17コマ目 効力増強
伊奈野は瑠季から聞いた薬草の存在を黒い本に伝えた。本人としては単純にそれが何かに使えたらいいくらいのつもりだったのだが、黒い本によるといくつかは実在すら確信を持てなかったようなものなようで、驚きと共に好奇心が掻き立てられる。
その薬草を調べ、深く理解したいと思うわけだ。
とは言っても、通常であればそんな簡単に実在すら確信が持てないような薬草を入手することは難しかっただろう。そもそも販売されていなかったり発見が難しかったりするからこその確信のなさなのだから。入手などできるはずがないのだ。
しかし、運がいいことに黒い本や伊奈野は違った。なぜなら、購入したい時に最初に頼る相手が店主さんなのだから。
その商人としての腕前はゲーム内で1番と言ってもよく、
「ご主人様~!買ってきたよ~!!」
『おお。売ってたんだ。店主さんも良く持ってたね』
「最近たまに出回るから買ってたけど、売る相手がいなくて困ってたくらいなんだって!」
『へぇ?そうなの?』
それならば薬草を伊奈野達が集めていると知った時に一緒にセールストークでもしてきそうなものだがとは思うものの、伊奈野は深くは追求しない。例え適当なことを言って少し割高に売りつけられていたり特に値引きをされていなかったりするのだとしても、伊奈野の懐は痛まないのだから。
そんなお金の事よりも、大事なのは薬草の効果である。
黒い本も詳しいことが分かっていないような薬草となると使い方もハッキリしたことは分からず、様々なことを試してみることになる。
抽出の方法から混合の方法まで。
いつも通りと言えばいつも通りなのだがあらゆる手を試していると、
「ご主人様。この薬草、少しだけ混ぜると薬の効力を向上させる効果があるっぽい!」
『そうなの?それは普通にすごくない?』
「うん。ただ、全部の薬が効果を受けられるわけじゃないみたいなんだよね。特定の薬品にしか効かないからご主人様の治療につながるかどうかは…………」
どんな薬でも強くできるわけではないという事であり、伊奈野の状態を元に戻す糸口にはならなそうという事であった。どうやら、効果がありそうな薬の強化は叶わなかったようだ。
しかし、伊奈野はそれでもかまわないと考える。
今までの薬に相性の良い物がなかっただけで、これから新しく効果のありそうな薬を生み出せたときにそれの効果を向上させてくれたりするれば良いのだから。
そして何より、治療にはつながらなくても薬の効果を向上させるというのは悪い事ではない。
今まで販売していた薬も一部は効果を高められるという事であるし、
『その薬草をダンジョンで栽培できて怪しい服の人に提供できるなら』
「ん?何かできるようなことあったっけ?」
黒い本は首をかしげるが、伊奈野には1つ期待していることがあった。
それこそが、怪しい服の人の興味を現在の無限などの禁忌から外しつつ骸さんの配下などの強化をする事。そしてあわよくば、自分の武器を交換すること。
ダンジョンにいる怪しい服の人は、特定の呪いに使う植物を本にしみこませるなどして強力な力を持つ本を作成することに成功していた。元は伊奈野が引き起こした事態だがそれで起きたことを分析して改良し実用化まで持って行ったのが怪しい服の人なわけである。
しかし最近の怪しい服の人はダンジョンで作った禁忌に関連する事柄に手を出してばかりでそこが疎かになっているため、一旦そこから意識をそらしてもらうためにも今回の事は使えるのではないかと思ったわけだ。上手くすれば怪しい服の人の本職である呪い関係も強化でき、なおかつ骸さんの配下にそうした本が行き届けば骸さんも強化されるためしばらくはそちらの作業に時間と労力を割いてくれるはずなのである。
その間に禁忌から意識をどんどん逸らし続けてもらえれば、将来的に怪しい服の人が骸さんにとっての脅威になることもないだろうと思うわけだ。
そしてあわよくば、伊奈野も主力武器をそちらに変えたい。
今も日本サーバでは邪神の元拠点で武器たちが力を合わせたりして様々な攻撃の開発や改良、使い道の探りなどを行なっているが、それでもまだ使いやすくお手軽に強さを出せる武器と言うのは黒い本になってしまうのだ。
特に武器たちのいないダンジョンのサーバでは戦う事こそ少ない物の結局のところ黒い本に頼ることになる未来が見えるため、速めに対策したい。
そう言ったこともあって、その薬草に期待を寄せているのだ。
「強くなってるなら僕も取り込みたい!」
何よりも伊奈野が求めているのは、その本が黒い本の攻撃力を超える事。
やはりこれに尽きる。
黒い本は攻撃力が上がるならそれも取り込んでさらに強くなってしまおうと考えているようだが、伊奈野としては黒い本も取り込めないほど強力なものになることを祈るばかりである。
とは言っても、それはせいぜい分の悪い賭けに思えるかもしれない。黒い本が興味を持つような本を取り込めなかったというためしがないように思えるのだから。
だが、最悪伊奈野はそれでもいいと思っている部分もある。
黒い本が取り込んでさらに強くなることは一旦許容してしまうのだ。
しかしそれでも作る価値も自分で使う価値も十分にあると考えている。
なぜならば、
『前回で大岩を壊せてたからね。それこそバフとかかけられればダンジョンの狭いフィールドぐらいはまとめて攻撃できるくらいの威力を出せるんじゃない?』
「おぉ!それはすごいね!楽しみ!!」
黒い本が取り込まなくても威力は高いのだ。
よって強化されて一定以上の攻撃力を誇るようになるのならば、多少威力は落ちるとしても黒い本を使う必要もなくなるのである。その新しく用意してもらった本さえあればある程度安心できるというわけだ。
それこそ、そこまで威力が高ければ多少の差は誤差にしか感じなくなり始めるように思えるのだから。
ということですぐにでもダンジョンで怪しい服の人に声をかけて試したいところではあるのだが、一旦ステイだ。
なぜならばまだ、薬の強化ができたという事は分かってもそれがどれほど強化されたのか分かっていないのだから。
『混ぜる薬によっても強化幅は違うだろうけど、どれくらい強化されるのか参考程度には確認しておいた方が良いよね』
「それなら、この薬とかは分かりやすいかな?植物の成長を促進させる薬だから、この場所で測るには適してるはず」
薬の強化がショボいなどという事になったら呪いなどへの転用もあまり期待はできない。
そう言うわけである程度は効果を調べておく必要があるわけだ。
幸いなことに実験の結果は悪い物ではなく、いくつか薬を試してみると薬によって差違こそあれど最低でも1割程度は効果が上昇することが確認できた。
これには期待ができると思うと同時に、黒い本は値段交渉をしなければならないと燃えている。
どうやら1番効果が高まったものは同じ薬でも別枠として販売して、少し割高にするつもりのようだ。
同じ値段で効果に差があるのも問題なため判断としては間違いではないと思うのだが、全部効果を高めたものに変えてしまえば気にする必要もないと伊奈野は思ってしまう。
もちろん、それは購入費用の差を気にしないほど資金が有り余っているからこそ考えられることなのだが。
なお、その後販売してみて効果の差を店主さんからも伝えて貰えて、
「TS薬の効果が1番高いのか~」
伊奈野は、なんとなく誰かが頭を抱えている姿が目に浮かんだ。




