34コマ目 慢心
本日3話目です
伊奈野へといくつも問題が飛んでくる。
解いても解いても補充されるようになっていき、
「範囲もしっかり高校までなのに、こんな問題作れるんだ。凄い!」
伊奈野のテンションはこれまでにないほどに上がっている。黒くて何もないような空間だが、なぜか机と椅子だけは用意されていたため問題を集中して解くことも可能。
伊奈野にとっては夢のような空間だった。
もちろん全部黒だと雰囲気的に落ち着かないといった不満がないわけではないが、誤差の範囲だ。
「この問題もすごいな~私も考えたことはあったけど、こんなに綺麗に関連させて作れるんだ……」
伊奈野は問題に感心し楽しむばかりであり、そこに不安などは一切ない。
その頭には、外の状況がどうなっているのかとか、邪神の力がどうなっているのかとか、イベントに関係があるのではないかとかなんていうことも思い浮かびすらしなかった。
このことは伊奈野を良く知っていれば当たり前だと思うのかもしれないが、
「全然封印速度が落ちない。凄いですね」
「ど、どうなってんだ!?あんな高度な計算も求められたり広い知識も必要だったりしてるのに、このペースで解けるっておかしいだろ!」
今回のことを仕組んだ日本サーバの運営は当然そんな反応にはならない。
驚愕し、計画通りに進まないと慌てる。そんな様子だった。こうなってしまえばあとはもう頼れるものは、
「神!調整はどうだ!難易度もう少し上げられないのか!?」
『アクセスはしていますが、封印対象である邪神の力をグリモワールが少し操っているためうまくいきません。一部の条件のみが許可されて、他は全てはじかれています』
「アクセスが許可されずにはじかれるなら、封印は不可能ってことじゃないのか?」
『それが、封印の許可されている部分はどちらかといえば積極的に受けいれられているような状況で、そこだけで封印は完了しそうな状況です』
「マジかよ!おかしいだろ!!」
ドンッ!と運営の1人が台パンを繰り出す。
だが現実は何も変わらず、ただカップに入ったコーヒーが少し跳ねただけだった。
「あっ。パソコンに珈琲跳ねた。会社の備品なんですけど?給料減らされますよ?」
「わ、悪い………そ、それよりもこのプレイヤーだ!邪神は何をやってるんだ!!」
邪神。その単語が運営から出てくる。
プレイヤーやNPCは基本的に邪神と敵対しているが、運営はそうではない。彼らこそが邪神の生みの親であり、邪神の復活をイベントとして計画した張本人である。
であれば、
「あのプレイヤーがマズいということは邪神にもしっかりと共有しておいたはずなんですけどね。対応される程度の力しか渡していないとは……」
運営は邪神に協力していた。というか、積極的に害となるプレイヤーの情報は与えていたのだ。ある程度対応が可能となるように。
だからこそ伊奈野の黒い本に対して、邪神は他の邪神の使徒であるプレイヤーなどよりも圧倒的に多い量の力を流し暴れさせていた。
だが結局は、今の惨状である。
『私は邪神とのつながりがありませんのでどの程度の力なのかも曖昧にしか分からないのですが、相当な量であるとは思われます』
「そんなことは分かってるんだよ!だがそれでも対応されてるんだから、結局邪神はこれくらいでどうにかなるだろうって油断したわけだ!ここでもっと全力を出しておけば………」
「落ち着いてください………まあでも、邪神にもちょっと油断はありますよね。これの倍の量の力を流していればもう少しマシになったのかもしれませんが」
慢心。それによる油断。
それが邪神の、ひいては運営の敗北の理由だった。十分だと思った力に追いつかれてしまっているのだから。
「それよりも、どうしますか?イベント中は邪神と連絡を取るのは難しくなってますし、できる対応なんてほとんどありませんよ?」
「そうだよな。今のうちにグリモワールがさらに強化された後の対処方法を考えておかないと………いや、ちょっと待てよ」
伊奈野が黒い本の新しい封印を完成させるのは免れない。そう運営は考えて、その後の対処をどうするか考えようとした。
だがここで、思いつく。
「俺たち、一応この会社に雇われるくらいには頭良いよな?」
「そう、ですね?突然なんですか?外部の人誰もいないのに頭良いアピールしたってモテませんよ?」
「分かってるそうじゃない!だから俺が言いたいのは………」
運営の1人が、同じ運営の面々を見回す。
そこで目が合った手を止められる程度には余裕のある者達を把握して、
「俺たちが、問題を作れば良いんだよ!傾向さえあってればはじかれることもないわけだし、徹底的に難しい問題を俺たちが作ってあのプレイヤーに解かせればいいんだ!!」
「「「「え゛っ!?」」」」
目の合った面々からはどこから出したのか分からないような濁った声が出る。そしてすぐに視線を落として自分は知らないとばかりに仕事を行なおうとするが、すでに余裕のあると判断された者達は目を付けられている。
残念。仕事からは逃げられない。
「さぁ!やるぞお前たち!徹底的にひっかけ問題を作るんだ!!」
「「「「えぇ~……………」」」」
不満の声しか上がらない。だが、やるしかないのだ。ここでやらなければ、伊奈野に負ける、勝ち負けなど明確な定義がある物事ではないのだが、それでも負けた気がするのだ。
これ以上伊奈野に好き勝手をされないために、運営達は立ち向かうことになる。
当然そんな業務が増えればイベント当日ということもありその日の仕事量は多く、
「「「「残業日和だあぁぁぁ……………」」」」




