１２コマ目 大食い大会
最近掲示板を書いてない！書かないと！(使命感
仕事が入ってしまったので連れていけない。そんな非情な言葉をかけられてしまった伊奈野。
それなら伊奈野達だけで行きたいとなるところなのだが、車でないといけない場所らしいのでそれも無理。
楽しみにしていた予定は完全に消滅してしまった。
「本当にごめんね！行ってきます！」
「うん………………………………いってらっしゃい」
覇気のない声で母親を見送る伊奈野。
次の土日に延期するなんて言う話もしないままに消えてしまった母親へ伊奈野はやり場のない感情を抱えた。
あまりにもショックが大きすぎて、どこか壊れてしまったかのように、
「………………クククッ。クククククッ。勉強。そうだ。勉強しよう。勉強すれば、きっと忘れてられる」
「あっ。お嬢様。呼びかけたところ運転手が見つかりましたので行くことは可能…………………お嬢様？どうされたんですの？そんなに怖い雰囲気で笑って」
「クククッ。クククククッ」
「聞いていらっしゃいますの？私の声届いてますの？お嬢様！？お部屋に戻られますの！？行かないんですの？私１人で行ってしまいますわよぉぉぉぉぉ！！？？？」
狂ったように笑い、勉強勉強と繰り返しつぶやきながら自分の部屋へと向かって行く。
瑠季が何かを言っていたが、伊奈野の耳には届いておらず気づくこともなかった。結局スイパ〇には瑠季１人で行ったとかなんとか…………。
部屋へと戻ってきた伊奈野はまずヘッドギアを装着し、ゲームへとログインする。
「勉強。勉強。べんきょ……ん？今日祝日なのにサーバ使えるんだ」
ログインしようとしてみると、日本サーバが利用可能なことが分かった。祝日なので混んでいると考えていたのだが、そんなこともなく。
伊奈野が不思議に思いつつも入ってみると、どこかいつもよりログイン地点の周辺には人が少ないように感じられた。
「前のイベントの時ほどじゃないかな？」
伊奈野の記憶にある１番空いていた時。それは魔女さん達も参加していていなくなっていたイベントの時である。
それと比べれば人は多く、何か大変なことが起こっているというほどではないのだろうと予想できた。
そんな彼女の前に、１つの表示が現れる。
「こ、これは……………」
いつもなら絶対に無視するような物。選択肢のＮＯを選んで記憶からも消すようなものだ。
だが、今日は伊奈野はあまり悩むこともなくそのＹＥＳの選択肢へと触れ、
数分後。
「……………おいし～。ＶＲだと罪悪感がないから最高～」
伊奈野は大量の食物を次から次へと自身の胃へと流し込んでいた。
彼女の目の前に現れた表示は、
《イベント『大食い大会』へ参加しますか？ ＹＥＳ／ＮＯ》
というもの。スイーツが食べたかった伊奈野にとってこのイベントはあまりにも魅力的に映ったのである。
さすがに様々な観点から考えてＶＲ空間の食物が美味しすぎてもいけないということで現実世界のものに比べると若干味は劣るのだが、それでも伊奈野にとってはかまわないことだった。
「おいしくないわけじゃないし、罪悪感なく食べれるって最高だよね！」
そんなことを言う伊奈野は、次から次へと現れるスイーツ各種を食べていた。
このイベントにおいて食べるものは自分で選択することができ、伊奈野は選べる中からスイーツだけに限定して出してもらっているのだ。
同じメニューはデータであるためすべて同じ味にはなっているのだが、デザートも種類が多いため飽きることはあまりない。いつの間にか５周以上しているし、永久に食べ続けられるような気がしていた。
「しかも大食い大会だから、満腹度の上昇率は控えめになってるのかな？ありがたいねぇ」
伊奈野はそんなことを言いつつ自身のパラメーターへ目を向ける。
そこにはＨＰとＭＰ、それに加えてＳＰが棒状になって表されているのだが、どれだけ食べてもあまりＳＰは増えていかないのだ。
これを伊奈野は大会だからだと考えているわけである。
が、もちろんそんなことはない。
本来ならこの食物の数々、特に伊奈野が何度か食べている巨大なパフェなんかは回復量がすさまじく、半分くらい食べただけでも伊奈野のＳＰくらい本来なら簡単に完全まで回復させられるはずなのだ。
ではなぜそんなはずなのに回復量が抑えられているのか。その理由はスキルに関係している。少しログをさかのぼってみると、
《スキル『飢餓安定１』を獲得しました》
というスキルを伊奈野が獲得していたことが分かる。この獲得条件は以前うるさい人から説明されていて、一定期間以上空腹状態でいること。
このスキルの効果を簡単に言えば、常に空腹でいるようにするといったもの。さらにスキルのレベルは空腹状態であれば上がるようになり、伊奈野は常に何も食べず本来であれば餓死している状態をキープし続けているのでレベルの上がり方も尋常ではなく、
「ん～。どれだけ食べても０カロリーって感じかな？」
穴が開いていなくてもほぼ０カロリー状態となっているのであった。
そうして食べ始めてから３時間ほど経っただろうか。
「ふぅ～食べた食べた」
満足気な様子。
そしていつものように気づかないが、
《おめでとうございます。あなたが１位です。アイテムボックスから景品をご確認下さい》
《ユニークスキル『暴食』を獲得しました》
