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別れ、そして、始まりの一歩

「兄さん……」

「やぁ、待たせたな」



 身分証明書まで奪われ、事実上の無国籍となった俺を南門の外でクラウスが待っていた。

 すべては予定通り。

 幼い頃に見た未来視の映像通りの展開。

 運命は変えられなかったが、それでも一人生きていくのには十分過ぎるぐらいの金は用意できていた。



「本当に行くのか……?」



 使用人まで身分を落とされたあとも、俺のことを慕って色々便宜を図ってくれたクラウス。

 この可愛い弟のお陰で、どうにか金を貯められたといっても過言ではないだろう。


 弟には一応、将来こうなるかもしれないからと説明した上で、情報収集や旅費の工面、食糧や水、それからこれからの旅の必需品となる旅道具や武器の手配を頼んでおいたのだ。

 それが、唯一俺が野垂れ死にの未来を回避できる手段だった。


 俺はクラウスから道具袋や竜騎士にしか与えられない魔法強化された竜騎士の剣を受け取った。

 この国の騎士が持つ武器には大抵魔法強化が付与されている。

 竜騎士が騎乗するワイバーンは竜種なだけあり、とても鱗が硬い上に、常に魔法強化されている。それを切り裂こうとしても、とてもではないが普通の武器では傷つけられない。


 だからこそ、竜騎士だけでなく、他の騎士団にも同様に、魔法強化された武器が支給されていた。

 まさしく、竜騎士の王国ならではの対策だった。


 ――もっとも、用意してもらったこの武器は、本当なら俺が除名されたときに国に返却しなければならなかった愛用の品なんだけどな。


 俺はそれをクラウスに無理言って、隠してもらっていたのだ。

 いやぁ~ホント、我ながらにいい弟を持ったものである。


 俺は剣の具合を確かめたあとで、予見した追放の未来が現実のものとなって悲嘆に暮れているクラウスの肩をポンポンと叩いてやった。



「心配するな。こう見えても俺は元白焔の竜騎士だ。どこでだってやっていけるさ」

「そうだけど……」

「それよりも、むしろ心配なのはお前らの方だよ」

「え? 俺たち?」

「あぁ。くれぐれも無茶だけはするなよ? それから、俺の分まで、親父のことを頼む」



 俺は知っている。

 俺がいなくなったあと、この国が北の地より襲来してきた妖魔どもによって攻め滅ぼされてしまうということを。


 俺の追放は変えられない未来ではあったが、王国より脱出したあとも引き続き、なんとかして王国滅亡、ひいては終末の未来だけは変えたいと思っていた。

 俺を追放に追い込んだ腐った連中のことはどうでもいいが、元家族や無辜(むこ)の民草まで不幸になる姿なんて見たくもない。


 俺は今生の別れになるかもしれないと思い、悲しみを堪えながらクラウスへと笑顔を向け、そして、王都を去っていった。



「さてっと。これからどうしようかな」



 着の身着のままの状態で放逐されたから、今の俺は使用人用のみすぼらしい衣服を身につけているだけの姿だった。

 しかし、こんなこともあろうかと、クラウスに準備しておいてもらった旅用の分厚いマントがあったので、それを道具袋から取り出し、全身を覆うように身につけた。


 その上で、街道沿いにひたすら南下するように歩き、王都から大分離れた場所まで歩を進めた。

 左手には森、右手には大草原が広がっている。

 そんな場所だった。

 俺はふと、雲一つない青空を見上げた。

 こうなるとわかっていたことだが、いざ本当に野に放逐されると、どこか寂しさを禁じ得ない。

 俺は今後のことを考えて、大きく溜息を吐いた――と、そんなときだった。



「なんだ?」



 後方から物凄い速さで一台の幌馬車が駆けてきた。

 俺は危険を感じて街道から外れたのだが、いきなり馬車が目の前で急停車した。そして、御者台に座っていた黒いローブ姿の人間が勢いよく飛び降りてくる。

『なんだぁ?』と怪訝に思っていたら、



「そこのあなた! 今すぐ私と一緒に来なさい!」



 どこかで聞いたことのある女の声だな、などと呑気なことを考えていたら、そいつが突然、俺の腕を掴んできた。

 そして、そのまま凶悪なまでの馬鹿力で引きずり始める。



「あ……お、おいっ。いきなり何するんだよっ」



 たまらず叫ぶも抵抗空しく、俺は怪力女によって無理やり幌のかけられた荷台へと押し込まれてしまったのである。

 まさに一瞬の出来事だった。



「――いてっ……おい、お前! いったい、なんなんだよっ」



 頭をぶつけて不機嫌となった俺はそう文句を言ったのだが、そのとき、幌の外にいた女のフードが風に煽られめくれた。

 俺は大気に晒された銀髪少女の顔を見て、思わず絶句してしまった。

 なぜならば。



「なっ……お前……イリスかっ……?」



 愕然と叫んでもう一度絶句する俺に、ローブの女――女王イリスレーネは目尻を下げてニヤッと笑った。




 ――こうして、俺の未来はおかしな方向へと変わっていくのである。

拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます!

『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。

皆さんの応援が、執筆の励みとなっておりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑

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