６コマ目 脱走
「神の名をかたる愚か者を粛正せよ！」
目障りな、今やほんの数人しか信者がいないような宗教の教皇と聖女。
その２人と拠点をミサイルによる爆撃で壊滅させ引導を渡すつもりだった。
しかし、
「結界だと？」
「ふざけたものを使いおって！」
ミサイルは最初の１発こそ区画にある居住地の１つへ命中したのだが、それ以降は結界によってすべて防がれてしまっていた。
ここまで１０発以上撃ち込んでいるが、壊れる気配は見えない。
「……そう焦るな。向こうはたいしたこともできないだろう。こちらにはまだミサイルが大量にある」
「あっ。す、すみません隊長」
「そ、それもそうだな。向こうは攻撃できないんだし」
結界が邪魔でイラついていたプレイヤーたちであったが、指揮官の言葉により一時的にその感情が落ち着く。
ここまでミサイルは防がれているが、今撃ち込んでいる以上にミサイルは存在しているのだ。それこそ、数百発という数が存在している。
そして何より、向こうが何もしてこないと確信していることが大きかった。
「あの愚かな邪教で一定以上の地位に就くと、聖属性以外が使えなくなる。つまり攻撃はできない」
「結界で防御とか補助魔法で支援とか回復魔法で回復するとかはできますけど、攻撃手段が一切ないというのは愚かですね」
教皇と聖女には、直接的な攻撃が使えないとされている。
基本的に物理戦闘系のスキルは覚えられないし、魔法も攻撃系はアンデッドの浄化用魔法くらいしか覚えられない。逆に回復や防御、補助といった面では秀でているが、それでもスキルが使えないのであれば攻撃ができずジリ貧となるのである。
「ふっ。勝ったな」
だからこそ愚かにもフラグを立ててしまうのだ。
ミサイルによる攻撃を繰り返していた彼らは、弱っちい魔弾が飛来してくることに気が付かない。
「ん？何、」
気づくのは、ポンッという軽い破裂音がしたとき。
しかしその時ではすでに遅い。遅すぎた。結界へ攻撃するには余裕があるなんて思えるくらいには、そこにミサイルを置いてしまっているのだから。
「っ！？マズ、」
気づいたときにはもう遅い。
小規模と言えど爆発が起これば、ミサイルの誘爆が発生する。そして１つミサイルがその場で爆発すれば、また周辺のミサイルがと次々に、連鎖的に誘爆が引き起こされ、
数秒もしないうちに周辺にいたすべてのプレイヤーはリスポーンしていた。
ＮＰＣも多く集まっていたが、死者こそ出ていないものの重軽傷者多数。それこそ、聖女と言われる存在の魔法か非常に高級な薬でしか治せないほどのものも出ていた。
「…………………おのれ邪教徒共おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ！！！！！！！！」
指揮官の恨みのこもった叫び声が、リスポーン地点でむなしく響いた。
「思ってたより、すんなり抜け出せた」
一方そのころ伊奈野はタイミングを見計らいつつ結界の外に出た。
かなり厳重な監視体制なのではないかと警戒していたのだが、予想以上にザルだった。というか、どちらかというと人がほとんどいないと言ってもいい。
通っていく人も、焦った表情で慌ただしくどこかへ向かっている様子。
「さっきかなり大きい音がしたし、強い攻撃とかするのに人が必要だったのかな？」
少し前にかなりの爆発が起こった音がした。大量の攻撃をするならそれだけ人手も必要だったのだろうと考えて、伊奈野は納得する。
そのため、いつものようにいくつものレベルアップのログにも、
《称号『爆弾魔』を獲得しました》
《称号『弱いなんて言わせない』を獲得しました》
《スキル『爆撃１』を獲得しました》
こんなログにも、気づくことはない。
「でも、本当に困ったなぁ」
流れるログよりも、伊奈野にとって重要なのは勉強場所だ。
小屋という非常に有用な場所が失われてしまった今、新たな勉強場所を探さなければならないのだ。
「なぁ。そこの若いの」
伊奈野は大通りをとぼとぼと歩く。あまり変なところを歩いて面倒なことに巻き込まれても嫌なので、ログイン地点の近くをウロウロとしていた。
「お～い！そこの！」
とはいえこんなところでウロウロしていても勉強場所など見つかるわけがない。
別のサーバに移って同じように小屋を探してもいいかもしれないと思えるほどだ。
「おおおぉぉぉぉい！！！聞こえてないのかお嬢ちゃん！！」
とりあえず、何度もいうがこんなところにいても仕方がない。
そう考えてウィンドウを呼び出しログアウトへ触れようと、
「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ！！！！！いい加減気づいてくれ若いのぉぉぉぉぉ！！！！！！」
「ん？………あっ。もしかして私のことですか？」
触れようとしたところで、呼びかけられていたことに気が付いた。
伊奈野が視線を向けてみると、そこには露店のようなものとその中にいる１人の男性が。
「や、やっと。気づいたか。こっちは歳だってのに無理させおって」
「はぁ…………すみません？」
司書さんから貰ったスキルは強力だと思いました？残念！甘いですね！！
