１３コマ目 海外経験
他作の話を間違えて投稿していました。すみません。また、感想やメッセージで教えてくださった方々へ感謝を。
近い内に何度か１日複数話投稿します！！それで許してください！！！！
この『ｎｅｗ ｗｏｒｌｄ』というゲームは各国にサーバが存在する。
そして、入ろうと思えば他国のサーバへ入ることも可能だった。だからこそ、何故かはわからない誰かさんの引き起こした事件のせいで日本サーバはとてつもなく混雑しているわけだが。
そんな様々な世界がある中、彼女は使える時間を最大限活用できるように各所の空いているサーバを飛び回り、
「ん？あれって、魔女さん？」
見覚えのある顔もいくつか見つけた。
彼女を師匠と呼び慕う魔女さん。………なのだが、
「おら！とっとと歩け！」
「遅い！俺たちの時間無駄にしてんじゃねぇぞ！」
「…………………」
汚い言葉がゲーム内の翻訳機能により日本語へ変換されて伊奈野の耳へと届く。フルダイブ型のゲームであり、脳波を読み取る機能があるからこそその言葉の真意が聞き手へ直接伝わるのだ。だが、プレイヤーたちの汚い言葉は彼女の知識にある言語ではないことが分かる。
そしてそんな言葉を向けられているのが伊奈野も見覚えのあった顔。魔女さんだった。
プレイヤーたちに囲まれ、暴言を吐かれながら歩く彼女。その目は虚ろで覇気がなく、伊奈野の知るような知的好奇心が溢れた姿とは似ても似つかない。
「あんまり良い待遇ではないのかな」
今までこの世界の魔女さんがどのような待遇だったのか。どのような役割を担っていたのか。そんなことはいっさい分からない。
しかし、決して良い扱いを受けてこなかったのであろうことは容易に理解できた。
「あんまり気分は良くないかな」
別人であるとはいえ、見た目がそこそこに親しい人がひどい扱いを受けているのは決して気分の良いものではない。
伊奈野はなんとなくやるせなさを感じて、
「『サクリファイス』」
効果を知らない。しかし、何かはあるのではないかと思っている魔法。
彼女の弟子であった魔女さんから教えてもらったそれを、伊奈野は使用した。のだが、
「まあ、何も起きないですよねぇ」
イベントのときに使ったので分かってはいたが、即効性のある魔法ではない。ただ彼女の手にあまり大きくはない魔法陣が浮かび上がるだけだった。
とりあえず意味はなかったとしても何かはした。
何もしなかったよりはマシだと自己満足をしつつ、虚ろな目をした悲壮感溢れる魔女さんを無理矢理忘れてしまおうと自分の記憶に蓋をする。
「はぁ～今日も勉強日和ですねぇ」
そんな彼女は当然気づかない。
魔女さんが彼女の使おうとした魔法をしっかりと見ていたことも。魔女さんは魔法陣を見れば一瞬で術式を理解することも。魔女さんがその魔法に希望を見出だしたことも。
そして、
《称号『賢者の救世主』を獲得しました》
知らぬ間にどこかで怪物が生まれ、魔女さんから大きな感謝を寄せられたことも。
ちなみのちなみに、
《称号『賢者の憧れ』を獲得しました》
《称号『賢者の夢』を獲得しました》
《称号『賢者の目標』を獲得しました》
伊奈野に感謝する魔女さんが１人だけではないことも。
「うぅん。このままだと日本鯖にはしばらく戻れないかなぁ」
日本サーバの混雑から約１週間が経過し。それでもまだまだ収まる気配が見えない。
この間に伊奈野は数ヵ国のサーバを飛び回り、自分の知らなかった海外というのも体験した。もちろん、勉強は何よりも優先されて行われたが。
彼女が見たのは苦しむ魔女さんたちだけではなく。
「スカーフ巻いた魔女さんは衝撃的だったなぁ」
とある国の魔女さんは、頭にスカーフを巻いて髪を完全に隠していた。つまり、そういう宗教に染まったということである。
魔女さんだけでなく他のNPCやプレイヤーにもスカーフを巻いているものが多く、普段遠目に見えるゲーム世界の教会もそういう宗教の建物へと変わっていた。
宗教というものの力と恐ろしさを実感した出来事でもある。
他にも伊奈野が見た中には、
「○国万歳！○○党万歳！！」
と言って満面の笑みで万歳していた魔女さんなどもいた。こちらはこちらで別の恐ろしさを感じた伊奈野であった。
ただ、色々と彼女の幅を広げることにはなる出来事の数々でもあった。
「将来は海外で働いてみるのも良いかもなぁ」
伊奈野はもう受験生。だが、まだ受験生だとも言える。
将来を決めるための重要なポイントではあるが、ここでなくても将来は決められる。そう思うとなんだか、
「いっそう勉強に力が入る！」
……結局受験も大事だよねみたいな思考に数秒もかからず行きつき、また一段と集中して勉強に取り組む伊奈野なのであった。
後日。
「あっ。この間の模試、私１位だったみたい」
「「ゲームしてたのに！？」」
「「さすが姉さん」」
模試でいつも以上に優秀な結果を叩きだし、家族から驚愕されることになる伊奈野がいた。
ゲームの禁止も回避され、まだまだゲーム内での勉強で力をつけられる。もう彼女を止められる者などどこにもいない。
「魔女さんたちにも伝えた方が良いかな？………………………うぅん。また今度でいっか。いつ鯖が落ち着くか分かんないけど」
あと、相変わらず魔女さんは扱いがひどい。
基本的に皆様短い間であったとは思いますが、今年もありがとうございました。
良いお年をお過ごしください。
