女王様の策略とおかしな身分証明書
俺たちの目の前には、町の中へ入ろうとする検閲待ちの旅人や住民が幾人も行列を作りながら、城壁門の前に並んでいた。
辿り着いた辺境の町トゥーランは上から見ると、南北に細長い作りをしている城塞都市だった。
俺も何度かこの町を訪れたことがあるから、それなりに町の構造は把握している。
この世界の大きな町は大体、城壁に囲まれていて、東西南北に城壁門が作られ、そこに検閲担当の兵や門を守る衛兵がいる。
当然、詰め所も城壁門と隣接するように作られているから、常時数十人の兵士が詰めている。
このトゥーランはそこまで巨大な町ではないので南北の二つにしか門がない。
俺たちは当然、北からやってきたので北門を通り抜けることになるのだが、問題は俺が身分証明書を持っていないということだった。
大体どこの国でも城門を潜るときには、身分証明書を提示しないと中へ入れてもらえないという決まりがある。
更に、手配書などが出回っていた場合、罪を犯した指名手配犯は当然、入門の許可は下りないし、それどころか、その場で御用となってしまう。
なので、せっかくこんなところまで来たが、俺がイリスレーネたちと同行できるのはこの門の前までということになる。
追放された挙げ句、身分証明書まで没収されてるんだからな。
中に入りたくてもどうすることもできない。
まぁ、追放というのはそういうものだから仕方ないんだけどな。
俺は自分を追放した宰相らを鼻で笑いつつも、隣の黒いローブ女に笑顔を向けた。
「――なんだか本当によくわからない旅だったけど、それでもまぁ、馬車を使えたからここまで楽できたよ。一応、そのことだけはお礼言っておくよ」
俺は嘘偽りのない感謝の気持ちを述べてから、地面へと馬車から飛び降りた――と思ったのだが、その瞬間、ぐいっとマントを掴まれ、物凄い力で強引に引き戻されてしまった。
「ぐはっ……お、おいっ……いきなり……げほげほっ……何すんだよっ……げほっ」
彼女は問答無用で俺が着用するマントの首根っこを掴んで、御者台へと引っ張り上げたのである。
手足をジタバタさせた状態で戻された俺は、お陰で首が絞まって危うく転生し直すところだった。
「フレッド? あなたは何をしているのかしら?」
「はぁ? 何じゃないよ! お前こそ何すんだよっ。俺は町の中に入れないから馬車を降りたっていうのにっ……」
大分喉の調子が戻ってきて、猛抗議したら、無言のままイリスレーネが何かを取り出した。
「あ?」
首に提げられていたと思しきペンダントのようなもの。
それを都合三つ、フードをかぶったまま器用に取り外すと俺へと渡してきた。
「なんだこれ?」
俺は首を絞められたことを根に持っていたため、不愉快極まりない面持ちのまま、胡散臭げにそれを眺めた。
どっからどう見てもペンダント。
女王様の胸元に収まっていたせいか、妙に生暖かい。
動物の革で作られたと思しき革紐の輪っかと、その先についているのはやはり、動物の革で作られた四角いペンダントトップ。
しかし――
「うん? あれ? これどっかで見たことあるような……?」
王国人であれば誰もが見たことのあるペンダント。というより、持っていなければ王国人ではない。
ヴァルトハイネセン王国の紋章が描かれたそれ。
それは間違いなく――
「は? ……はぁぁぁ!? なんで俺とお前が夫婦ってことになってんだよっ。しかもナーシャが俺の妹だと!?」
思わず素っ頓狂な声を張り上げてしまった俺。
周囲にいた検閲待ちの住民らが訝しげにこちらを見た。
しかしそれすら気にならないぐらい、俺は愕然としてしまったのである。
イリスレーネから渡された三つのペンダント。
それは紛れもなく、王国国民であることを証明する身分証明書だった。
「んっふふふ……」
一人呆然と御者台に座る俺と、それを見つめるフードで顔の半分が隠れた女王様。
彼女はただ、美しくて魅惑的な赤い唇に、艶っぽくて妖しげな笑みを湛えるだけだった。
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