追憶。そして、規格外の……1
翌日の夜明け前。
目が覚めたらなぜか、銀髪姉妹にサンドイッチにされていた俺。
俺の左隣にはべったりと俺に張り付いて抱き枕にしてきているイリスがいて、なぜかその俺と彼女の間にナーシャが仰向けに乗っかっていた。
昨日寝るとき、イリスはちゃんと自分のベッドに戻ってナーシャと一緒に寝てたはずなんだけどな。
まぁ、俺が寝入ったのを見計らってベッドに侵入してきたってことなんだろうけど。
ナーシャもナーシャで、夜中に目が覚めて、姉が隣で寝ていないことに気が付いてこっちに来たと考えれば、別段、不思議でもない。
ていうかこれ、サンドイッチと言うより、川の字もどきの状態で二人に圧縮されてるっていった方が正しいんじゃないか?
「なんだかなぁ」
まぁ、いいんだけどね。ナーシャは可愛いし、添い寝ぐらいしてあげてもいい。
イリスは……幼少期に植え込まれた強烈なトラウマさえなければな。
あれがあるから、どうしても一歩引いちゃうんだよなぁ。
「う……んん……」
ぼうっと考え事をしていたら、隣のイリスがむにゃむにゃ言って、更に俺の身体をぎゅ~ぎゅ~抱きしめてきた。
お陰で色んなものが身体に当たってやばいことになっている。
「しかし、イリスか……」
俺は昨日の夕方、彼女から話してもらったことを思い出していた。
◇◆◇
権力闘争が激化し、水面下で荒れ始めていた王宮。
安住の地だった場所を追われて逃避行の旅に出るしかなくなってしまった二人の少女。
ときを同じくして、同じように欲にまみれた権力者によって国を追い出されて捨てなければならなくなった俺。
追放された俺と逃亡する二人。
一見すると似た者同士でお似合いの三人だけど、俺たちがこんな道を辿ることになった裏には一つの計画があった。
その計画を立てるきっかけとなったのが、誰あろう、俺の親父だった。
「親父か……」
俺が生まれる前から王家に忠誠を誓って宰相どもと戦ってきたラーデンハイド公爵。
只者でないのは最初からわかっていた。
隻眼の傑人だの鉄人などと称されるような人間だからな。
だが、まさかそんな極身近な人が、今回の一件に関わっていたとは思いもしなかった。
イリスが帝国を頼るきっかけを与えたのも親父だし、姉さんが立てた計画を実行に移すべく、除籍後、俺の命を救うために使用人に落として家の中に匿ったのも親父だった。
外に放逐した場合、敵対勢力が俺をどう扱うか予測不可能だったから。ならば、家に匿っておいた方がまだ安全と判断した。
兄貴が俺に嫌がらせしていたのを見て見ぬふりしていたのも、計略の一つだったらしい。
クソみたいな扱いされていた方が、除籍理由に真実味が帯びてくるからと。
一方で、宰相たちには俺を処刑するという判断をさせないようにするために、恩赦に当たる追放という方法を取った方が、民衆へのアピールになると思わせた。
あるいは、『野垂れ死んで行く姿』を親父に見せた方が、長い時間苦しめられるから面白いと錯覚させた。
それが、俺が追放された理由のすべてだった。
そのことに関して、言いたいことがまったくなかったわけではない。しかし、今更言っても始まらないし、今思うとやはり、俺も権力闘争のまっただ中にいたから、もし仮に普通に女神スキルを手に入れていたとしても、どうなっていたかわからない。
最悪、陰謀に巻き込まれて死んでいたかもしれないからな。
そうやって考えてみると、やっぱりあの人の立てた計画は的を射ていたのかもしれないな。
俺はそう自分を納得させて、成り行き上仕方なくではあったが、イリスの帝国逃避行に同行し、彼女を無事、帝都へ送り届けることを快く承諾したのである。
あとは姉さんたちとうまく合流することさえできれば、当面の安全は保障されるだろう。
無論、あの人たちが計画通りに、俺たちに協力してくれればの話だがな。
あの人のことだ。もしかしたら、例によって何かよからぬことを企んでいるかもしれない。
すべてはあの人次第といったところだ。
――だけどまぁ、今はまだ、帝国に着いてからのことは考えなくていいだろう。今一番問題にすべきことは、俺はともかくイリスを連れ戻そうと追手が差し向けられているかもしれないということだ。
おそらく既に、イリスが逃げたことは宰相たちの耳に入っているはずだ。
一応この町に来るまでの間に小細工はしてきたらしいから、すぐに捕まることはないかもしれないけど、用心するに越したことはない。
それからもう一つ。それとは別に懸念事項がある。それが、俺の女神スキルだった。
俺が追放される原因となった、イリスによって隠蔽されたスキル。
バグった原因に彼女が関わっていたことを聞かされたときには驚かされたけど、理由を聞いたら普通に納得してしまった。
何しろ、隠蔽解除されたあと、自分に宿っているスキルを確認して呆れてしまったぐらいだからな。
『世界龍の円環』
それが、俺が手に入れた女神スキルの『大カテゴリー名』だった。
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