３２コマ目 服
魔王という存在を解放してしまったことを伊奈野は認識した。
流石にそういったことを聞けば色々と考察しないわけにもいかず、最終的にどうして魔王と呼ばれる存在と魔女さん達に面識があるのかを考えた末に、
（もしかして魔女さん達、反乱を計画してたりする？）
そういった結論に達した。
もちろんそれで確定したわけではないのだが、そういった可能性も十分に考えられるという風になっているのである。
その根拠として挙げられることは、考えれば考えるほど出てくる。
例えば、この図書館に明らかに違法建築だと思うほどの地下が存在していること。
その地下に何があるのかは分からないが、反乱用に物資をため込んだり違法なものを隠しているなんて言う可能性も十分に考えられる。
それに続いて、うるさい人も何やら怪しいように感じていて、
（前から思ってはいたけど、うるさい人も何かしらの宗教のある程度上の地位にいる感じの人だよね？ただ明らかに普段街でよく見る教会っぽい建物の豪華さに比べるといた小屋が貧相だったことを考えるとあんまりメジャーな宗教ではないと思うし……………邪神とはちょっと違うタイプの裏で動いてる宗教団体だったりしない？反乱と邪教とかよくセットで聞くワードだし。そこへの献金とかで反乱の人員確保とか資金回収とかしてるのかも？）
考えれば考えるほど不穏分子な気がしてきた。
思い返してみれば恐ろしいほどの断食をしていたり、苦みへの強い耐性を持っていたりと、拷問にも耐えられるような特殊な訓練をされていてもおかしくない。そしてそんなことをするような宗教が街どころか国で１番大きな宗教なんて考えられるはずもない。
何かおかしなことがあると思うわけだ。
そしてさらにその考えを支持するように、
（そういえば、『みんなで１つに』を使った時に私のことを教会に案内してたよね？でも、うるさい人本人がああいう建物に入って行ったりしてるのは見たことがない。実はあれは私を使って教会の内部を探りたかったから私を使った可能性も充分あり得るよね……………そう仮定すると、宗教史に熱心なのも理解できる？大きい別の宗教を引きずり下ろして自分たちの教えを広めるためにそういう知識が必要だと思ったりとかした？）
過去のことが思い出される。
ここまで状況証拠（なお明らかに否定する要素を含む記憶もあるのだが今回は無視するものとする）がそろっているとなると、伊奈野の周りにいる者達は反乱を起こすつもりの存在であることも十分考えられる。
下手をすると、魔王の事を知ったがためにここで消されてしまうのではないかとすら思えた。
「師匠」
「っ！？な、何ですか？」
そんな状態で話しかければ当然警戒する。できるだけ表面にそういう気持ちは出さないようにしなければならないところなのだが、相手に警戒していることを悟らせてしまうような反応をしてしまったのだ。
魔女さんも当然その伊奈野の感情の動きは読み取れているようで、
「ん？どうされました？そんなに慌てて……………ちょっとお願いがあるんですけど、今は難しそうですか？」
「い、いえ。大丈夫ですよ。そこまで忙しくはないので」
「そうですか。それは良かった」
こんな状態で頼みごとをされては断れるはずもない。
断ろうものなら即刻消される気しかしないのだから。伊奈野にとってみればお願いという言葉は、殺されたくなければ動けという脅しのようにしか聞こえなかった。
（魔王とかいわれてる厨二病のこと解放したし、逆に恩人みたいに思われてる可能性とか……………ないよね。さすがにあり得ないよね）
伊奈野は一瞬期待しそうになるが、ここは油断して良いところではない。
少しでも気を引き締めて警戒はしなければならないと一瞬で甘い考えは捨て去った。
ということで早速そのお願いとやらを聞いて少しでも今回は生きあがかなければならないということで一言一句聞き逃すことなくそのお願いの内容を記憶してついでに裏に隠された意図まで読み取ろうと伊奈野は言葉を待ち、
「それじゃあ師匠は、魔王のために服を買ってきてもらえませんか？かわいい感じのをお願いしますね」
「………………………………………は？」
かくして伊奈野は魔王と呼ばれる存在と共にショッピングへと洒落込むこととなるのであった。
注文通り早速かわいい服を選びたいところなのだがまず伊奈野はこのゲーム世界でファッションを意識した服なんてまともに買った覚えがないのでまずは店を探すところから、
「いやいやいや。待ってください。服ですか？」
始まることもなく。
伊奈野はお願いをしてきた魔女さんの前で盛大に困惑することとなった。何かしらの意図が隠されているはずなのだが、服を買うという言葉からは一切そういったものを読み取ることはできないのである。何かしらの隠語と言われたらそういう物なのかと納得できなくもないかもしれないが、それはそれとして伊奈野には一切理解できない。
そんな困惑を見せると魔女さんの反応は外見上は納得した様子を見せるだけにとどまり、
「そうですよね。師匠に求めるべきところではないんですけど……………お願いできませんか？一応お店などは紹介しますし、本人がいるのでサイズとかもわかるとは思うんですけど。ダメなのであれば無理は言いませんが」
「い、いや、駄目と言うわけではないですけど」
「本当ですか？それは良かった。是非お願いします！」
魔女さんはもう一度念押しするように言ってきたため、伊奈野は断ることができない。ここまで頼んでくるということは何か確実にあるはずなだと伊奈野は考えるわけだが、結局読み取れなった。
そしてさらに伊奈野の混乱を悪化させる会話が無慈悲にも始まり、
「魔王、私が昔買ったのはどこにやったのよ」
「あれはどっかにしまったぞ。さすがに買ってもらったものを封印で氷漬けにすると劣化するし忍びないからな。一応これだけ時間が経っても使えるように保管もしっかり魔法をかけておいたはずだが……………どこやったっけ」
「も～。かわいい服をたくさん買ってるんだからちゃんと着てほしいんだけど？１着くらいボロボロになっても新しいのを買ってあげるし」
以前魔女さんが大量に服を買っていた。それも、かわいい物を。
それが分かると伊奈野は余計に分からなくなってくるのだ。先ほどから考えているように自分に行動させる理由も。魔王との関係性も。魔王という存在も。
そして何よりもというほどではないのだが、
「かわいい、服？」
「ええ。そうです。かわいい服です。魔王にはかわいい服が良く似合いますからね。かわいい服以外は着てほしくないんです。今すぐにでも捨てさせたいところではあるんですけど」
「へ、へぇ」
その魔王に選ぶ服の条件というのもまた大きく伊奈野に衝撃を与えるものとなっている。
あまりにもイメージに合わない条件だが魔王に嫌がっている様子もないため、伊奈野としては何をどう選んだらいいのかさっぱり分からない。
勘違いされた方がいらっしゃいましたが、いつ魔王がショタだと言いましたかねぇ……………言ってないですよね？（不安になってきた愚かな作者）
ただ、ショタじゃないとも言ってないですし考察（という名の妄想）はご自由にしていただければ～
