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転生、そして、アレで記憶蘇る

「へ……?」



 僕は自分の身に何が起こったのかわからず、一人呆然としてしまった。

 僕が生まれ育ったこの国――ヴァルトハイネセン王国で一、二を争う五公爵家の一つ、ラーデンハイド公爵家の次男坊として生を受けたフレデリック・ラーデンハイド。


 それが僕の名前だったのだけれど。

 そんな僕の上には今、一人の可愛いらしい女の子が僕を組み敷くような形で馬乗りになっていた。


 彼女はこの国の第二王女様で僕と同じ、五歳になったばかりの可愛らしい銀髪ツインテの女の子だった。

 なんでいきなりこんな状態になってしまったのか。

 記憶を辿ってみたけれど、まったくもって意味がわからなかった。


 今日は五歳を迎えた僕を女王陛下にお披露目するということで、鋼の竜騎士の異名を持つ隻眼の父、オーギュスト・ラーデンハイドに連れられ、さっき、初めて王城の中に入ったばかりだった。


 そして、そのまま城の中庭を無邪気に笑いながら胸張って歩いていたのだけれど、城の出入口辺りから侍女軍団を引き連れた、第二王女イリスレーネ・ヴァルトハイネセン様にばったりと遭遇してしまったのである。


 彼女は僕の姿を見つけると、酷く驚いたような顔色を浮かべてゆっくりと近寄ってきた。

 彼女の姿を見つけて、微笑みながら恭しく腰を折った父さんの姿を目にしたから、僕も慌てて真似をした。


 王女様と直接会うのは初めてだったけど、彼女がそういう高貴な身分の人だって知ってたから、右倣えしたんだけど。

 それなのに――宮廷儀礼に則って頭を下げたのに、気がついたら仰向けに押し倒されていたのである。


 僕は相変わらず何がどうなっているのかわからなくて、頭が真っ白な状態で王女様を見ていた。

 そんな僕に何を思ったのか、王女様がサイドツインテのお下げを左右にぶんぶん振り回しながら、いきなり、



「しゅき~~~~♥」



 大きな翡翠色の双眸(そうぼう)をキラキラさせながらそう叫ぶと、勢いよく覆い被さってきて、唇を奪ってきたのである。



「「「「ひ、ひめさまぁぁぁぁ~~~!」」」」



 慌てふためく父さん。

 頭を抱えながら悲鳴を上げる周囲の侍女たち。

 こういうのを青天の霹靂って言うのかな?


 僕は彼女の奇行によって余計に頭が錯乱して、更に頭の中がぐちゃぐちゃになってしまった。

 自分が何をされているのかもよくわからなくて、呆然と固まっていることしかできなかった。

 そのことが多分、余計に彼女を興奮させてしまったのだろう。


 無抵抗な僕に対して、可愛らしい王女様はここぞとばかりに、きゃっきゃっしながら、ひたすら何度も何度もチュッチュしてくる。


 一人かちんこちんに固まっていた僕が正気を取り戻したのは、王女様が周囲の侍女たちによって引き剥がされたときだった。



「ぃや~~! もっとしゅる~~~!」



 手足をジタバタさせながら、侍女たちに取り押さえられる形となった彼女。

 僕は突然の出来事に酷く衝撃を受け、全身を灼熱の業火に焼き尽くされたような気分となってしまった。

 もしかしたら、それが原因だったのかもしれない。



「うっ……!」



 いきなり頭に激しい痛みが襲ってきて、刹那、目まぐるしく脳裏にわけのわからない記憶が駆け巡ってきた。


 まったくもって意味がわからない現象。

 誰かがよく知らない名前で僕のことを呼んでいるような気がした。

 よくわからない場所で、授業というものを受けているような気がした。

 もしかしたら、それはなんらかの仕事をする場所でのことだったのかもしれない。

 だけど、ともかくも――



「ぼくは……おれは……ここは……?」



 僕はしばらくの間、記憶の奔流に蹂躙され続け――そして、約一分後、前世の記憶を取り戻し、自分がかつて日本人と呼ばれていたことを思い出したのである。

 そして、その瞬間、僕は俺になった。




◇◆◇




「フレッド。少々厄介なことになった。出直すぞ」



 状況がよく飲み込めず、自分の手を見つめていたら、知らない間に『親父』に抱き起こされていた。



「え? あ、うん……」



 げっそりしたような顔を浮かべた親父によって、『俺』は家に連れ戻される羽目に陥った。

 よくわからないけど、王族と痴態を繰り広げたんだ。

 ただですむはずがない。

 そう思ってのことなんだろうけど。


 俺は親父に手を引かれながら、後ろを振り返った。

 悲鳴を上げて大暴れている王女様が、今しもこちらに向かって駆けてきそうな勢いだったけど、俺の意識はすぐに別の場所へと移っていた。


 宮殿の出入口より更に上方に開いた窓から、こちらを眺めている人がいることに気が付いたからだ。

 とても威風堂々としていて、波打つ美しい白銀の長い髪を微風になびかせた女性。



「あれは……女王陛下?」



 遙か彼方から俺たちをじっと見下ろしている彼女の美貌が、そのときの俺には優しく微笑んでくれているように感じられた。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

『ブックマーク登録』や『☆☆☆☆☆』付けまでして頂き、本当に嬉しく思っております。

皆さんの応援が執筆の励みとなり、ひいては大勢の方に読んでいただくきっかけともなりますので、今後ともよろしくお願いいたします(笑

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[良い点] ませたガキだな笑
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