６コマ目 社長
前半運営視点ですが、後半は主人公サイドです。
伊奈野のダンジョンがイベント終了と共に扉を開き、慌てる中。
満足げな顔をしている者達がいた。
「とりあえず、これでこのプレイヤーがダンジョン作成を繰り返すということはできなくなったな？」
「はい。うまくすればＮＰＣたちにダンジョンを発見させて襲わせることも可能になったかと。さすがは社長です」
「ふんっ。こんなものプレイヤー同士の情報を支部が共有していれば、私を通さずとも出来たとは思うんだがな」
「それはそうかもしれませんが………まあ、日本サーバの計画を大きく狂わせているプレイヤーへ牽制を行なったということで、各支部からの信用性は一段と上昇するかと」
「そんなことで示さずとも実力で信用くらい勝ち取れる……」
モニターを眺める者達が数人。彼らは、このゲームの運営だ。それも、いつも伊奈野を警戒している日本支部の運営などではなく、全体の管理をする本社の社長である。
「問題はこの後だな。無理矢理ダンジョンを開放させたから不満がたまることは容易に予想できる」
「それは間違いないでしょうね。本当はもう少し支部と協力してあの国のサーバの防衛体制を強化させたいところではありますが」
「あの国のサーバは特殊だからな。下手な外部からの調整や干渉を行うとあの国はこちらに矛を向けかねない」
運営が伊奈野のダンジョンを強制的に開放させたのは、イベントで勝たれると困るからでも伊奈野が炎さんと呼ぶモンスターのデータが大きいからでもない。
ただ、伊奈野と言う存在に制限をかけたかっただけなのだ。
「グリモワールだったか？あれの所為で管理ＡＩにも監視は任せられんし」
「ここで使うサーバを日本サーバに限定させて常に監視できる状況にしたいところではありますが………………ん？社長ちょっと待ってください。マズいかもしれないです」
「マズい？どうしてだ？」
「準英雄がダンジョンに侵入しました」
「準英雄！？そ、それは確かにマズいかもしれないな。誰だ？」
「…………リッチワイトです」
「………………………………ダンジョンの場所まで確認していなかった。あのプレイヤーをなめていたか」
『余はリッチワイト。ダンジョンマスターに話があってきた』
「あっ。わ、私ですか」
舞台はまた伊奈野のダンジョンへと戻って。
リッチワイトと名乗る高そうなアクセサリーや服などを大量に身に着けたスケルトンが、ソファーに座り伊奈野と向かい合っていた。
炎さんのために用意していたソファーだったのだが、リッチワイトは入ってきてそれを見たかと思えば『用意が良いな。褒めて遣わす。これで茶菓子でもあれば完璧だったのだがな。あぁ、いや。余は食べることなど不可能か。カカカッ！』などと何が面白いのかさっぱり分からないことを言いながら我が物顔で座ったのだ。
「で、何の御用でしょうか？」
『うむ。知っておると思うが、現在この墓場には邪神の使徒共がうろついている』
（いや知らないけど？何を常識みたいに言ってんの？）
突然出てきた情報に伊奈野は困惑しつつ、ただ敵対してダンジョンが壊されても嫌なので表面上は訳知り顔で適当に相槌を行ないつつ話を促す。
一応邪神関係の話は少しだけ使用人の瑠季から聞いていたので、
「さすがに透明になる相手をどうにかするのは難しいですよね」
『そうなのだ。今のところ余の存在は発見されていないのだが、いつあの厄介な者達に見つかってもおかしくはない。そこで、このダンジョンに匿ってはもらえないかと思ってな』
「匿う、ですか」
伊奈野は考える。
この目の前の相手は、作品によるが中ボスくらいの強さはありそうな見た目だ。アンデットで豪華な服装で名前にワイトとかリッチとかついてたらそれはもうかなり強い存在だろう。当然敵対はできない。
そうなると頷くしかないのだが、
「匿うのはかまいませんが、私はダンジョンをまともに運営するつもりはありませんよ？」
『ほぅ？どういうことだ？』
「私の目的は、このダンジョンを勉強するためのスペースとして使うことです。特に防衛体制を作りたいとは思っていません」
『なるほど…………となると、入り込まれたら終わりというわけか』
リッチは悩ましげな顔（表情の変化とか特にないけど）をする。
ただ、そのワイト様子を見て伊奈野はひらめく。
「あっ。でも一応ＤＰっていうものはあるので、それの余ってる部分でよければ好きに使って防衛体制を作ってもらっても構わないですよ？」
『ＤＰ？なるほど。ダンジョンの構造は余もよく知らんが、使って良いのならありがたく使わせてもらうとしよう』
「はい。あっ、じゃあ、炎さん。この骸さんと防衛体制の話し合いはしてください。ただ、アイテムとかを召喚してそれを渡すとかすると持ち逃げされた時が怖いのでなしですよ」
「え？あっ。は、はい？じ、自分に任せてしまって大丈夫なんですか？」
「まあ、私がやるよりはいいと思います。じゃあ、私は勉強するのであとは勝手にどうぞ」
伊奈野はそうして言いたいことだけ言って、机に向かう。すでに２人やダンジョンへの興味は失ったとばかりに。
残された２人は急に集中した伊奈野から出される威圧感に驚愕しつつ、
『は、話し合う、か』
「そ、そうですね………」
