幻魔屋2
檻の中には棚が置かれていて、そこに、数十個の卵が綺麗に並べられていた。
「へぇ、卵ってこうやって管理してるのか」
「はい。一応、幻魔の卵ですからね。どの卵がどの魔獣のものなのかわからないものもありますから、いつ孵ってもいいように檻の中で保管しているんですよ」
「なるほど」
幻魔屋も色々大変だな。
「それじゃフレッド? この卵の中からよさそうなものを二つ見繕ってもらえるかしら?」
「は? またか?」
「えぇ、またよ」
「まぁ、別にいいけど。だけど、卵なんか物色して、ホント、どうすんだ? 俺たちはテイマーじゃないんだからな」
俺はブツブツ言いながらも、檻の奥に置かれた棚を隅々まで物色した。
大きさも色も模様もすべてバラバラ。
小鳥の卵みたいなものもあれば、鶏の卵みたいなものまである。
掌大のものもあれば、頭ぐらいの大きさのもの、もっと巨大なもの、様々だ。
「う~~ん。俺、こういうのよくわかんないんだけど……まぁ、これとこれだろうな」
そう言って手にしたのは、俺の掌の中に収まるかどうかという大きさの卵二つだった。
一つは色とりどりの斑模様。
もう一つは金一色という金持ちが見たら大喜びしそうなものだった。
「そう。それがいいのね」
「あぁ、多分これが一番いいと思えたよ」
根拠のない自信という奴だが、軽く頷いてイリスへと近寄ったのだが、
「旦那様、失礼ですが、それは止めておいた方がよろしいかと……」
「うん? なぜだ?」
「へ、へいっ。じ、実はそいつは大変曰く付きなものでして……」
「曰く付き? どういうことだ?」
「実はですね、店に並べておいて言うのもアレですが、そいつはこの町の西の森で取れたものでして」
「西って言うと、この町と同じ名前のトゥーランの森か」
「は、はいぃ。旦那様もご存じかと思われますが、あの森は非常に危険な森でして。凶悪な魔獣がうじゃうじゃいると言われているんですよ」
「そう言えば、そんな噂を聞いたことがあるな。ギルドに登録しているハンターですら手にあまる高ランクの魔獣がいるとかいないとか」
「そ、そうなんですよ~~。ですから、そんな凶悪な魔獣が生息している森で取れた卵です。当然、成体ですら調教不可と言われている個体も存在していますから、もし、その卵がその森のものだったとしたら……」
「生まれた瞬間襲われて喰い殺されるというわけか」
「は、はいぃ、そうなんですよ」
ひたすら恐縮する店の親父に、
「よくそんなものを売ろうと思ったわね。一流のハンターですら恐れるような卵を」
イリスの辛辣な一言が炸裂した。
この大陸には所謂ハンターギルドと呼ばれる職業組合が存在する。
腕に自信のある者たちはギルド登録して、ギルドに寄せられる様々な魔獣討伐任務などをこなして報酬をもらい、日々の糧を得て生活している。
それが俗に言うハンター。
ビーストテイマーも一応、ギルドに登録しないと表だって活動できないので皆登録している。
彼らテイマーの場合は、捕獲した魔獣を自分たちで調教し手懐けたものをギルドに卸して報酬を得ている。
卵もその一つ。
テイマーが仕入れたものしかギルドは受け取らないという方針になっている。
理由は簡単で、それだけ卵が危険だからだ。
テイマーは一応、登録するときに認定試験を受けることが義務づけられているので、豊富な知識を持っていないとなれないと言われている。
そういった幻魔の扱いに長けた者だけが卵を卸せるというわけだ。
「ここの商品って、一応、ギルドを通じて手に入れてるんだよな?」
「は、はい。ですがその、一部は……」
そこまで言ってお茶を濁す店主。
俺は溜息を吐いた。
「確か幻魔屋って、商品のすべてをギルドから仕入れて、契約したがってる人に売って幻魔契約させたり、卵から孵った幻魔を調教した上でギルドに卸すことを専門に請け負っている一部のテイマーに卵を売ったりしてるんだよな?」
「そ、そうですね」
「だったら、ギルドがそんなやばそうな曰く付きの卵をテイマーから買い取って幻魔屋に売るなんてことは早々ないはずだ。調教できない成体から生まれた卵を買い取ったって、その卵から孵った幼体をテイマーが調教できるはずないんだからな」
つまり、テイマーから秘密裏に安く買い取って売ってるんだろう。所謂非合法の密売という奴だ。
本当ならば、卵を買うのはテイマーだから、孵った卵の調教に失敗して大怪我したとしても、幻魔屋の責任にはならない。
そういう仕事だからだ。たとえそれが、調教不可能な幻魔だったとしてもな。
しかし、それを買ったのが一般市民となれば話は別だ。
一般市民に販売しただけでも場合によっては厳罰に処されるというのに、孵った卵からギルド非公認の魔獣が出てきたとあっては大騒ぎとなってしまう。
ギルドの手落ちとして問題視されることは言うまでもなく、当然、販売した幻魔屋も調べられることになるだろう。
そういったときに、密売に加担していたと知られたら一巻のおしまいだ。
だからこの人は俺が買おうとした途端、慌てたんだろう。
「本当だったら衛兵に突き出すところだけど、面倒くさいことになりそうだからな」
俺は店主からイリスに視線を戻した。
「なぜイリスが卵欲しがってるのかわからないけど、とりあえず、止めといた方がよさそうだな」
そう告げてから、俺は卵を元あった場所に戻そうとしたのだが――
「あら? 何をしているのかしら?」
「うん?」
「――店主さん、その二つ、買い取らせていただくわ」
「は? はあぁ~!?」「マジですか!?」
俺と店主はほぼ同時に素っ頓狂な声を張り上げていた。
それに対するイリスはと言うと、
「うふふ……店主さん? 勿論、安く譲っていただけるんでしょうね?」
悪魔の笑みを浮かべるだけだった。
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