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悪夢な未来視

 結局、その日に予定されていた女王陛下との謁見は取り止めとなり、まっすぐ帰路につくことになった。


 後日、改めて謁見の機会を設けてくれることになったらしい。

 まぁ、どうしても会わなければならないということもないのだが、顔合わせは宮廷のしきたりだから仕方がない。


 本当は生まれてすぐに女王様の元に連れていかれ、あのお方から、



「運命の三女神様のご加護があらんことを」



 と、祝福を授かったらしいのだが、当然、そんなもの、俺は覚えていないし、何より宮廷に正式に出入りできるようになれるのは五歳からと定められているらしいので、そういった意味合いもあって、謁見しないといけないらしい。


 そんなわけで、その日がやってくるまでの間、俺は前世の記憶を持ったまま、フレデリックとして毎日を過ごすようになっていた。

 生活習慣は特に変わっていない。


 記憶が蘇ったからといって、それまで生きてきた五年間の記憶が吹っ飛んだわけじゃないからな。

 ただ、記憶が蘇ったことで一つわかったこともある。

 それが、ずっと疑問に思っていた自分の髪や瞳の色にまつわる謎についてだった。


 俺の髪と瞳の色は共に黒いのだが、この国では銀髪や赤髪、青髪が多いと言われている。

 そのことに言及して差別されるようなことはなかったものの、珍しい色合いをしているとよく言われた。


 前世の記憶を取り戻した今だったら、なぜこの色だったのか、なんとなく納得できる。何しろ、前世は黒髪の日本人だったのだから。

 まぁ、ただのこじつけみたいなものだし、それが本当に影響してのことなのかどうかはわからないけど――ともかく。


 そんな感じで、俺は新たな人生を毎日、楽しく過ごしていた。

 厳しいけれどそれでいて優しい親父や、不治の病に倒れ病床に伏せる母さん、それから兄貴や幼い弟に囲まれ、何不自由のない暮らしを送っていた。


 しかし、そんな順風満帆な日々であったが、一点だけ、今までとは明らかに異なる異常な出来事に頭を悩ませてもいた。

 それが、毎晩のように襲ってくる悪夢や善夢だった。


 あの日――第二王女にファーストキスを奪われて前世の記憶が蘇るなどという、我ながらなんともこっぱずかしいハプニングに遭遇してからというもの、毎日毎日、おかしな夢ばかり見るようになっていたのだ。


 非常にリアリティがあって、普通であれば夢なんて起きたらすぐに忘れてしまうものなのに、ずっと記憶の奥底に引っかかっていて、一向に頭から離れてくれないような夢。


 しかも、その夢のすべてが実際に俺の身近にいる人間に起こる不幸とかそんなものだった。

 今現在だけでなく、見たこともない世界の姿や、俺や王女様たちが将来、成長したらこうなるんじゃないかと思えるような姿形の映像まで。



「まさか……これは未来視って奴じゃないか……?」



 その力は一週間ほどしか続かず、それ以降は再び平穏な日常が戻ってきたけれど。

 だけれど、もしこれが本当に未来視や予知夢の類いだったらまずいことになる。

 なぜなら、そのほとんどが破滅の未来だったからだ。



『今から十年後に行われる洗礼の儀で、おかしな女神スキルを手に入れてしまうこと』


『それが原因となり、代々王国筆頭竜騎士の家系として栄光を掴んできたラーデンハイド家が急速に没落していくこと』


『その被害を最小限に食い止めるために、俺は家を追われ、掴んだ栄光も失い、挙げ句の果てには更にその数年後、無一文で国外追放された挙げ句、野垂れ死んでしまうこと』



 などなど。


 すべて予知夢として見た映像だったから、未来に起こる出来事を丸々覚えているわけではない。しかし、



『――俺が追放されてより一年後、北の地より湧き出でた妖魔どもの大軍によってこの王国は滅ぼされ、それがきっかけとなり更に十年後、大陸全土が暗黒に覆われ死の大地となる』



 それが、俺が覚えている未来の姿だった。


 ――だったら!


 なんとしてでも、そんなクソみたいな未来、俺の手で変えてやる!


 そうしなければ、世界云々以前に、俺まで早死にすることになってしまうのだから。



「ぅおおおおおお~~! やってやるぜ、俺は!」


「何を叫んでおるのだ、お前は」



 俺と同じ五歳児の第二王女イリスレーネにファーストキスを奪われてから二週間後。

 俺は親父に連れられ再び登城していた。

 目的は勿論(もちろん)、延期になっていた女王様との謁見。

 今いる場所は例によって中庭だった。


 このとき既に未来視の力は失われていたが、俺は今後起こる悲劇のことを考え、知らない間に叫んでいたらしい。

 眼帯を嵌めた武神そのものといった風体の親父に睨まれてしまった。



「は、はは……」



 愛想笑いを浮かべる俺に、親父は呆れたように、だけど、最後はニヤッと笑ってくれた。



「ふ~れ~く~~ん♪」



 物思いに耽ふけっていたら、どこかで聞いたことのある女の子の声が聞こえてきた。


 ――ぎくっ。


 俺はぎょっとして背中を丸めると、恐る恐る声のした方を見つめた。

 中庭の中央を走る通路を、ちっちゃな女の子が片手を振って歩いていた。

 フリフリの白と黄色が基調のドレスと、トレードマークの銀髪ツインテ。

 そして、大人になったらさぞや美人で可愛くなるであろうニコニコ笑顔。

 見紛うはずもない第二王女イリスレーネだった。



「ま、まずいっ」



 俺は理屈抜きに背中が寒くなり、大慌てで彼女に背を向け逃げ出そうとしたのだが、彼女の足はそれより速かった。

 王女様は五歳児とは思えないような激しい足音させて走り寄ってくると、恐怖を覚えて振り返った俺の胸へと勢いよくダイブしてきた。



「ぅわぁぁ~~! ――ぃ、いってぇぇぇ~~!」



 思い切り芝生に背中を強打して叫ぶ俺。

 しかし、瞳を輝かせている彼女はお構いなしに、



「しゅき~~! ふれくんだ~~いしゅきっ♥」

「わぁぁ~~~~!」



 額に手を当てて呆れる親父と、大慌てで俺から姫様を引っぺがそうとする侍女たち。

 そんな中、イリスレーネ王女殿下はというと、



「ふれく~~~~ん♥ チュッチュしゅる~~~♪」

「わぁぁ~~! ま、待って! 待ってくださいぃ! 王女様ぁ!」



 悲鳴を上げるも俺の訴えは完全無視された。

 目の中にハートマークを浮かべながら妖しく微笑む王女様。

 彼女は幼女とは思えないような馬鹿力で俺の肩やら顔を押さえ込むと、勢いそのまま、覆い被さってくるのであった――





 ――かくして、俺はしばらくの間、彼女に唇と言わず、顔中を何度も何度も熱く抱擁され続けることとなる。



 そして、この日を皮切りに、実に数年もの間、将来女王となるお転婆幼馴染王女様にひたすら追いかけ回され続けることになるのであった…………ていうか、ひどい!

拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます!

『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。

皆さんの応援が、執筆の励みとなっておりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑

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