86 改変
いざ紹介されたチームへと向かうと。
「お待ちしておりました、我らが主様。」
変貌したアネモイを筆頭に皆が跪いていた。地面の土汚れなど気にせず。
だが、1人気掛かりな奴がいた。
「何で土下座してんの?」
しかも背中には大胆な刺青をしている。つか丸見え。なんか・・・悪くはないけど悪いことした気分にはなる。
「家畜如きが許可なしに主様を見上げる事は許されていないためでございます。」
アネモイが代わりに説明してくれた。
もしかしてこの豚さんって・・・
「ああ・・予測はできてるが顔を上げてくれ。」
ささっと顔を上げると。
そこには、おでこに砂汚れを付けたアマハであった。
勿論俺はそれを予想はしていた。『堕転』させる事はなんとなく分かっていた。
しかし、鼻に輪っかピアスってもう・・・
「あー・・・・大丈夫?」
「はっ!問題ありません!」
またしても勢いよく土下座する。痛くないのかな?
「この者は豚と名を与えられました。どうかそう呼んでいただけるとこの者も幸せに満ち溢れることでしょう。」
な訳あるか!道理で優秀だよ!長年斥候として活躍きていた訳だし、その腕はSSRの中でも確か。
だが
「結構やるな。」
「お話によれば・・・・」
ああ。まあ、そうね。
「過ぎた事だし。」
ただ何となく唆る。という邪な感情はある。
「お好きな時に処理道具としてお使い下さい。我々の方もそう仰せつかっております。」
処理って何の?あの処理のこと?
いやまあ確かに・・・興味がない訳ではない。が、なんか俺の目的である訓練と大分逸れてる気がする。
「いかようにもお使い下さい。」
土下座マンは顔を見せずに何か言ってるし。
「分かった分かった。とりあえず今の目的は俺も戦えるようにだ。
つまり余計な事をする方が余計にしんどい。分かる?」
「「「「はっ!」」」」
4人が一同に納得はしてくれた。先行きが不安でしかない。
そんなどうこうと色々あったが、5人1組訓練は早々に開始された。一応、森の中をある程度探索してモンスター狩りをする。
コイツらからすれば楽々だが、今回の目的はあくまでもチームで動くこと。単独の強さは意味をなさない。
テュールとベローナが納得のいく結果が出るまでは永遠と彷徨うらしい。
俺も死なないように頑張ろう。
「この森は相変わらず深いし薄気味悪いな。」
「魔力が漂っているのもありますが、森自体は元より魔物の住処です。」
褐色マリンちゃんが説明してくれた。タンクなので鎧をガッチリと装備している。
「ふーん、後は生態系崩さないようにコントロール?してんだっけね。」
「流石でございます。」
アネモイが激褒めしてくる。NTRした所為なのか後ろめたい。まだやってないけど。
そんな俺の手にはじゃらじゃらとした鎖が握られている。もちろんその先には。
「ア・・・・豚。」
「はっ!」
四つん這いからスライディング土下座で速攻で側に来る。どう歩いてんねん。
実はアマハと呼んでも反応しない。フレイヤたちが何かしたようだ。はぁ・・・・
「この辺探ってきて。」
「承知致しました。」
握っていた鎖を手放すとそのまま森の影へと消える。
「どうしてこうなった?」
有能なのは確かだけど、やり難い。特に殺されかけたのもあってか、少々忌避感を覚える。
あまり手放し過ぎても何が起こるか分からん。
なんとも面倒な奴を寄越してきたな。
「アレイスター様、我々如何致しましょう?」
LRの君が何で俺に聞くの?
『じゃあ、次は東に進んでみよう。彼方から何か良からぬ雰囲気を感じ取った。』みたいな事をキリッと言えたらどれだけ良いことやら。
できるなら初めからやってる。
「そうだね・・・・・・まあ、慌てなくていいんじゃない?あくまでも演習なのと、今斥候が調査中だし。」
「かしこまりました。
では、辺りを警戒のため風の精霊を使役させていただきます。」
最初からやれや・・・・もしかしてあれか?俺の顔色を窺ってたとか?それあるな。ならばここは1つ。
「んん!私の事は気にしなくて大丈夫だ。
気にしなくていい。というのは、私も君たちのメンバーの一員であるという事だからだ。いくら王様でも状況の判断や指示を1人でこなしては早い段階での指揮系統崩壊の可能性も高い。
なら、尚の事我々は相談し、互いに話し合いながら進まねばならない。
リスクの回避と後悔のない選択のためにも、是非とも協力していただけないだろうか?」
我ながら即興にしては上手くまとめた方では?ただ気掛かりなのが、何か重要な事言ってんなー。って思ったら、この人たちはすぐに跪いて傾聴し出す。
だが今回は仕方がない。逆にこっちの方が話を聞いてくれるから良い。と思う。多分。
自信が徐々に擦り減ってはいくが、そんな中アマハが帰還した。
「お待たせ致しました。」
またしても高速スライディング土下座です。ちゃんと地べたに擦り着けてます。一体何をどうしたらこうなるの?謁見でも少しは顔を上げられるよ。
「で、どうだった?」
「はっ!ここから数キロメートル先にグリズリーが3頭ほどおります。2頭は3mほど、もう一頭は謎の黒いモヤを纏っており、大きさは推定でも4、5mほどでございます。」
一種の巨人やないか。何でこんな森に居んだよ。
3mはまあ、お姉様方より1mちょい高いと認知できるが、それ以降はすっ飛んでんだろ。
「あーーー・・・これ絶対遭遇する奴だな。」
人間の勘は割とアテにならない。
しかしこの言葉はある一定レベルの人間性が養われると、当て嵌まらない事が分かる。
例えば料理をしていると、いちいちグラムを計りながらやっていくのは正直しんどい。
特にお店などの営業時ではそう。
しかし、ある一定以上レベルや技術が習得されていくと、知らぬ間に感覚で適切な配分と数値を測る事ができる。
俺自身この感覚を認知し始めたのも社会人になって2年目だ。
どうもふざけ半分で色々と測ってみたら±1の誤差はあるものの、ほぼ完璧に勘でマスターしていた。
その勘は別の場所でも生かされるし、もちろん神経すら研ぎ澄まされもする。
一度力を発掘すると、どんどんレベルが上がっていく。まるでゲームのように。
つまり今までの事を総括し、確実に遭遇するのが分かる。根拠ならある。
アマハにこの辺を探るようにお願いしたのだが、他の連中と被る事をコイツが見逃す筈がない。今や・・・・・まあ、言いづらいが魔改造に魔改造されたアマハが俺の求めに対して、怠るような真似はしない。
「では、どうしようかね?」
「それでしたら精霊を使い、こちらに近づいてくるのを察知させましょう。距離に応じてトラップの設置と分断作戦を行いましょう。いかがですか?」
アネモイがすぐさま案を提示する。
敢えて俺ではなく周りにも尋ねたか。
早速理解してくれてありがたや。これで周りがちゃんと反応してくれれば・・・
「それで構いません。
ですが手始めにどの個体から狩るのかを決めないといけません。」
リンジャがしっかりと意見を述べた。
「そうですね。私が一体受け持つ事が可能ではございますが、残り2体をどうやって引き剥がすかです。
アネモイ様とそこのクズ豚で何とか補えれば良いのですが。」
しれっと気になるが、突っ込まんぞ。
「その2体に関しては受け持ちましょう。
LRの身ではありますが、黒いモヤはやや気になります。その個体は隙なく全員で取り掛かりましょう。
ゴミ豚は私が黒い方を抑えている間に時間稼ぎをしてくれるかしら?」
「はっ!かしこまりました!」
アマハは土下座のまま返事するのであった。
「なら俺は安全策で申し訳ないが、力がないのも承知の上で中間距離で遊撃させてもらうよ。
マリンが抑えた隙にヒットアンドアウェイ戦法でツンツンするよ。」
「かしこまりました。」
「アレイスター様はこの命に替えてもお守り致します。」
改めてマリンは気合いが入ったようだ。リンジャも任せて下さいと気を引き締めていた。
「では時間が惜しいので作戦開始しましょう。先ずは私が精霊を使い2体を引っ張って参ります。後は頼みます。」
アマハとアネモイはサッと森の奥へと消えていった。
「私たちはもう少し前進し、音と精霊から接近の知らせが聞こえたところで陣形を立てましょう。
とは言えど、前衛中衛後衛と1人1人なので慌てる事なくスムーズに組めますね。」
マリンの言うことはもっともである。
中でも俺が1番足を引っ張るのは確実必須で、リンジャの後方支援と連携も必要となる。
割とハードな役割にいる事を改めて知った。
そんな静かになった森林地帯。
そんな3人の前方からはこちらへ向かってくる茂み音が鳴った。また精霊も同時に知らせを寄越す。
すぐさま3人は所定の配置へ着いた。姿を現したの と同時にグリズリーが現れる。
大きな咆哮と大きな図体がアレイスターたちの前に立ちはだかる。
3mと聞いていた体格も実際に出くわすと3m以上ありそうに見える。
そして戦いが始まる。そこに合図はない。
野生に合図やタイミングは存在しない。目の前に獲物が現れたのなら飛び掛かるのが自然の摂理である。
マリンは準備をしていたのもあってか、悠々と強力な攻撃を受け止める。
受け止めた直後に盾を前に押し出し、グリズリーを腕力で抑え付けていく。
前のグリズリーが抑え付けの影響により、身動きが取りづらくなった隙を窺い、横からアレイスターが攻撃を開始した。
キツイがイケる!このフレイヤ剣なら!
アレイスターは下手に斬りかからず、脇腹を剣で刺し込んだ。
剣の性能が良いためか、刺した感覚がほぼ皆無である。それぐらい鋭い一撃であった。
逆に刺さり過ぎないよう、アレイスターは剣が半ばまで刺さったのと同時に引き上げていく。
「よしっ!」
「お見事です!」
今の君たちには負けるよ。
「マリン!」
リンジャが魔法を放つため合図を出す。
その合図を聞いたマリンが盾でクマを弾き飛ばした。
ピンボールでも弾いてんのか?ってぐらい飛んだよ。
そんな俺の心中はさて置き、リンジャによる雷魔法が放たれた。
強大な電撃に唸り声を上げるグリズリー。
しかし、1発では倒れない。
「けど!効いてます!」
よく見たら炎魔法を使わない理由って、多分俺の付けた傷口を塞いでしまうから。とか何だろうか?
「マリン。」
「はっ!」
マリンが今度は剣を構え、一気に詰め寄った。
盾を使い攻撃を受け流し、隙を突く。
アレイスターもその隙を見逃さず、グリズリーの視覚範囲外から接近し、剣を突き刺す。
そしてまた2人が離れたのと同時に、今度は黒い闇魔法が撃ち込まれた。
黒い膜のような何かがグリズリーを包み込んだ。
「うん?あまり効いてないような・・」
しかし、グリズリーは闇魔法に対してはやや辛そうにしていただけであった。
「いいえ、これで良いんです。」
マリンは何かを知っているようだ。
聞き返す暇もないため、今はこのヒットアンドアウェイ戦法をひたすら繰り返し始める。




