11コマ目 新ダンジョン
本日3話目…………あれ?前話に2話目って書いたっけ?
大規模なダンジョンの改築が行なわれた翌日。
いつも通り朝の日本サーバでの活動を終え、学校へ向かう途中、
「そういえばお嬢様。墓場のダンジョンにはいきまして?」
「墓場のダンジョン?」
使用人であり同級生でもある瑠季から、ダンジョンの話がふられた。
伊奈野は内心自分のダンジョンことかと一瞬思うが、
「そう。墓場のダンジョンですわ。実はとある海外鯖の墓場で最強なのではないかと噂されるダンジョンが発見されたんですの。しかも、それ以降各所の墓場が再探索されていくつもダンジョンが発見されて。今は墓場ダンジョン攻略ブームになっているのですわ!」
「へぇ~?」
その後の説明で違うと確信する。
(世界最強とか言われるってことは私のダンジョンではないよねぇ~。骸さん達が色々とやってて強い方ではあるけど、さすがに最強ではないでしょ。昨日人が多かったのは単純にそのダンジョンが発見されて、私の作ったところの墓場も探索されたってことなのかな?)
伊奈野と同じように墓場にダンジョンを作るという発想の持ち主がいて、さらにはそのプレイヤーが世界最強とまで言われるダンジョンを作っているわけで、
「知らなかった。瑠季ちゃんもそういうダンジョン攻略してるの?」
「私はその最強と呼ばれるところの攻略に向かってますわ。その名前だけあって、モンスターが強い代わりに経験値がとっても美味しいんですの」
「ほぇ~。レベリングにちょうどいいところって感じ?」
「そうですわね。海外鯖ですので何かアイテムを獲得しても日本鯖に持っていくことはできませんし、純粋にレベリングとスキル集めと称号集めのためだけの空間ですわ」
「ふぅ~ん」
本来であれば海外サーバだったとしてもこれにお金稼ぎというのも追加される。
だが、残念ながら瑠季の訪れるダンジョンがあるサーバでは外の人間や他宗教の人間に対して非友好的であるため、ドロップアイテムの換金などができないのだ。
そういった細かい部分には気づかない伊奈野だが、
「海外鯖ってことはさ、アイテム共有じゃないでしょ?武器とかどうしてるの?」
伊奈野の気になったこと。
それは、武器を含めた装備をどうしているのかということだ。
「ああ。それは課金分のポイントを使ってアイテムの個人専用化をしたんですわ」
「え?何それ?」
「簡単に言うと、そのアイテムを売ったり譲渡したりできなくなる代わりにどのサーバでもそのアイテムを使えるようになる機能ですわ。ちなみに盗まれることもなくなりますの」
「ほぇ~。そんなのあるんだ」
そんな新しい情報やダンジョンのことを瑠季から聞きつつ、伊奈野はまたゲームの知識をとても偏ってはいるものの手に入れるのであった。
それから数時間が経過し、夕方。
伊奈野はダンジョンのある海外鯖へと、ダンジョンコアが破壊されていないか若干不安になりながらログインする。
ただ、とりあえず破壊はされていないようでダンジョンの中にログインできて、
「骸さん、状況はどうですか?」
すぐに近くにいた骸さんへと状況を尋ねた。
『むっ。ダンジョンマスター、来たのか。状況はそこまで悪くないぞ。どちらかと言えばDPの獲得量が増えているし良い状況と言えるくらいだ』
「そうなんですか。それならよかったです」
骸さんの話によるとそこまでひどい状況にはなっていないらしい。これを聞いてやっと胸のつかえがとれたような気がした。
(あぁ~よかったぁ~。これでもしまずい状況とかになっててダンジョンが壊されたら3日くらい泣いた気がするよ……………まあ時間もったいないしさすがにやらないとは思うけど)
なんてことを思いつつ、穏やかに勉強を始める。心のつっかえが取れたためか、いつもより集中して取り組むことができた気がした。
その後休憩に一度入ったところで、
「あれ?これなんですか?」
『むう?それか?それは常闇の階層だな』
伊奈野はいくつかあるダンジョン内部を映し出すモニターに目を向けた。
色々と映っていて気になるものはたくさんあるのだが、特に伊奈野が気になったのが、暗闇の場所。何も映っていないため、モニターは何も移していないのかと思ったほどの場所だ。
『暗闇で奇襲を仕掛けるというのがコンセプトであるな』
「ああ。なるほど。そういうタイプですか」
その階層の目的は奇襲。
視界を奪った状態でモンスターに攻撃を仕掛けさせるつもりなようだ。ただ問題というわけではないが、その階層は、
『まだ誰も来ていないから本当に機能するのか分からないのだ』
「え、えぇ?」
まだプレイヤーもNPCも、その階層にたどり着けていない。そのため、その仕掛けがしっかりと機能するかどうかも分からない。
何とも微妙な気持ちになる話だった。
ただ、そんな状況である階層は珍しくなく、ほとんどの階層がいまだ未到達で試されていないものばかり。
「それ、何かが失敗して10階層くらい飛ばされるとかいう不幸な事故は起きませんか?大丈夫ですか?」
『お、おそらく大丈夫だとは思うのだが………』
伊奈野の懸念に、骸さんは微妙な反応を見せる。
試していないのだから正確なことなど言えるわけがないのだ。
伊奈野としてもそれは分かっているためそれ以上言うことはなく、今度はすでにプレイヤーが侵入してきている階層、というかプレイヤーたちの様子を見る。
最初の方の階層はただ純粋にモンスターと戦闘を行なっているのだが、
「あっ。おぼれてますね」
『うむ。深海の階層はこの世界の者達にも有効だったからな。残しておいたのだが、思っていた以上に効果を発揮してくれている』
下に行くごとにダンジョンの環境は理不尽な物へと変わって行っている。
全体が水で満たされている階層では、多くのものが溺死していた。
伊奈野は不幸なことに連鎖的なダンジョンの被害をダンジョンマスターである彼女自身が受けた時のことを思いだし、少し目線が遠くに行くのであった。




