３０コマ目 第１試合
「お嬢様。そろそろイベントが始まりますわ！」
「あっ。もう始まるんだ。瑠季ちゃんはどう？準備進んでるの？」
「進んでますわ！癪ですけど大商人から装備を買って暗黒騎士周回したり、エンドコンテンツ級の最強ダンジョンで鍛えたり、もちろんＰＶＰも結構やってますから、レベル以外の技術も鍛えられてますわよ。そう言うお嬢様はどうなんですの？」
「私は出ないから全然進んでないよ」
伊奈野は瑠季とゲームの情報を交換する。
そんな中瑠季が海外サーバとのＰＶＰイベントが迫っていることを告げてきた。伊奈野にはあまり関係がないが、魔女さん達も参加すると聞いているため一応気にはしていた。
「優勝候補はどこなの？」
「ん～。日本サーバも賢者の師匠が参加すれば優勝間違いないんじゃないかという話ではありますけど……………」
「賢者の師匠って、あの瑠季ちゃんがたまにいうプレイヤー？」
「おそらくそれですわ。強いんですけど、全然見たことがないんですわよねぇ。あまり表に出てこないので、全世界に公開される今回のイベントにも参加するのかどうかあまり定かではないんですわよねぇ………」
「ふぅん」
日本サーバの強さは、瑠季の分析を信じれば１人のプレイヤーが参加するかどうかという部分でかなり変わるということらしい。それで大丈夫なのかとあきれる部分がないわけではないが、
「参加してくれるといいねぇ」
「ですわねぇ」
表に姿を現さないタイプの人間に伊奈野ができることはおそらくない。
というか他のプレイヤーに対しても特にできることはないので、情報収集をするだけで終わる。イベントでの作戦や立ち回りなど教えられてもあまり意味はないのだが、瑠季の話であることと聞く分には面白い物だったためおとなしくをそれを聞き続けた。
数日後、
「あっ。今日がイベント初日なのかな？」
朝。伊奈野がゲームへログインしようとすると珍しいことに土日であるにもかかわらず日本サーバが空いていた。
瑠季が話していたイベントの日であることをすぐに思い出し、伊奈野は日本サーバへとログインしていく。
「人もいないなぁ～」
イベントに参加しているのか、伊奈野の視界からは全くプレイヤーらしき姿が確認できない。
初期地点も図書館周辺も、非常に静かであった、
「誰もいないのは、それはそれで集中に適してるし良いんだよねぇ～」
静かなのは伊奈野にとって悪い事ではない。というよりむしろ良い事である。さすがにイベントでＮＰＣの知り合いがいないことには慣れ始めているため伊奈野は１人で黙々と勉強を、
「あっ。ご主人様来たんだ。やっほぉ」
「おや。読み友。来たんですね」
「あれ？２人はいるんですか」
黙々と勉強をするつもりだったのだが、伊奈野に話しかけてくる普段のメンバーが２人。
屈辱さんと司書さんである。
２人はどうやらイベントには参加していないようだった。
「お二人は今回、何もしなくていいんですか？」
「アハハッ。僕たちは今回何も仕事はないよぉ。いや、ないわけではないんだけど、いつもよりちょっと忙しいくらいかな」
「そうですね。私も図書館外でちょっと活動が必要ではあるようですが、そこまで忙しいわけではないですよ」
普段ほど暇なわけではないが、ここに来る程度の余裕はあるようだった。たださすがにいつものように本を読んだり軽い研究をしたりということまではできないようで、伊奈野と二言三言言葉を交わしてどこかへと行ってしまう。
となるとやはり伊奈野は１人取り残され、
「よぉし。結局１人で集中できそう！」
いつものＮＰＣな知り合いたちも、マターも、黒い本もいない。
珍しく本当に誰も近くにいない中、伊奈野は黙々と勉強を進めていくのであった。
「オホホホッ！ちゃんと狙わないと当たりませんわよ！」
「ギルマス。突っ走らないで……………ニャ～」
「ヒャハハハァァァァァァ！！！！！剣の錆になりやがれぇぇぇ！！！！」
伊奈野がそうなっているなか、イベントフィールドではちょうど日本サーバと他国のサーバのプレイヤーが戦いを始めていた。
日本サーバのプレイヤーの中で屈指の実力者集団であるトップギルドの１つが突撃を行ない、相手側に少なくない動揺を与えている。
とはいってもそれはほんの微々たるものであり、本命はやはり、
「他の世界の俺というのも、また不思議な気持ちにさせる相手だな！」
「それは俺も同じだよ！気持ちすら似てるなんて、もっと気持ち悪い！！」
そんなことを言いながら斬り結びあうのは２人のそっくりな見た目をした男性。
英雄と呼ばれる強力なＮＰＣの中の１人である勇者が激突したのだ。
他の地点でも同じように同じ英雄の激突や、
「では賢者。手筈通りにやりますよ」
「了解。じゃあまずは１人そこ。どーん！」
「きゃああぁぁぁぁ！！！？？？？」
「「「「ひ、姫がやられた！？」」」」
一部の英雄が手を組み、相手側の英雄を袋叩きにしたり。
様々なことが起こっていた。
そして何よりも。１番予想外なことにここで日本サーバが優勢になった点として、
「ふんっ。まだまだ私の魔法を防ぐことは無理みたいね……………って、キャアアァァァァァァァ！！！？？？？？」
「「「「賢者までぇぇぇぇ！！！？？？？」」」」
英雄の１人であり、魔法を使うことを得意とした賢者。
そんな賢者の内、相手側にいる方が突然大ダメージを受けて倒れた。ただ、相手のプレイヤーにオーバーキルな攻撃を何度も繰り返していただけだったというのに、だ。
それこそ、オーバーキル過ぎる攻撃が身を亡ぼすような対策を相手がしていない限りこんなことにはならないだろう。
多くのものが困惑する中、賢者や姫と言った一部の英雄の敗北が起きたために次第に勢いは日本サーバの方が強くなり、
「第１試合、日本サーバの勝利！！」
「「「「うおおおぉぉぉぉおっぉ！！！！！！！」」」」
会場が熱狂する。
だが、まだまだ日本サーバの活躍などと言うものはイベントの効果の序ノ口と言ってもいいようなものだった。
