3コマ目 規制
「少し行き詰ったでしょうか?」
『そうだな。とりあえず突き詰められるところは突き詰め終わったか』
「問題点を見つけようにもなかなか見つからないですからね」
「今度私がまた試して、更に怪しい服の人にも試してもらって問題が起きないようなら一先ずは置いておくってことにして良いんじゃないですか?その後は骸さんの配下などでさらに長期の滞在をされた場合の記録などをすればいいでしょう」
それなりの日数はかかったが、ついに伊奈野達の無限迷路づくりは一旦の終了となった。
伊奈野がいろいろな魔法をばら撒いても安定しており、骸さんが配下を大量に送り込んだとしてもその数がすぐに少なくなったりそれぞれがまとまるようにさせることで崩壊しない状況を作れる。これ以上は逆に問題点を見つけるまでにかなりの時間がかかってしまうという事で伊奈野も今後の迷路への挑戦はしばらく休止することを決めていた。
多少やり切ったことで燃え尽き症候群にもなりそうだが、伊奈野はそもそも迷路よりも勉強を優先しているし骸さんや炎さんもまた別の仕事を大量に抱えていたり目標があったりするからそこまで問題はない。
通常通りの活動が続けられていた。
が、全く影響がないわけでもなく、
「迷路の構造、他のところでも応用できないでしょうか?さすがに全部は使い切れないと思いますけど、せっかくですから活用したいんですが」
こんなことを言い出したのは炎さん。
聞いたときには伊奈野や骸さんは何を言ってるんだと思ったが、実際にそれなりの時間かけてかなり気合の入った構造になっていることも事実。
それなりの労力がかかっているのだから、他にも活用できると言われると流用したくなることもまた確かだった。
『どうせならば、と思う気持ちも分かるがな。さすがにあのような機構は用途が限定的過ぎるような気もするが』
「ちょっと迷路よりも負荷は大きくなると思いますけど、無限に相手を押し流し続けてしまう水流とか作りますか?永遠にどこにもつかないので泳ぐためのスキルを持っていないと脱出は難しくなると思いますよ」
『そういうモノであれば、それこそ相手が永遠に落ち続けることになる機構も応用次第では作れるのではないか?確かダンジョンのステージにも地面のないものがあったはずであるし、そこで無限に生成され続けて次にいけないとされれば探索者もかなり苦戦するだろう』
「天空のフィールドでやるのは悪くないかもですね。ただでさえ飛べる人とか少なそうなのに、さらにそこから無限にフィールドが広がるとなれば無限迷路よりも突破は難しいのでは?もちろん、どうやって負荷を減らすのかという事がそれをする場合には論点になるでしょうけど」
伊奈野と骸さんはそれぞれアイディアを出し合う。
似た構造ではあるが、迷路より難易度を上げて。迷路より精神的ダメージを増やして。迷路より凶悪に。ダンジョンの攻略が進まなくなるようなことを次々に思いつく。
確かにこうして考えれば迷路の機構の流用と言うものもそこまで難しいという風には考えにくかった。
ただ、炎さんとしてはそういったことを言いたかったのではなく、
「後からその意見は真剣に検討しますけど、自分が言いたいのは攻略の対策以外の面でも使えないかってことですよ。どうせ攻略阻止のためにそんなことをしたところで、迷路と突破方法が変わるとは思いにくいですからね」
『それは確かにな。迷路かそれとも余たちが考えたものか。そのどちらかがより簡単な場所へと変わるだけなような気もする』
「でも、それで言うと具体的にはどういうところに使いたいんですか?攻略の邪魔以外の場所で使うとなると、クッキーの生産への流用ですか?」
「そうですね。具体的にと言われると難しいですしそこで何かないかと言う部分を話したいんですけど…………クッキーの生産の流用も、できるなら悪くはないと思いますけど、できるんですか?」
「さぁ?無限迷路の技術だと無限に長い生産ラインなんてものは作れませんからね。特に私が何か思いついたりはしてないです」
「そうですか…………」
残念そうな様子を見せる炎さん。
本当に迷路の技術を使って何か別の事をやりたいらしい。
伊奈野達もそこまでの気持ちがあるのならば答えてあげたいところではあるが、あまりにも迷路のような使い道にしか使うことを今まで想定してこなかったためパッと思いついたりはしない。
だが、だからと言ってここで無理だと断定するのは早計にもほどがあるだろう。
伊奈野はここで自分の頭ではなく他の情報源を頼ることで解決を図ることにする。
「黒い本。何か無限にできたらいい場所とかない?」
「…………」
「そういわれてもグリモワールだって困りますよね。例えば、何かが詰まるなどの事態が発生しやすく無限迷路の構造を流用することで一時的な流れる量の減少をすることで解決ができそうなものなどありますか?」
伊奈野の言葉で困ったような反応をした黒い本であったが、炎さんのより具体的な質問によりその回答はいくつか浮かんでくる。
自分の検索機能を伊奈野に使わせてそれらしいものを見つけてもらい、
「確かにクッキーの生産ラインのつまりには使えるかもしれませんね」
「本当ですか?結局こんな無限の構造を使わなくてもコンベアを停止させて待機させておけばいいだけの事のような気がしますけど」
『いや、それをした場合は確かつまりの影響で一部がそれ以上生産できなくなるという事態が発生するのではなかったか?無限の技術を使うことで動く台の一定面積における含むことのできる菓子の総量を増加させることが可能だろう。必ずしも無駄という事はないのではないか?』
「そういえば確かにそんな問題もありましたね。あれが起きると『繰り返し』の『設置』に影響が起きてたまに変なことになるので、改善されるのは良い事かもしれません」
思っていた以上に可能性が感じられた。
試しにいくつかの生産ラインでそうした機構を導入してみると、
「おお!本当に詰まらないですね」
「いや、確かにつまらないことではあるかもしれませんけど。そんなに楽しい事だと思ってたんですか?」
『炎よ。その勘違いはわざとやっているだろう?』
炎さんの良く分からない勘違いコントははさみながらも、伊奈野達はその効果を実感した。
《称号『無限活用者』を獲得しました》
これは間違いなく他のところでも活用できる事例として認識して良いわけであり、同じような問題で困っているところを見つけて解決に使えばいいと分かるわけだ。
「同じような問題?」
「1つくらいありませんか?例えば骸様の配下の作成で詰まって移動が困難になり一時的に中断しなければならなくなったとか」
『そんなことあったか?余の配下を作る時、足が遅い物がいる場合は確かに作成ペースの低下をしていた時期はあったが、今はもうその辺りを補助できる配下がいるからそこまで問題にはなっておらんな』
「で、では、クッキー以外の菓子類の生産で困っているとか!」
「困ってませんね。そもそも他の菓子類は特別視されているとかであまり大量生産はしない方が良いという話にもなってませんでしたか?」
「う、うぅぅぅ…………で、では、ダンマスの勉強の時に使うペンの動きが詰まってるとか!?」
「どういうことです、それ?ペンが詰まるとかあまり聞いたことがないですけど。そもそも動きに関しては転移でほとんど片付いていますからねぇ」
一旦この話もまた保留という事になる。
なお、その後本格的な検討が行われ作成された無限迷路の技術を活用した攻略阻止の策は非常に良い形で完成し、伊奈野を含め全員から攻略の糸口が見えないと言わしめるようなものとなるのであった。
なおこの後、
『む。マズいな』
「どうかしましたか?」
『無限の活用技術が禁忌に指定されてしまった。今まで作ったものであれば問題ないようだが、さらに改良をくわえたりしようとすれば問題行動とされてしまうだろう』
「…………なんということでしょう」
シッカリこの無限は強すぎるという事で制限が加えられた。
特にまだまだ活用するところを見つけるのだと意気込んでいた炎さんは強くショックを受け、血涙を流すのだった。




