8コマ目 不足
上位存在さんに禁忌の対抗策を聞いてみたのだが、上位存在さんにしてみればそんなものは小突けば吹き飛ぶ程度のものでしかない。対抗策なんて考えたこともないし、考える必要もなかった。
が、だからと言って伊奈野に言われても考えないというわけではない。
協力をもとめられれば暇だからという事もあって一緒に考えてくれて、
『本から得た情報によれば、負荷をかけてやれば時間の動きが遅くなるんじゃったよな?であれば、高威力の攻撃などを何度もその発動者に向けて使ってやれば良かろう。特に、以前おぬしが球の暴走を抑える時に使ったとかいう魔導銃のような攻撃を』
『それで解除できるでしょうか?』
『さてのぅ。絶対にできるとは言い切れん。じゃが、無限を生み出せるのであればいつまでも攻撃はその内部に留まり続ける。であれば何度もやっておればさすがに負荷が大きくなって何かしら対処を要求されるじゃろうな』
『なるほど。確かにそうかもしれませんね』
伊奈野が魔導銃を使った際、レーザーのようなものが出た。
距離による減衰はほとんどないように見えたため、無限の空間があるのならどこまでも伸び続けるのではないかと言う予想が立てられる。そんなものをいくつも撃ち込み続けたらあっという間に負荷が大きくなることは予想できるし、それに対処せざるを得ない状況に追い込まれることも予想がつく。
ダンジョンにある無限迷路の場合は無限に見せかけて実際はある程度まで距離が離れると有限の世界に飛び出すためそうした負荷のかけ方は不可能なのだが、無限の作りが完璧になれば完璧になるほどそうした負荷をかけやすくなるし、維持が難しくなるリスクが増加する。
効果的な手段であることは伊奈野にもよく理解できた。
『そして、高威力の攻撃であればもし解除するという事があった時には非常に危険なものに変わる』
『あ。解除した瞬間に無限を作ってた人に向かって攻撃が集中することになりかねませんからね』
『そうじゃな。解除せねば負荷がかかり続けるが、解除すれば一瞬で大ダメージ。どちらに転んでもそう悪い事にはならんじゃろう』
『唯一懸念があるとすれば、その攻撃が自分の側にも飛んでくるリスクがあるということくらいでしょうか?』
『ないとは言えんのぅ。無限に入ったものがどういう風な方向を持ち続けるか分からんし』
ベクトルの向きが何かの拍子で変更されたのであれば、攻撃が攻撃主に対して跳ね返ってきかけない。それは大きな懸念点と言える。
伊奈野が魔導銃で攻撃したとして、もしそれが自分に跳ね返ってくるようなことがあればさすがに耐えられる気がしない。伊奈野もHPがそれなりには高くなっているし回復力も尋常ではなくなっているのだが、それでも耐えられるほどではない。天使を消し飛ばす攻撃力と言うのはそれほどのものなわけだ。
ということで、そうしたことになる場合の対策は必要であることを伊奈野も理解する。
では何をするのか。
骸さん達にはそこまでのことを報告する必要はないのだが一応伊奈野が相手の場合を想定して考えてみて、
『あの球に吸収させる、というものだけでは足りないですよね』
『そうじゃなぁ。あれも確か魔導銃の攻撃を一度受けただけで吸収を中止してしまったんじゃろ?となると、何度かの分を同時に受けた場合には吸収しきれん可能性が高いように思えるのぅ』
『ですよね。となると、防げるような盾を用意しておくとかあの球を増やしてみるとかそう言うことが必要になるでしょうか?』
『防御面を変更するという考え方であればそうなるじゃろうな。しかし、そこまで魔導銃だけにこだわる必要もあるまい。確かに妾は例として魔導銃をあげたが、お主のできる攻撃はそれだけではないじゃろ?威力はあるが魔導銃ほどではない攻撃などであればまた話は変わってくるじゃろ』
『なるほど。攻撃の威力を下げるわけですか。無限に対して負荷をかけようとするのであれば魔導銃にこだわらなくてもどこまでも飛んでいくものさえあればいいわけですからね。どちらかと言えば、魔導銃はMPの消費が激しくて連射には向いてないですし、別の攻撃方法を探してみるというのもいいかもしれません』
上位存在さんの意見に納得。
伊奈野も前提が魔導銃を使うというものになってしまっていたが、それが変わってくるのならやはり話は別。色々とやり様はあるだろうと考える。
そして、そこまで考えて伊奈野が悩み訪れる長い沈黙。
上位存在さんは伊奈野がどんな攻撃方法であれば効果的なのか考えているのだろうと最初のうちは思っていたが、あまりにも沈黙の時間が長いため少し不安になり始め、
『ど、どうしたのじゃ?そんなに難しい問いじゃったか?別の攻撃方法を探す、という事なんじゃろ?おぬしも1つや2つ持っているのではないか?それこそ魔導銃がメインの武器ではないようじゃし、何かあるじゃろ』
『そうですね。そうなんですけど…………ないんですよ。基本私、戦おうと思ってないので』
『ない?…………え?本当か?本当なのか、それ?今までも驚くことは多かったが、1番本当なら驚きなんじゃが?さすがに冗談じゃよな?』
『冗談なら良かったんですけどね。私が使ってる自発的な攻撃手段って『牽制魔弾』くらいですし、『牽制魔弾』なんてどれだけ使っても魔導銃1回の威力にもなかなか届かないんじゃないでしょうか』
上位存在さんは伊奈野の事をそれなりに強い存在として認識している。それこそ秘密を暴いて神罰と勘違いされるほどの強力な攻撃ができることも知っているし、ダンジョンマスターであることも知っている。さらには武器たちの試練に挑みことごとく突破していることもあり、まったく伊奈野の戦闘手段が少ないなんて考えもしていなかった。
だが、こうした勘違いをしてしまうのも仕方のない事である。
そもそも伊奈野の良く使う『牽制魔弾』は低威力だが『繰り返し』や『設置』などによって恐ろしい弾幕となっているし、更には当たると短い時間ではあるが体が硬直し動きが制限される。
更には、近接攻撃手段としてカウンター技ではあるが『龍落とし』まで所持しているのだ。こちらは発動条件が少し難しい代わりにかなりの高威力な攻撃となっているため、この2つだけで大概の事は何とかなってしまっていた。
ここに伊奈野が気まぐれで作った魔法陣なども合わさることで盤石な状態となってしまっており、今まで他を求めるという事がなかったのである。
黒い本がメイン武器となりそうだという事になってからは武器を集めたりと言ったこともし始めてはいたが、それでも結局『牽制魔弾』や『龍落とし』程使用頻度が高いわけでもない。特に日本サーバでしか使えないというところが難点だ。
という事で伊奈野は攻撃手段なんてあまりないし、それに上位存在さんが気がつかないくらいには伊奈野の使ういつものお決まりの流れは万能なのだ。
『一応他にも『寒冷の瞳』とかはありますけど、こっちは攻撃ではなく状態異常付与だけですからね。やはり私の攻撃手段はそこまで多くないと思います。探せば魔法の中にそういうものはあるかもしれないですけど、基本的に魔導銃より火力は落ちるけど集中砲火すれば発動者を仕留められるというような攻撃手段はない?』
『うっそじゃろ、お主!?よくそんなのでここまで…………よし。分かった。そういう事じゃったら、妾が良い物をやるのじゃ』
『良い物、ですか?』
『うむ。いつじゃったか妾にスキルスクロールを渡してきた者がおっての、妾自身は使わんから放置してあったんじゃが、そのスクロールで獲得できるスキルが確か丁度良くほどほどの威力の遠距離攻撃だったはずなのじゃ!』
『へぇ。そんな丁度いい物が。貰ってしまって良いんですか?』
『よいよい。どうせ持っていても宝の持ち腐れにしかならんからの』




