13コマ目 分岐
配下に集中砲火をさせ、反射されたら更に反射し返して倒す。
これが骸さんの怪しい服の人対策となった。
「これは勝ちましたね」
「何があっても大丈夫でしょう。問題ないはずです」
『最初の反射さえ突破できれば後はどうにかなりそうだ』
伊奈野を含め全員これの完成により余裕をぶっこいている。一切の心配をしていない。
だがしかし、それは油断に他ならないのだ。
所詮はその想定する無限の使い方と言うのは、伊奈野達が考えるようなものでしかない。もうダンジョンに活用できないため、そこまで真剣に検討することがない伊奈野達が。
それこそ相手が絶対に近づけないようにできる仕組みなんて使いようによっては無敵にもなれるような能力なんて、改良のしどころもいっぱいあるし使い方も様々。
伊奈野達の想定を超えてくることくらい、想定していなければならないのである。
とは言っても、そうした油断はそこまでひどい結果をもたらすわけではない。何せ、ダンジョン内で活動し続ける怪しい服の人を監視しているのだから。
何かしようとするのならば、その動きを逃さず、
「は?何ですか、あれ」
『自分の周囲に展開しているわけではない?これはまるで、盾として使っているかのようではないか』
「無限を小型化して取り回しを便利にした、という事でしょうか?サイズが縮小するならば負荷も減る…………という事も特にない気がしますけど、一緒に動くわけではないとなると当てが外れそうですね」
そもそもの想定として、無限は怪しい服の人がその周囲に展開するものだとなっていた。それならばどこから攻撃が来ても確実に防ぐことができ、奇襲にも対処できるようになるのだから。
しかし、その予想は外れてしまった。
怪しい服の人が用意したそれは、小さい。そして、自分の体から離すことも可能だった。
こうなると話は大きく変わってくる。
例え大量の魔法などを撃ち込んだとしても、その無限が崩壊する前にどこか遠くへ飛ばされれば怪しい服の人は無傷という事になってしまう。
それどころか、もし骸さんの配下の方に飛ばされようものなら逆に無限の崩壊で骸さんの配下の方が甚大な被害を受けることとなってしまうだろう。考えていたようなやり方では、怪しい服の人に勝てない。
「負荷のかかり具合によっては、複数同時に使用するなんて言うこともできるかもしれませんね」
『いくつかは防御に。そして負荷が大きくなってきたものは敵へ投げつけて無限を解除して攻撃に利用する。この流れができてしまえば、こちらの勝ち目は薄くなってしまう』
「困りましたね。反射とか考えてる場合じゃなかったですよ」
あまりにも想定が甘かった。
今すぐにでも新しい対策を考えなければならない状況だ。骸さん達も頭を抱えている。
ただ、伊奈野はこれならこれで対策ができるだろうと考えている。
内容としてはそう難しい物ではなく、
「全身を覆うわけではないのなら、全体から範囲攻撃でもすればある程度はダメージを与えられそうですよね』
「数にもよるでしょうけど、確かにできなくはないかもしれませんね」
『無限も負荷が大きい以上、いくつも同時に作ることは無理があるかもしれない。となれば、多く見積もっても10が限界か。そう考えれば、確かに攻撃する隙はあるかもしれんな」
幾ら盾を大量に用意したとしても、そこに隙間は存在するだろうというのが伊奈野の考えだ。全身をすっぽり通ってしまうわけではないのだから、広い範囲に均等にダメージを与えるような手段さえあれば攻撃の大半は吸収されてしまうにしても一部は確実に当たる。ダメージを全く与えられないという事にはならないはずなのだ。
1つ2つでは特に気にならないだろうが、それがいくつも積み重なればそれなりのダメージになる。
勝ち筋はこれの方が残されているのではないかとすら思えるわけだ。
結局そんなことをされても無意味。簡単に勝つことができる。
勝ったなガハハッ!なんて思っていたわけだが、
「ん?ちょっと待ってください。今度は永遠の方に手を出してませんか?」
「え?…………本当だ。無限を大量に作って負荷をかけるみたいなやり方をしてますね。あれができるのなら私たちも手っ取り早く永遠を作れたんでしょうけど」
『いやいや。待て。気にするのはそこではないだろう!あれができるという事は、向こうは永遠まで活用しようとして来ているという事だぞ!?』
無限ではない開発された禁忌のもう1つ。永遠。
ダンジョン内ではプレイヤーの動きを数%程度まで下げることができると言ったものになっているが、手を加えてしまえばそれこそ本当に永遠に時を止め続けるというようなことすらできてしまうものとなっている。
どう使うつもりなのかは分からないが、
『もしかすると、自分の周囲に永遠を展開する気かもしれんぞ。全ての攻撃を永遠の中に入れ、動きを止めるつもりなのやもしれん!』
「そんなことできるんですか?」
「狙って特定の場所だけの時間を遅らせるなんて難しいと思いますけどね。ダンジョンの特定の階層だけを狙うっていうのが限界だったというのに」
「ですよね。それこそ外でやろうと思えばかなり苦戦を強いられるでしょうからね」
分からないだけに様々な考察が飛び交う。
骸さんは完璧な制御ができないと難しそうなことを狙っているのではないかと考えているようだが、伊奈野達は懐疑的。そこまでの事ができるようになるとは思えないのだ。
「狙ってやろうとすれば相当な試行回数が必要になるでしょうし、ダンジョンの内部を操れない怪しい服の人が実験するとなるとかなり道のりは険しいと思いますよ。それこそ失敗したら自分の動きも遅くなってしまうわけですし」
「確かにそうですね。というか、逆にそれをさせた方が良いくらいじゃないですか?ゆっくりになってくれている間なら好き放題していても気づかれにくいのでは?」
『しかし、その状態で邪神との争いが始まると困るぞ?戦力は1人でも多く欲しいからな」
「となると、邪神を倒した後にやってみるように言うしかないかもしれませんね。こっちが何をやっているのか監視してるのは気づいているでしょうし、そういう忠告をするくらいなら問題ないのでは?」
『なるほど。そういわれればそんな気もするが…………そうするしかないな。背に腹は代えられん。下手なことをして戦力が減り邪神に負けてしまうようでは本末転倒だ』
ということで、一旦対抗策を考えることは中止。
骸さんが直接怪しい服の人に声をかけて、邪神との争いに影響が出かねないからという事でやめてもらう。具体的な内容の言及は骸さんもしなかったが、それでもこうして声をかけてくるということ自体が予想外だったようで怪しい服の人は少し驚きつつもどこか納得した様子を見せる。
『先王様にも、こういう時に意見を言ってくれる相手ができたんだねぇ』
『む?唐突だな』
『そうかぁい?でも今まで、特に禁忌を犯して以降は忠言をしてくれる臣下も、助言をしてくれる友人もいなかったでしょぉ?ダンジョンを拠点にするなんてことをし始めた時点で何かしらはあったと思っていたけど、思っていた以上に友好な関係を築けているようで安心したよぉ』
どうやら怪しい服の人は、こうした判断が骸さんの独自の判断ではないと考えたようだ。実際声をかけることを提案したのは伊奈野なわけだが、その言葉に骸さんは驚いている。
だが、同時に何か感じるものがある様子でもあった。
骸さんは、こうして骨だけの姿になってから長いこと人とまともに会話をすることがなかった。
それは多くの者が知っていることであり、同時に怪しい服の人は骸さんが独断で全ての動きを決めていたことを知っている。
だからこそ、今回こうして骸さんだけだったならばしないだろう判断をしたことが、嬉しくも思えたわけである。




