２０コマ目 ブッキング
ついに発売が明日に迫ってしまった……………
『あれだけは、あれだけは今回必ず破壊して見せる！』
イベント開始と同時に、邪神はそう意気込んでいた。
望むことは破壊。その対象は、ダンジョンである。しかもそれは普通のダンジョンではなく、プレイヤーが作った中で最も難易度が高く別格であり、最強とまで呼ばれているダンジョン。
ただ、それだけではない。プレイヤーが作った少し強い程度のダンジョンであれば気にも留めることなどなかった。邪神とてそんなに細かいことをいちいち気にしているほど暇ではないのだから。
しかし今回邪神が襲撃するそのダンジョンは、
『あの賢者の師匠を、好きにさせてはおれん！』
邪神が最も警戒する相手と言ってもいい存在。賢者の師匠が作ったダンジョンなのだ。
破壊したいと思うのも、当然。
ダンジョンマスターとなっている賢者の師匠はダンジョンから様々な恩賜を受け取っているはずだし、さらに言えば単体でも厄介なのにその手駒として扱えるようなダンジョンのモンスターたちがいるのも面倒極まりない。
これ以上賢者の師匠に邪魔をさせず、好きに動かせないためにも何よりもまずはその賢者の師匠へと損害を与える必要がある。そこで邪神はこの賢者の師匠にとっての財産の１つであり能力や戦力を強化する要素であるダンジョンの破壊を決めたのだ。
もちろん、破壊が目的ではあるができそうなのであればダンジョンコアなど使えそうな素材などの回収もねらっている。
『できるとはあまり思えんがな。あの、忌々しい死にぞこない、いや、死んでも死にきれぬ亡霊が！』
できればやりたいが、だからと言ってあまりできるとは思っていない。
忌々しいその大きな障害となるであろう存在のことを思い浮かべると、思わず声に力が入る。
その恨みが強いのも当然。どこの世界でもそうだったが、その存在は前回邪神を追い返すときにも非常に貢献し、それこそ禁忌に手を染めなければ間違いなく英雄の１人となっていただろう存在なのだ。そんな存在が、現在ダンジョンの中にいてしかもダンジョンマスターである賢者の師匠と協力関係にあるなんていうことを聞けばあまり好きにさせてもらえるとは思えない。
邪神はそうして邪魔なその存在を死にぞこないや亡霊と言う表現をしているが、実際その表現も間違いではない。
何せその存在は、禁忌により死んでもなおこの世界に残り続けているのだから。しかもそれだけでなく邪神に対しての対抗手段として、戦力をため込んでいる。今までの死者を自分の配下とし、いつでも邪神が来た時に対応できる戦力として蓄えているのだ。
『忌々しい。本当に忌々しい。あそこの世界だけダンジョンマスターとの協力関係にいるせいであやつの配下の数が……………今のうちに仕留めなければ、あの世界を手中に収められん！』
１番厄介な部分は、協力関係にあるダンジョンマスターがダンジョンのモンスターたちをそれの新しい配下として与えていること。
無限に出現するダンジョンのモンスターと、その能力をほぼ引き継いだ状態で死者を操れる能力と言うのは非常に相性が良く、それこそ時間をかければかけるほどその力を増していき圧倒的な数と質の暴力が出来上がってしまう。
邪神としてはそうなる前に、ダンジョンを滅ぼして脅威を消し去りたかったのだ。
『こんな情報を与えてくるくらいなら、最初からあの賢者の師匠にダンジョンなど与えなければいい物を！』
色々と言われている賢者の師匠や死にぞこないだが、邪神が怒りの矛先を向けるのはそれだけではない。邪神に現在一方的に情報を送り付けてきているだけの存在である運営達もまた、邪神にとっては恨むべき対象だった。
元をたどれば、運営が力を与えすぎたからこそ賢者の師匠が暴れまわり邪神が悩むこととなっているのである。
もしもうすこし与える力が少なかったのなら、もし活動するサーバが１つに絞られていたのなら。もし関係のある英雄や準英雄の数がもっと少なかったのなら。そして、もしスキルや称号の効果をもつシステムを与えている神の陣営から距離を置き欲を言えば自分の方に近づいてきてくれていたのなら。
それならば、もっとうまくいったはずなのだ。
全てのきっかけを与えたのは、邪神にとってみれば運営なのである。
『ここを成功させ、必ず攻勢を逆転させて見せる！』
こうしてダンジョンへの強い想いを抱く邪神。
しかし、そのダンジョンへと強い恨みがあるのは邪神だけではなかった。それこそ破壊しようと思うのも、今回破壊のために力を集めていたのも。
「神の名のもとに、粛清を！」
「「「「粛清を！！」」」」
「邪教徒共に、裁きを！」
「「「「裁きを！！」」」」
「侵略者共に、報いを！」
「「「「報いを！！」」」」
ダンジョンのある墓場の手前。まだ霧がかかっておらず、それどころか普段ダンジョンへ行く他の国などからのプレイヤーたちが通る道よりも手前。
そこに、このサーバで本来活動することが想定されておりそれ以外などこのサーバに来ることは予想されていなかった、そんな存在。サーバがある国のプレイヤーたちである。
このサーバで多くのＮＰＣ達が現在信仰している宗教を同じく信仰しており、他から異教徒がやってくるのを非常に嫌っていた。
だからこそ、
「今日こそ、あの忌々しいダンジョンを破棄する！これは聖戦だ！！」
「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ！！！！！！」」」」
ダンジョンが。他からたくさんの人を呼び寄せる最強とまで呼ばれるそのダンジョンが。
邪魔で邪魔で仕方がないのだ。
これ以上はもう見逃しておくことはできない。
今回のこの、ダンジョンへ来るプレイヤーの数が低下するイベント期間中にダンジョンを攻略してしまおうというつもりなのである。
とはいえ、彼らもダンジョンが恐ろしいほどの戦力を保有していることは理解している。だからこそ、
「ミサイルはどうだ？」
「問題ありません！全ていつでも発射可能です」
「マシンガンは？」
「問題ありません。計画通りに動けます」
「潜水艦は？」
「おそらく問題ありません。前回テストして以降使用しておりませんので」
ミサイル、銃火器、潜水艦。
そんな言葉だけでなく、他にも色々とダンジョンの攻略に必要な物や兵器の名前が出てくる。ここまでの間、それらの作成や準備をしていたのだ。ここまで用意していれば、確かに攻略できるかどうかはともかくとして今までの攻略されてきた階層は易々と突破できてしまうように思われる。
「では行くぞ！全軍、前進せよ！」
こうして完全武装、準備万端な軍勢がダンジョンへと突入していく。
浅い階層のモンスターなど簡単に蹴散らし、面倒な地形も装備の力で解決して暴れまわる。神の名のもとにその力を示す……………はずだった。
しかし、
「司令！お待ちください！あれを！！」
「ん？……………なっ！？あれは！？」
くしくも彼らは出会ってしまう。
ダンジョンなどとは言っていられない、脅威に。ダンジョンの攻略は延期してそちらの対応に当たらなければならないほどの、脅威に。
だが脅威の方も脅威の方で、
『ぬぉ！？なぜここにあれだけの数がそろっているのだ！？……………まさか、読まれていたのか？またあいつらがこちらの行動を読み取っているのか？度し難い』
その軍勢を前にして怒りを覚える。
両者は目的が同じであるにもかかわらず、ぶつかり合うことになるのだった。もし何かが違えばお互いが一時的には手を組むことができていたかもしれない、世の中の不幸の一端を表すような戦いの火ぶたが切られた。
その行動が、誰にとって１番の利益になるのか理解できないままに。
