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拉致された元竜騎士と銀髪姉妹

 ヴァルトハイネセン王国が属するこの大陸には、大きく分けて六つの国が存在する。


 一つは当然、祖国ヴァルトハイネセン王国。


 他にはユーグリッヒ帝国、リーンシュヴァルツ公国、ロン・バルディギア教国、シュネルリンゲン獣魔連合王国。


 そして、北西にある死の大地、魔の領域だ。


 この魔の領域にはかつて、勇者と聖女の国として勇名を馳せていたガラド・ヒルド聖王国という国があったらしい。


 しかし、突如として地底より湧いた化け物ども――総称して妖魔と呼ばれている連中によって滅ぼされ、今では人の住めない荒廃した土地となってしまったと言われている。


 この妖魔どもはちょくちょく国境を隣接する王国や公国、教国へと攻め入っては好き放題暴れ回っている。


 ゆえに、俺たち人間はその対抗策として、女神スキルなんてものを編み出して蹴散らしていたわけだ。


 俺たちが住んでいるのはそんな世界だった。



「――で、それはいいんだが、なんでこんなことになっているんだろうね?」



 なぜか手綱を握らされて、御者の役割を与えられていた俺。

 その隣には高そうな黒いローブに身を包んだイリスリーネが座っていた。

 彼女の顔はフードに隠れていたから、どんな表情をしているのかわからない。



「さぁ? そんなことよりも急いでもらえるかしら? 日が暮れる前に国境の町につきたいの」



 しれっと、澄んだ声色でそう答えてくる彼女は前方を見据えたまま、こちらを見向きもしなかった。


 彼女の指示通りにこのまま馬車を走らせていくと、あと一時間もすれば、ここから南へと進んだ先にある帝国との国境線付近の町、辺境都市トゥーランへ到着することになる。

 そこを過ぎれば、あとはもう帝国領だ。



「はぁ……たくもう。相変わらずだよな、イリスは。本当に行動がメチャクチャだよ。宰相たちと一緒に俺を国外追放した張本人なのに、どうして俺と一緒に国境へ向かってるんだよ」



 しかも、家名を奪われたあとの二年間は仕方がなかったにしろ、それ以前の俺たちはと言えば、ほぼほぼ絶交状態の疎遠な関係になっていたはずなのだ。


 幼い頃はよくタメ口で話したり遊んだり、顔を合わせる度に追いかけ回されたりもしていたけど、それもこれも十歳ぐらいまでの話だ。


 その辺から徐々に距離が離れていき、洗礼の儀のときなんかは目が合ってもにこりともしなかった。

 それなのに、追放された直後にいきなり拉致されるとか、まったくもって意味がわからない。



 ――俺のこと、嫌ってるんじゃなかったのかよ?



 一人ぶそ~っとしていたら、



「お姉たま、お兄たま、ケンカしちゃメぇでしゅよ?」



 既に馬車を走らせ何時間も経っていたが、その間事情をまったく話してくれない彼女に改めて深い溜息を吐いていたら、突然、御者台と荷台との間を隔てる幌が開けられ、舌っ足らずな女の子の声が聞こえてきた。


 この幌馬車は一般市民が使っているようなオーソドックスなものだ。

 荷台の部分にはシートが取り付けられていて、人を運搬するためだけに作られた馬車である。


 つい今し方まで、彼女はそこに座っていたのだ。

 俺は顔を出したちっちゃくて可愛らしい女の子の姿を目の当たりにして、更にがくっとなった。



「ホント、意味がわからない。なんで女王のイリスだけじゃなくて、妹のナーシャまで連れてきてるんだよ」



 イリスレーネ同様、黒いローブを着用した小さな女の子。

 彼女の名前はアナスタシア。まだ五歳ぐらいだった気がするが、イリスレーネとは歳の離れた正真正銘、血の繋がった妹――つまり、王妹殿下だった。


 アナスタシアとは彼女が一、二歳ぐらいの頃から時々顔を合わせていたが、それほど頻繁に会っていなかったにもかかわらず、なぜか懐かれてしまっていた。


 アナスタシアは五歳だからというわけではないが、非常に愛らしい少女だった。


 姉妹揃って白銀の髪と翡翠色の瞳の持ち主で、所謂(いわゆる)、彼女たち王家にしか発現しない王家スキルなんてものも所持している幼女だった。



 ――イリス同様、当然、どんなスキルを持っているのかは公表されていないけどな。



「ナーシャ? 危ないから中で大人しくしていなさい? もうすぐトゥーランに到着しますから」

「うん~~。でもお姉たま? フレッドお兄たまとケンカしちゃメ~でしゅよ?」

「はいはい。わかっていますよ」



 そうクスクス笑い合っている銀髪姉妹。

 俺はもう一度盛大な溜息を吐いてから、遠くの地平線に見え始めていた城壁へと視線を投げ、鞭打つ手を強めるのであった。

拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます!

『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。

皆さんの応援が、執筆の励みとなっておりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑

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