まで来て俺たちの到着を待ってくれていた方が確実だと思うのだが、色々事情があってできなかったとのことだった。
俺たちが王都を出るための計画は実行に移せても、実際に俺が追放される日時まで制御できなかったというのが理由らしい。
一応、審判が下る日時は数日前にはわかっていたらしいから、それに合わせて護衛を送り込んでもらうことも可能だ。
しかし、実際にイリスも決行日を早馬使って姉さんへと知らせていたようだが、当然、返事が来るまでには相応の時間を要する。
寝ずに走り続けたとしても、往復で十数日はかかるだろうから、早馬が戻ってきたときには既に逃亡計画は実行に移されていることになる。
なので、どう考えても間に合わない。
そのため、俺の追放の予兆が出始めた頃から、皇后からの極秘任務という形を取って人知れず、護衛予定の人をリヨンバラッドに潜伏させているとのことだった。
俺たちはそこで彼らと合流し、そのあとのことは彼らに任せればいいという話だ。
「まぁ、そこまでの道程はそんなに大変でもないだろうし、なんとかなるか」
「そうね」
俺たちはそんなことを話しながら食事を終え、昨日買い込んだ旅の物資を馬車に積み込むと、南門から外に出た。
ゆっくりと遠ざかっていく王国最後の辺境の町トゥーラン。
「さようなら、俺が生まれ育ったヴァルトハイネセン王国」
俺は徐々に見えなくなっていくその城壁を眺めながら、一人、押し寄せる胸の痛みを堪え続けた。
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