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Destruction=Install  作者: ennger
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92 世界の敵と人類の敵

 アレイスターたちは、ワイバーン素材収穫祭(皆殺し祭)の後、血塗れの赤い馬車は、海の近くにあるとされるメサイア要塞国へと辿り着いた。

 だがその様子に外壁にいた門番の顔が恐ろしいほど青ざめている。


 無理もない。目の前で虐殺と収穫祭、外の護衛たちへ降り注いだ桜が回収できなかった返り血と。んで終いには、降り注いだ血で塗りたくられたこの馬車である。

 いくら俺でも分かる。血を拭き取らず、そのままにして威厳を見せつけているのである。


「どんな悪魔教だがね。」


「ま、実際悪魔たち一行だから大丈夫じゃない?」


 貴女方は女神様でしょうに。どう考えても悪魔は俺ただ1人。つか、魔神の称号あるわ。ステータス付きでね。


「ど、どうぞ。」


 入門に余計な一悶着が起きないのは良いことではあるが、国同士のファーストコンタクトとしては最悪極まれりである。


「どうも〜。」


 とはいえ、笑顔で対応するのは必須である。笑顔は社会において必要なファーストコミュニケーションである。これができれば後の印象にも差し支えない。多分な!

 だが、そんな恐怖が更に強く込み上げてきたのか、少し後ろへ下がられると嘔吐し始めた。


 俺の笑顔そんなにキモかったのだろうか?そう勘違いしてしまうほど、酷く深く傷ついた。


「ヨシヨシ。」


 そんな悲しみを他所に、無事開門していく。


「誰か洗浄してからにして。」


 流石にヤバいって。


「え?でも」


「煽りとかいいから・・・・衛生的な問題だ。」


「だってさ?」


 ワイバーンはともかく、道中で1番楽しそうに殺し回っていたフレイヤさんはヤケに人事ですね。結局、聖女・・・・・・だと思うジャンヌさんが馬車を浄化してくれた。


 そんな綺麗になった馬車は大きく分厚い装甲に守られている要塞国へ入国した。そのまま馬車は真っ直ぐと目的地の城へ向かって行く。


「要塞国って言ってたからなんかこう・・・軍国家なのかと思ったが。」


 窓から見える景色は普通の国よりも大変賑わっており、市場やイベントごとが絶えない様子であった。


「確かに要塞国とは言われてはおり、全てを殺し尽くした血濡れの王女《《殺戮姫》》「ユメ」の独立宣言の元、この国は成り立っております。」


 ほへぇー、独立の割には人には活気が宿っている。おい。


「なんか途中物騒な名前が聞こえたぞ?」


 俺は《《殺人鬼と結婚》》させられんのか!?馬車以前にお城の主人は既に血塗れでした。


「大丈夫大丈夫、結婚とかそもそも認める訳ないからさ。本当におこがましいよね・・・」


 フレイヤさん・・・・顔が笑ってない。むしろなんかメラメラしてない?


 優しくアレイスターを宥めるも非常に不愉快そうに要塞国の城を睨み付けるのであった。 それはフレイヤのみに限らず、周りも同じくそうであった。


「殺し合いにならなければいいが。」


 普段から血の気が多い連中に、これから起こるであろう出来事にアレイスターは頭を悩ませる。お腹が痛くならないのは前世での社会生活によって鍛えられている。


 割と自分はまともだと思えば思うほど、余計に胃がキリキリし出す。しかし痛くはならない。

 だが、このご時世にまさか国家関係に誘われるとはね?異世界急展開ってよりは、国の戦争状況や列国との勢力図が大きく変わったのだろう・・・・主に俺たちがさまざまな国家を真っ赤に染め上げた結果か。


「アレイスター様、念のためではございますが、この地での1人行動は御法度でよろしくお願い申し上げます。」


 イザナミは深深くその頭を下げた。


 アレイスターの存在は脅威であり、それを付け狙う輩も居ない可能性がない訳ではない。リスクを最小限にするためにもイザナミは自身の命を賭して懇願したのであった。


「大丈夫、解ってる。今回は我儘は禁止にしてる。特に俺も俺でこの辺知らなさ過ぎるからさ。」


「で?その護衛は私でいいのかい?」


「ええ、貴女ならアレイスター様を抱えて移動も可能でしょ?」


「いい配置ではあるよ。個人的にもね?」


「私は認めた訳ではない。だがアレイスター様以上に大切な者などありはしない。」


 ヘルメも不服ではあるが、どうにかこの場はその不満を飲み込むようであった。


「神よ、貴方様に加護を。」


 何故かドス黒いオーラでお祈りする聖女(狂女)様であった。別の黒いドロドロが俺を飲み込んで反転させそうで恐怖を覚えるよ。


「そろそろです。」


 馬車はやがて大きく閉まっていた城門へ辿り着く。


「アレイスター殿!此度の呼び掛け誠に感謝申し上げます!」


 窓越しなのに大きく透き通る男の太い声が響き渡る。

 代わりにイザナミが馬車を降りる。


「こちらこそ此度はお招きしていただき誠に感謝申し上げます。」


 アレイスターの代わりにイザナミが応対するのであった。


「うむ、とんでもない。私はこの要塞国騎士団所属バーンズと申す。以後よろしく頼もう。」


「ご紹介ありがとうございます。

 私はアレイスター様の側近であり、宰相の地位をいただいておりますイザナミと申します。

 以後、何卒よろしくお願い申し上げます。」


 この一瞬で俺にはできない何かをこの人たちはいとも容易くやってのけたのだ。

 こんなアドリブでるかよ。社会人レベルなら良いけど、皇族やらスーパーお偉いさんとの出会いなんてこの人生で一度も無いわ。

 つか、あのおっさんの社交レベルも高過ぎ。


「大丈夫、アレイスター様はいつも通りにね。」


「フレイヤの仰る通りです。ここの王女も情報通りなら然程気にもならないかと。」


 ヘルメは何か確証があるようであった。


「ま、先輩相手だし、胸を借りるとしますか?」


「今かい?」


 フレイヤおっぱいじゃない!だが大きくて揉み揉み。はっ!じゃない!つい釣られてしまった。


「ダメだダメだ!ボケてる場合じゃないよ。」


 咄嗟に止めた。


「いや、ボケてはいないよ。」


「え?」


「うん?」


 あれ?俺がおかしいの?


 アレイスターの周りは冗談では接しない。そんなガヤガヤも馬車が再び進む事で終わるのであった。次には別の緊張感と重い空気がアレイスターを襲う。


 オシャレなお城内へ無事に入場した矢先、俺は一瞬で気持ち悪くなった。

 正確には胸焼けしているこのモヤモヤ感である。実際に気持ち悪いというより、なんか気持ち悪いようなそうじゃないような何か。政治というのをメディアでしか認知していないからか、その不安はより募っていく。


「ファイトです神よ!その神々しさを見せ付けてやりましょう!きっと神のお姿から自身の身体を授けること間違いありません!」


 ジャンヌはやけにテンションが高い。周りの身内もテンション爆上げどころか、人の家でも恐怖を知らない。つか、それ余計に内輪でも炎上するよね?


「君たちのようになれたらな。」


 つい、恨み言がら小声に出てしまった。しかし目の前の大扉はその少しの猶予も許さない。


「では、開門いたすぞ?前もって着いていることは承知の元です。是非遠慮なく。」


 心の準備など、豪快の騎士バーンズが気付くことなく大扉が開かれていく。


 中央奥には玉座へ座る赤いドレスに身を纏う女性が居た。その周りには、優秀そうな護衛が10人ほど左右5人ずつ分かれて立っていた。

 その中央の通路をバーンズが先導し、進んで行くアレイスターたち一向である。


「お待たせいたしました、ユメ様。」


「遥か遠きからやって来た世界の敵アレイスターよ。」


 そんな彼女から俺の名前が出てきた。しかも、失敬な呼称と共に。


「どうも。」


「それで良い、逆に畏まられても困る。余もそんなお主だからこそ招こうと決心したのだ。」


 どうやらファーストコンタクトは良好らしい。友達面は気に食わんがね。


「私は逆に人類の敵と言われていてね・・・・クァハハハハッ!どうだ!?愉快とは思わない!?」


「愉快って言うか・・・その噂が一人歩きしてるからじゃないの?」


 周りはいつの間にか、俺とユメ以外が跪いてはその話を静かに聞いていた。というか、こんな与太話にかしこまるなよ。


「そうだそうだ、と言いたいが。実際には余は家族含めた奴等を全員殺し、周辺国家との戦争に明け暮れていたからであろうな。

 退屈な日々から一気に解放されたように暴れ回っていたからかな?人類の敵として評議国にいつの間にか敵視されていたわ。」


「知ってて止まらんのも凄いよ。余程自信があるのか、それとも行動に一途なのか?俺には難しそうだよ。」


「アハッ!流石は魔神様だ。器や考え方のスケールがどうもデカいようだ。」


 器と思想はデカくないよ!?


 アレイスターの異名はその名の通り《《世界の敵》》『魔神』である。それとは別にアレイスターが世界の敵となる前、《《人類の敵》》『殺戮姫』としてユメが世界の嫌悪の的として受けていた。

 ユメ自身は嫌悪の対象とは言え、彼女はあくまで敵に容赦をしない残虐家であっただけであり、国取り合戦や支配する領土を広げようと軍備を広げるなどと言った行為は一切行っていない。

 ユメが破滅願望主義者ではないからこそ、この国は1つの要塞国として敵対よりも共存を選ばせたのであった。

 無論、戦ってもユメが倒れない可能性が非常に高いという理解もあったからこそ、敢えて何もしなかった。

 だが、ユメという人物は圧倒的なまでに世界への支配欲という賛美に駆られていた。 その欲望は誰しもが叶えられるものではない。

 本当の意味で世界の敵として、世界全てを支配してこそ、その欲望は初めて満たされ始める。そう考えていた。


 欲望から破滅するというのはどの世界線も同じである。そんな殺意や支配欲を持ち合わせつつも、ユメは理性的な王であった。


 そして今、本能で支配を広げる男と理性で支配を企む女が交わった。これが偶然なのかそれとも運命なのか。

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