87 唐突
あれからすぐに闇魔法の意味が分かった。
あの魔法は単にダメージを与えたのではなく、出血効果や斬り傷ダメージの効果アップが目的のようであった。
最初の雷は実際魔法が通るのか?というのと、魔法効果があるのかを見極めていたのだ。
グリズリー自体は本体と毛皮の質から炎に弱いが、辺りの森林ごと燃やす可能性に加えて他の仲間たちへの被害を想定すると、割と使いづらい。
前衛や俺は剣での接近戦を仕掛けたのも表面の硬さや質を確かめる意味合いもあった。
「しかしこうもあっさりといくものか?」
「恐らくこの個体だからかと思われます。」
「そういうもんかね・・ま、次急ぐか。」
「かしこまりました。」
俺たち3人は次のグリズリーを討伐しに死体をそのままに向かった。
近くの茂みを掻い潜ると、グリズリー相手に上手く立ち回っていたアマハがいた。
「!!アレイスター様!」
俺を見つけるとすぐさまこちらへ向かって来ては土下座スライディングした。
それしないと死ぬ!?って、もれなく後ろのグリズリーも連れてきてんじゃねえか!?
咄嗟にこっちへきたアマハに視線が釣られたが、マリンとリンジャが有能であったためか、すぐさま対応してくれた。
先ほどと同じくマリンが前衛で食い止め、後ろからリンジャがバフをマリンへと唱えた。
このバカを仕込んだやつは後で説教だな。
「あ・・・・豚さんやい。今はそんな事してるば・・・・んん!今は許可するから頭を上げて戦いなさい。」
「はっ!」
と、アマハが頭を挙げると、オデコには家畜って刺青が刻んであった。
マジ人間ビックリ箱かよ。今この時まで知らなかったよ。っと、こんな事してる場合じゃない。
「アネモイを待たせている!こっちもさっきと同じように行こうか!」
「「「かしこまりました!」」」
アマハも加わった事により、戦力増強と攻撃のバリエーションが増えた。
マリンが抑えている間に俺が脇腹付近を突いては、アマハが頭上から背中までを斬り刻む。
グリズリーはその痛みに耐えられなかったのか、マリンの盾から手を離してしまう。
「はぁぁぁぁぁ!!」
その隙を見逃さないマリンによって盾でそのままグリズリーを叩きつけては押し返し倒した。
「目を閉じで下さい!」
リンジャの咄嗟の掛け声で俺たちは一斉に目を閉じた。
「光よ!」
グリズリーが起き上がった瞬間、光魔法を使いグリズリーの視界を奪ったのだ。
「今です!」
「ありがとう!」
再び目を潰され転がったグリズリーに俺たちは容赦なく斬りかかった。流石に苦しくなったのか、なんとか無理矢理立ち上がったグリズリーは茂みへと逃げようとしたが。
俺がその背後から左側へ目掛けて刺したら、心臓に剣がたまたま刺さったのか、一気に力無くどさりと倒れていった。
なんか最後のトドメって気分いいよね。
「よしっ!」
「アレイスター様!」
なんか背後からヒヤリとした何かがいるような。
後ろを振り向くと黒いモヤがかかったグリズリーがいた。
身体には切り傷が数ヶ所あり、何かから逃げてきたようにも見えた。
「やばっ!」
咄嗟に払い除けようとした黒グリズリーの鋭い一撃をアマハが身を挺して庇ったのだ。
しかし、威力が凄まじく俺とアマハは一緒に横へ飛ばされてしまった。
「ぬぅぅぅえええ!!ぐへぇ!!」
そのまま大きな大木にぶち当たった。
少々鍛えていたからか痛みこそあるが、まだ意識は保っていられる上、幸い大怪我はしていない。
「おい!」
アマハは庇ったためか、背中や腕から出血していた。
「ぐ、ぐへへへへへ・・・あ、アレイスター様の盾になった・・・・う、嬉しい・・・」
ナニコレ?ガチで喜んでるし。ドMだったの?そんな事言ってる場合ではないわ!
すぐさま回復用のスキルを設定した。
「これなら行ける。今日一日だけの設定だが。」
アポロンの癒しを借りたのであった。
効果は絶大であり、アマハの抉れていた背中の大傷が一瞬にして塞がった。
「血が流れ過ぎなくて良かった。」
「ムフフ・・・・はっ!も、申し訳ございません!!」
すぐさま強烈な土下座モード。
「いや今は良いから。とっとと向こうに参戦しないと。」
「かしこまりました!」
さっと向こうへ行ってしまった。
行動が早いのは助かるけど、変な方向にも早いぞ。
俺はとりあえずヨイショとバキバキの重い身体立ち上がり、自身にも治癒を施した後、参戦しに向かった。
「アレイスター様!」
「大丈夫!」
「前!」
マリンは食い止めてこそはいたが、その表情はどこか苦しそう感があった。
余所見をしてはいたが、引っ掻き攻撃を上手く受け止めた。
「アネモイ!」
「飛ばされぬよう!!『神風の烈旋』!」
鋭い暴風の槍が黒グリズリーへと撃ち込まていく。
神が作りし風のためか、1本1本の威力・風圧が凄まじい。
「ぬうぇえええ!」
俺はリンジャが支えてくれたお陰で吹き飛ばされずにいた。周りの皆は自力で立っていた。
何とも恥ずかしい話だよ。ハゲちゃう。
「にしてもスゲェな!」
アネモイの攻撃に黒グリズリーは手も足も出ていなかった。そんな黒グリズリーは野生の本能でアネモイから逃げていったのであった。
「おや?まだ遊び足りないが・・もう少し遊んではもらえないかな?」
アネモイは空から黒グリズリーの逃げ道を大きな竜巻で封鎖しては遊んでいた。
もう全部LRでいいんじゃないかな?
まあ、この黒グリズリーは特例っぽいし。うん?
黒グリズリーの逃げ場を封鎖したアネモイによってフルボッコにされていたところアレイスターは奇妙な光景を目の当たりにする。
「うーーーーーん、うん?」
「アレイスター様?」
いやーなんかね・・・・黒いモヤなんだけど、なんかこう。召喚士の何かが反応してる。
浄化とかそんな綺麗なもんじゃない何かが。
そのまま俺は遊ばれている黒グリズリーの前に行ってみた。
「アレイスター様っ!」
リンジャが呼び止めるも、俺はそのまま進む。
アネモイが見下ろしている姿に怯えている隙に後ろからえいっと。触ってみた。
「アレイスター様?」
アネモイも流石に驚いていた。
しかし、次の瞬間黒いモヤが俺の胸へと入り込んでいった。
「「「「アレイスター様!!」」」」
4人が一斉に俺の元へと駆け寄る。
「うぉぉぉぉぉ・・おお?」
なんか知らんがクマさんのモヤが俺の中に全て入り込んだ。途端、前のグリズリーはそのまま力尽きて倒れてしまった。
しかし何か実感が湧かない。強くなった!とか能力開花!とかない。
「何だったんだ?」
俺は解らない何かを吸収した。
ただ、それが何なのかは知らない。試しにメニューを開くことにした。
アレイスター(仮)LV@#a!_/?!!
職業 召喚士
スキル 支配、神化、呪言、思念、投影、調教、借用、洗脳、招来、改造、憎悪吸収、真の魔神、強奪
称号 世界の敵、殺戮の王、孤高の王、性の王、猪王、死者の復活、魔神、統治者候補、NTR王
サブスキル 悪の支配者
ってやんでえーーーい!
大変末おろしいことになっていた。
初めに順序を追ってだ。
死んだから何かあったとは思ったが、まさかのレベルバグってますね!
まあ、多分だが憎悪吸収がさっきと関係してそうだ。
憎悪吸収・・・この世の全てを憎む者の魂を吸い取る力
※レベルが上がる事に召喚した者へ力として譲渡できる。
つまり、パワーアップバフか。怨念の力でってね。
てか、よくねえ力しか働いてねえやん!
次は改造さんですね。これ説明要らんやろ。絶対に対象を好みに改造できる。ってやつですね。
改造・・・対象の全てを変化させる事ができる。
予想以上にエグい力ですね。男子から女子もできるって事ですね。絶対にやりませんよ。フリじゃないよ。
真の魔神・・・巨大な神力による破壊が可能
※1度発動すると、次の使用が1ヶ月かかる。
※威力はレベルに依存する。
これは普通に破壊神です。唯一の攻撃手段がまさかの1ヶ月制度です。
威力は凄いのだろうけど、撃ちどころは大事だな。
強奪・・・最も大切にしているモノを力付くで奪い取る。
超ゲス能力じゃねえーか!
おい。これ作った奴もしかして俺の現状を見て与えてやがんだろ!だからNTR王とか不敬な称号与えられてんのかよ!ざけろ!
他にも気にはなるが経験している以上は・・・だが、サブスキルの悪の支配者とは?
サブスキルは説明が一切ない。
あくまでオマケだからかな?まあ、何にせよいずれ解るか。
「アレイスター様。」
アネモイが静かに待機し俺の様子を伺っていた。
「ああ大丈夫だ。やや疲れただけだ。」
実はどっと疲れた。
明らかに俺の能力が特定の人向け過ぎて何とも言えない。いや趣味的に悪くはないが、果たしてこの異世界で生き残るのに必要不可欠なのか?
召喚数も増えてはいるが、肝心の石が全くといってない。サービス召喚と『堕転』以外はLRの新規もない。
割と世知辛いだろ。強さがあっても必要な材料があまりにも少なすぎる。
「どこに向かっていってんだか。」
綺麗な昼の空を見上げて俺は何となくでボソボソと呟いていた。
「アレイスター様ぁぁぁぁぁぁあ!!」
突如上から何かが降ってくる。
俺の前に勢いよく着地したその人はアテネであった。
「アレイスター様!!緊急事態です!」
「な、何よ!?」
お前の緊急自体は国家存亡レベルなんだけど!
「ああああああああ、アレイスター様!」
「ど、どしたよ?落ち着け。深呼吸深呼吸。」
このアテネの慌てっぷり・・・・・なんか嫌な予感だ。
「アレイスター様宛にこのような書状が。」
アテネから1通の書状を手渡された。中身を拝見すると、そこにはこう書き記されていた。
「えーと、なになに。『この度は遥か遠方の地にある我ら『メサイア要塞国』は新国家『エデン』の支配下に置いていただきたく、お願い申し上げるのと同時に、条件として王である私ユメと婚姻を結ぶことを受諾していただきたい。』・・・・・・・・・・は?」
「「「「は?」」」」
ほんの一瞬だが、完全に世界の時が止まったのであった。




