３６コマ目 拾い物
伊奈野が求めるガチャではないが、ガチャと呼んでもいいだろうもので遊んだ後。
運営の遊び心のような何かを感じた伊奈野は、
「だとしても、ふざけ方が独特過ぎない？なんであんなもの作ったの？」
かなり本気で困惑していた。先ほどの扉の存在意義がさっぱり理解できないのだから。
もう少し攻略にかかわりそうな話をしている家庭があるなら分かるし、世界感になじむような物なら違和感は少なかったかもしれない。
しかし、全くゲームに関わりそうな話なんて出てこなかったどころか、世界感すらあっていなかったのだ。伊奈野にしてみれば、面白さを狙った結果大滑りしたもののようにしか思えないのだ。未だに残っている理由がわからない。
「なんだろう。お偉いさんが面白いと思って作らせて、部下たちは止めたいけど相手がお偉いさんだから無理だったとかそういうパターンかな」
伊奈野の頭の中では、困った表情をして陰で上司の愚痴を言っている運営達の姿が浮かんでいた。どこの会社でもありそうな構図である。ただ、とりあえず自分がそんな会社で働きたくはない。
伊奈野は運営へと同情するのだった。
ただ、そう伊奈野が思ったとしても実態が本当にそうかは分からない。
そして、プレイヤーたちがそれを滑ったものと感じているかどうかも。伊奈野が言った時にはすでに誰も使わなくなってしまっていたが、設置された当時は非常に人気があったのだ。
もちろん小ネタが何に関わっているのかわかるほどゲームに詳しくない伊奈野には知る由もないのだが。
「でも、予想以上に遊び心というか無茶なとこ要素が隠されてるものなんだね。意外と他のところでもあったりするのかな？」
図書館へと戻ってきた伊奈野は、他にも似たような隠し要素があるのではないかと考え始める。
もちろん探す気など微塵もないが、
「チュートリアルで行った場所も、一種の隠し要素だった可能性とかある？」
今まで行った隠し要素らしき場所の事は思い出されるし、それが本当に隠し要素だったのかも気になってくる。
それこそ、チュートリアルの際に訪れた先代覇者の住処らしき場所なんて隠し要素のような気がしてならなった。行こうとしても行けない場所など、隠し要素ではないなら逆に何なのかという話だ。
そんな風なことを伊奈野が考え独り言をつぶやいていると、
「隠し部屋とかに行くの！？」
黒い本が興味を示してくる。
もう目をキラキラさせて、非常に期待しているということがありありと伝わってきた。隠し場所という物で伊奈野が一体何をしでかすのか、黒い本としても気になるようである。
実際、もし隠し部屋などという物に伊奈野が入った場合にはただそこにある要素で満足して終わりということにはならないだろう。
今回のガチャ（？）に関しては別だが。
ただ、そうして黒い本がもうとてつもなく楽しみにしてるという表情をしたところで、
「え？行かないけど？」
伊奈野の心には全く響かない。
期待されたところで、隠し要素になんて触れに行こうとは思わないのだ。もしそれがアイテムやスキルが手に入るだけという物なのであればまだ伊奈野も時間がある時くらいには触れてみてもいいと思うが、隠し要素なんて時間がかかったり戦闘になったりするパターンだってあるのだ。それこそ、場合によっては裏ボスなんかと戦わされることになったり、それを倒しきれるまでデバフが解除されないなんて言う悲惨な目に遭ったりする可能性すらある。
とてもではないが、今までのゲームの経験から考えて挑戦しようと思うものではなかった。
「えぇ～。絶対面白いと思うのにな～」
「別に隠し部屋とかなら私と一緒じゃなくたって行けるでしょ。１人で行って来ればいいじゃん」
黒い本を冷たくあしらう伊奈野。
その頭では、まだチュートリアルで見つけた部屋の事が思い出されていた。特にそれを思い出すと引っ掛かり続けるのが、奥の方にあった鏡。結局それほど大きな影響を与えなかったその鏡だったが、最奥にあったのだから何かしら要素が隠れていると伊奈野は思ってしまうわけだ。
「いけないなぁ。こんなことが気になってたらいつまでも気にしちゃうじゃん」
伊奈野は久しくゲームの事が気になってくることを必死に押しとどめるという作業を忘れたため、自分のガードが緩んでしまったことを感じる。
この大事な時期に、微妙に隠し要素らしきものが気になり始めてしまったのだ。急いでその興味を振り払わいないといけないと考えるのも当然だろう。
そこで考えを無理矢理変えようとした結果伊奈野の頭にちらついたのは、その場所の入り口近くの方にあった大量に並んだツボであり、
「あっ、生首入ってたんだった。思い出したらちょっと怖くなってきたかも」
いい事なのか悪い事なのか。
その場所の事を思い出すと一緒に恐怖の感情が湧き上がってくるようになる。単純に興味だけが湧き出るよりは躊躇する心が出てくる分マシなのかもしれないが、結局頭からは振り払えそうになかった。
と、思われたのだが、
「ん？ツボって言えば、生首以外にも置いてあったものがあったよね？あれって、結構貴重品なんじゃなったっけ？」
貴重品かは分からないが、間違いなく重要だろう物は置いてあった。
それが、生首の前に置かれていた武器の数々である。
恐らくその生首になった人たちが持っていた武器だろうと考えられ、
「結構強そうな武器もあったよね？もしかして、あっちの方が邪神の使徒の武器を使うよりも効果的なのでは？」
効果的というのが何に対してかは少し謎な部分がある発言だが、着眼点が悪くないというのは確かだろう。
伊奈野の先代の覇者が倒した、それなりに強い人々のものだろう武器の数々なのだから、強さで言えば下っ端の邪神の使徒が持っている物よりは断然上だろうということは予想できる。それこそ、
「黒い本も、超えられる？」
こういった希望を持つこともできるもであった。
伊奈野のメイン武器となりそうだった黒い本の影響で邪神の使徒の武器を使いたい気持ちが少しだけ湧いてしまった伊奈野だったが、そこで拾った武器を使えばわざわざ邪神の使徒の装備になんて頼る必要はない。
それなりの数と種類のある武器を拾っているため、それらを使うだけでもかなりの攻撃ができることは容易に予想できた。
「これでメイン武器交代…………って言いたいところだけど、結局あの武器類がアイテムボックスに入ってるのはこっちだけだからなぁ」
伊奈野は邪神の使徒の装備を拾った時と同じ壁にぶち当たることになる。
どれだけ強い装備を手に入れたとして、それを使えるのは手に入れたところと同じサーバだけ。日本サーバで手に入れた武器は、日本サーバでしか使うことができないわけだ。
基本的に武器を使いたい状況となるのは、ダンジョンがあるサーバの方だというのに。
となると結局あまりそんな装備を思い出した意味もないように感じるわけだが、
「戦うことがあるかどうかは分からないけど、こっちでのメイン武器が変わっただけでも十分だと思っておくしかないかな。必要ならあっちの方でも同じ洞窟を探してみてもいいけど…………簡単に見つかるわけもないし、わざわざそこまでする必要性もないよねぇ」
わざわざ時間を使って回収する必要があるかと問われると微妙なところだ。それに、入手できるのかすら怪しいのだから。
ということで、日本サーバ内だけの話ということにも満足しておくことにする。
ただ、
「どういう武器だったかちゃんと覚えてないんだよね。一応見ておいた方が良いかな」
伊奈野はそうした武器をアイテムボックスから取り出す。
こうして伊奈野が武器をいくつか取り出すなんて、初めての事だった。
