【追憶】幼き日の二人
「ねぇ、ちょっと本当にやる気なの?」
そこはヴァルトハイネセン王国王都中央にそびえ立つ、巨大な王城の中庭。
そこで、幼き日の二人は背の高い植木の陰に隠れていた。
「やるって言ってるじゃないの。いい? フレくん。今日こそはあの悪の魔法使いをやっつけてやるんだから!」
まだおそらく十歳にも満たない少女はそう言って、サイドツインテの長い銀髪を左右に振り乱しながら眉毛をキリッとさせて、隣の少年へと小声で言った。
着用しているワンピースともドレスともつかない白地の服が、風に煽られひらひらと舞う。
対して、その真横で密着しながら思い切り溜息を吐いていた少年。
黒髪黒瞳というこの国には珍しい風貌をした愛らしい顔立ちで、髪型同様、黒っぽい服装をしていた。
「絶対に無理だと思うんだよな。俺、あの人、怖いから近寄りたくないんだけど?」
「私だって怖いわよ。だけど、このままやられっぱなしじゃ、腹の虫が治まらないわ!」
「はぁ……まったくもう……イリスは相変わらずのお転婆なんだから……」
「なんか言った!?」
「い、いえ別に……」
目を瞑ってげんなりしたような顔をし、黙り込んでしまう少年。対する少女の方はというと、ひたすら木の陰から前方を覗き見ていた。そして、
「来たわよ……」
小声で囁き、手にした木の棒を右手に強く握り直す。
彼女の視線の先には、真っ黒くて煌びやかなドレスを身につけた白銀の髪が美しい少女がいて、彼女は丁度、王城の中から外へと出てきたところだった。
周囲には彼女以外に誰もない。
「やるなら今よ! 気合い入れていきなさい!」
そう短く叫んだ彼女は、
「お姉様! お覚悟を!」
少女とは思えないような猛スピードで、黒ずくめの女性へと突っ込んで行った。
「はぁ……やるしかないか……」
すべてを諦め思い切り溜息を吐いてから、黒髪の少年も銀髪少女のあとを追って全速力で駆けていった。そして、
「今日こそは……!」
彼もまた手にした木の枝を片手に飛びかかっていく。
しかし――
艶然と、妖女のような蠱惑的な笑みを湛えた黒ずくめの少女が、悪魔の瞳をこちら側へと向けてきて舌なめずりした姿を目の当たりにして、
「あ……ダメだこれ……」
少年は呟きながら、訪れた衝撃によって、真白き世界へと吸い込まれていくのであった。
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