５コマ目 運営の意志
昨日の夜のものに続けて説明追加です。作者が微妙に答えるところを間違えてたみたいです（教えて下さった読者様ありがとうございます！！
主人公が使っていた準備時間というのは『イベントの』準備時間ではなく、『ダンジョン作成の』準備時間です。
このイベントに準備時間というものは存在しませんので～
《称号『不死者を殺す者』を獲得しました》
という流れるログに気づくこともなく。伊奈野は見えなくなってしまったならば仕方がないと考えて勉強を再開する。
もちろん、大きな理由があるわけでもないが『牽制魔弾』の『連射』の『設置』はしつつ。
「さっき見た限り移動速度はかなり低そうだったし、少しは時間があるかなぁ」
見た限りの話でしかないが、そこまで死神が早く移動しているようには見えなかった。それはもう姿を消したところで、数分間キルされることもコアを破壊されることもないくらいには。
「………いや、流石におかしくない？」
伊奈野は移動速度が低いにしても、あまりにも何もないことに首をかしげる。
その頭の中では、他のダンジョンマスターが死神を対処できずにひたすら入り込まれ続けることなど考えられてもいなかった。
「何なんだよ！魔法も物理攻撃も罠も効かないし！来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るなぁぁぁぁぁぁぁ！！！！！！！！！」
どうしようもないほどに死神が強い。
モンスターは触れることすらかなわず、地形による効果は浮遊しているため一切受けず、魔法の嵐も無効化される。
勝つことは不可能だと思えるような存在だ。
じわじわと迫ってくるその存在に最後まで対策を立てることはかなわず、プレイヤーはむなしくキルされた。
では、残った伊奈野がどうなるのかと言えば、
「あっ。また出てきた。今度は、なんか赤っぽい？」
またもや死神が目の前に現れる。今度は外装が赤くなっており、別の個体であるように見えた。
伊奈野は先ほどまでの黒い個体はいったいどこに行ったのかと考えつつ、
「それじゃあ今度こそ、必殺！本の角アタ～ック☆！」
伊奈野は黒い本を振り上げ、もう一度駆けだす。今度は『必殺』なんていうユニークスキルはクールタイム中のため発動することはなく。
伊奈野は死神の元までたどり着くことができて、
《死亡しました。イベントフィールドから強制的に退出となります》
「あれ。負けちゃった？」
一瞬だった。触れた瞬間にキルされたこととなり、伊奈野はイベントフィールドから退出させられた。
戻ってきても周囲はいつも通り。イベントの時と特に変わらずイスとテーブルとライトがあって、入り口も当然のように残っている。
あと、燃え盛る何かもいるが、イベントの時と変わら
「ないわけないよね！？え？何で入り口があるの！？あとそこの燃えてるの何！？」
イベント後は元に戻るという話のはずだった。しかし何故か入り口は開いたままだし、よく分からない炎が増えているのである。
伊奈野が困惑するのも当然ではあった。
そうして伊奈野が頭を抱えていると、
「落ち着いてください。自分が説明いたします」
そんな声がかけられる。
伊奈野は声の主を探し、
「ほ、」
「ほ？」
「炎がしゃべったああああぁぁぁぁぁぁ！！！！？？？？？」
驚愕する。
いつの間にか現れていた炎が、急にしゃべりだしたのだから。
自分の部屋に知らないものが増えて、しかもそれがしゃべりだすなんて言うことになれば驚くのも当然だろう。
「あっ。これは驚かせてしまい申し訳ありません。自分、今回のイベントにおける賞品として設定されておりましたダンジョンモンスター兼ダンジョンマスター補佐であるフレイムです。これからよろしくお願いいたします」
「あっ。は、はい。よろしくお願いします？モンスターなんですね」
「はい。そうなります」
フレイムと名乗るモンスターは頷く、ような雰囲気を出した。
よく見てみると若干格好がスーツっぽい物を着ているように見えなくもない。このゲームのモンスターに関して伊奈野はあまり詳しくはないが、他のゲームのことを考えるとしゃべるモンスターというのは珍しいような気がするので特殊な存在なのではないかということは予想できた。
とはいえ、伊奈野の理解が追い付いていない、
のだが、
「それでは先ほど中断した説明を再開させていただきます。今回のイベントであなたがダンジョンの準備期間を利用することにより上位になりました。運営が次回以降こういった事態となることを対策するために、あなたのダンジョンは強制的に準備期間が終了され正式なダンジョンとして運営が開始されたわけです」
「………はぁ」
伊奈野はため息なのか納得の声なのか区別のつきにくい声を漏らしながら話を飲み込む。
つまり、伊奈野は予想外にイベントで活躍してしまったから、裏技的な現在の方法でまた上位に残られることを警戒されたという話なのである。
「なら、次回からそういう状態で参加するのを規制するとかすればよかったんじゃないですか？わざわざ私の準備期間をなくしたりする必要はなったと思うんですけど」
「それは景品である自分の存在がダンジョンを作り直されるたびに再構築するというのがバグを引き起こす可能性があると判断されたからですね。自分はかなりのデータ量を持っているようですので」
「ふぅん。そうなんですか……………」
上位入賞して得られた景品だというのなら、データ量が大きいのも理解はできる。
だが、そうだというのであれば、
「あなたが再構築されなければ問題ないということですね？私は別にモンスターなどは求めてないので、あなたも再構築される必要はないのですが」
「そ、そうですか…………」
あまりにもあんまりな物言いにフレイムは落ち込んだような様子を見せる。自分が必要ないと言われているようなものなので当然だろう。
だが、伊奈野はそんな様子など一切気にすることはない。
ＡＩが落ち込んだ様子を見せるくらいで勉強できる空間が手に入るならそれでいいのだ。
しかし、
「ま、まあ、運営からすると上位入賞者が次回以降出てこないというのもイベントが盛り上がらないということで拒否したいというのもあると思いますので」
「え？そんなどうでもいい運営の都合で私は準備期間をなくされたんですか？」
「あ、あの、えぇと。お詫びとしてそこそこのＤＰも」
「いや、とくにＤＰとか求めてないんですけど。私は繰り返しダンジョンの準備期間を使えるならそれでいいんですよ？」
「え、えぇと。そのぉ………………あっ、運営から連絡が来ました！元に戻すことは様々な部分に支障が出る可能性があって難しいので、ＤＰをさらに多く渡すから許してほしいとのことです」
「ふぅん………」
流石にそういわれると、伊奈野もこれ以上駄々をこねることはできない。運営まで出張ってきたとなれば納得するしかないのだ。
どの程度のＤＰがお詫びとして渡されるのかは分からないが、
「炎さん。ダンジョン補佐っていうくらいですから、ダンジョン運営のこととか分かるんですよね？とりあえず対策を立てます！」
「あっ。は、はい」
伊奈野は切り替えて、どうにかして自分があまり関わらなくても安全になるダンジョンの体制を作ろうと考えた。
急な様子の変化に炎さんことフレイムも戸惑いつつその提案へ頷き、
「炎さんはソファーとか座れますか？燃えたりしません？」
「それは問題ありません。私が燃やそうと意識しない限り触れたものに炎は移らないようになっております」
「そうですか、じゃあ」
伊奈野は自分の向かい側にソファーを召喚し、炎さんを座らせようとする。
これからのダンジョンの運営方法、そして、入り口が開いてしまったのだからこれから来るのであろう侵入者について話そうとしたのだが、
『ふむ。余が来たからこそ道を開いたか。良い心がけだな』
どうやら伊奈野の行動は少し遅かったようだった。
