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起死回生の秘策と決断2

 彼女にはタイムリミットが存在している。

 イリスは既に、宰相の息子、レンディルと婚約させられてしまっているのだ。


 いつ婚儀が執り行われるのかはわからない。

 しかし、これを仕組んだのが宰相であることを考えると、もはや一年と猶予がないことは明らかだった。


 レンディルがイリスに惚れていることから考えても、そう遠い未来の出来事ではないだろう。


 奴とは何度もイリスを巡って喧嘩してきたが、俺としては別に取り合った覚えもないから、ある意味もらい損なわけだが――ともかく。


 息子であるレンディルとイリスをくっつけてしまえば、権力のすべてを掌中に収めたといっても過言ではない。

 あとは二人の間に女児が生まれたら、完全なる傀儡政権が樹立する。


 この王国は女王制度を採用しているため、婚姻を結んだからといって、宰相の操り人形と化したレンディルが王権を振るうことはできない。


 だからこそ、次期女王となる女児を設け、その子を洗脳した上で女王の座につかせてしまえばすべてが丸く収まる。

 祖父である宰相の地位は不動のものとなり、かくして、宰相による王国の支配が始まる。



 ――血の繋がりのないイリスや他の王族が王位についていた場合は、傀儡の呪縛から彼女たちが逃れたときに断罪される可能性があるからな。



 それを避けるためにはやはり女児を設けて女王に据える必要がある。そして、



 ――用済みとなった母親のイリスや王位継承権を持つナーシャ、それ以外の王族たちがことごとく粛正される。



 そうやって考えるとやはり、



「あの腹黒な姉さんが考えた通り、イリスたちは王国を脱出して、姉さんのところに行った方が懸命なんだろうな。あのままあそこに留まっていたら、本当にやばかったかもしれない」

「そうね。だからこうして計画通り、王都を出奔してきたのよ」

「なるほど。しかし、帝国か。俺も追放されたあとはあっちに出向いて亡命し、細々と生き抜いていこうとは思っていたけど、正直、あの人と関わり合いたくないんだよな」



 もっと言うと、俺は二度とあの人には会いたくない。あのいやらしく笑った顔で何をされるかわかったものではないからだ。

 俺は愉悦に歪んだ瞳で身体中をなめ回されている自分の姿を想像し、思わずぶるっと身を震わせてしまった。



「私もその意見には賛成だけど、でも、秘密裏に密書のやりとりをしてよかったって思ってるわ。お姉様、女王の私でも知らない王家の秘密とか色々知っているらしいし」

「……そんなものがあるのか」

「えぇ。本当であれば、お母様が急に亡くならなければ、普通に私がその知識を受け継いでいたと思うのだけれど、あんな、本当に酷い死に方をしたから……」



 彼女はそこで言葉を詰まらせてしまった。

 世間一般に発表されている先代女王夫妻の死因は事故死である。

 しかし、実際のところ、暗殺されたと見る意見の方が多かった。


 どうやって殺されたのかはわからない。

 先代夫婦が死亡した場所に立ち入ることができたのは極少数の人間だったろうし、戒厳令が敷かれただろうから。


 ただそれでも、噂の出所は不明だが、先代が謎の死を遂げた裏に宰相派がいたのではないかと、まことしやかに囁かれていた。

 その理由の一つが摂政役の交代であり、急激な権力の集中にあることは言うまでもない。



「まぁ、とりあえず、状況は理解したよ。なんでイリスたちが王都から逃げてきたのかってことだけはね。だけど、なんで俺までその逃走計画に巻き込まれているんだ?」



 いまいち己の立ち位置がよく理解できず、訝しむように隣の女王様を見つめてやったのだが、



「勿論、あなたも王国内にいたら、命を脅かされる危険性があったからよ」

「え? 俺が? どういうことだ? 俺はどの道追放される運命(さだめ)にあったから、あそこに留まる選択肢なんてなかったし、追放された以上、野垂れ死ぬ可能性こそあれど、命の危険なんてなかったと思うんだが?」

「普通はそう考えるでしょうね。だけれど……」

「だけど……?」



 イリスは瞳を曇らせ、さんざか逡巡したあとで口を開いた。



「覚えているかしら? あなたが女神スキルを授かったときのこと」

「うん? 洗礼の儀のことか? ……まぁ、一生忘れられないだろうな。レンディルたちにバカにされた上、もらったスキルがバグ表示されたおかしなものだったからな」



 俺はそう言って苦笑してみせたのだが、次の瞬間、イリスは予想外のことを口にした。



「薄々勘づいているとは思うのだけれど、あなたが習得したのは『岩石創造』なんかじゃないわ。王国始まって以来の前代未聞の意味不明な女神スキルだったのよ」

「意味不明? いったい何を言っている?」

「落ち着いて聞いてね。あなたが習得したのは――」



 そうして、彼女は俺にまつわる真実について、とうとうと語り始めた。

 俺のスキルがなぜバグ表示されていたのか、その事情のすべてを。


 そして、それがあったからこそ、その後、イリスたち含めた俺の追放や国外退避計画が綿密に練られていったということ。

 その計画の全貌を。


 俺は、その計画を立てたというあの腹黒な魔法使い――現在二十四歳のテオドラ・アルム・ユーグリッヒこと、イリスの姉と最後に会ったときのことを思い浮かべて、改めて薄ら寒くなった。

拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます!

『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。

皆さんの応援が、執筆の励みとなっておりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑

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