80 帝国殲滅戦 3
「ま、何となく色々あって山勘が当たったんだ。」
「それで納得してと?」
「種明かしは残酷だろ?」
女性にGフェロモン付けました。なんて言えねえよ。一生恨まれる。つか、来世も呪われる。ただ気付いてないのか、彼女の近くには今も潜んでいる。
俺の害虫ぶっ◯センサーが今でもビンビンに反応してる。
「引き寄せつつ寄らせずか・・・クロアは敵に回さないようにしないとな。」
「よく解らないけど・・良いわ。」
ソヨは貴族服から巫女服へと一瞬で高速換装する。
「貴方戦闘系では無いよね?」
「うげぇ?まさか・・・」
「私は戦闘系よ。スキル『緋色の巫女』。」
彼女の手には一本の紅刀が握られている。
「お退がりを!?」
「邪魔、寝てて。」
あっという間に謎の炎の一振りで4人の兵がオネンネへと。謎の何かは俺が捉えきれない速度で攻撃をされた。という事だ。
視認レベル超えてますね。
「うーん、やっぱ厳しいか。」
「ええ、これで形勢逆転?いや・・切り札ね。」
誰か
「でも残念ね。貴方のフレイヤは動かせない。」
チッ。読まれた。フレイヤは今国で唯一どこにでも移送できる人物だ。
オーディンやトールは空を飛べる。が、転移系は基本的にフレイヤのみ。
こっちが攻めている以上、彼女を下手にはこちらへは呼べない。だが何故かこの人だけ呼べる。
ましてや、頼みのロキは戦いの最中っぽい。
しっかーし!俺もあの劣勢(自業自得)を乗り切った身よ。
「死ね!」
容赦ない殺しの一振りが襲いかかる。
「危なか!」
咄嗟に素人らしく後ろへベタな回避『全力のバックダイブ』で何とか避けた。
斬撃出てたら確実に死ぬ。舐めプに感謝します。
「でしょうね!」
すぐさま素早く後ろへ回り込まれた。
「何の!?」
「『火炎の舞』!」
地面ローリング!って熱!!オレのSiriがっ!
「なっ!!はあ!?」
『火炎の舞』とか言う技は名前の通り、円形状に放つ技である。縦に弧を描くように、剣を振ったため横へと咄嗟に避けた。
横なら色々とセーフだが、縦に振られたため俺のケッツに擦り火が当たったようだ。
まあ、真っ二つに焼き切られなくて良かったね。チリチリするけどさ。
「咄嗟に横に逃げたのは予想外ね。
けど、どうも避けきれなかったようね。」
「裂けそうにはなりましたよ?」
「そう。じゃあ、今度こそ裂けてもらっても?」
アカンねん。次が予測できん。あんなもん、ただの山勘もいいとこ。
「今度は逃がさない!『焔』!」
刀から四方向による範囲攻撃が放たれた。
その熱量からして確実に溶け死ぬ。
「あまり使いたくない!」
ポセイドラの力をコンバート!
「『アトランティカ』!」
俺の周囲に海の城ができあがる。そして、ソヨの攻撃を見事打ち消した。
ま、これでポセイドラの力以外今日は使えませんが、しかも使い勝手やら制限とか知らん。咄嗟だったからつい。
「けど、相性はこっちか。」
「・・・・・切り札はそっちね?あと何回使えるのかしら?それとももう使えない?」
嫌ほど冷静です。今の神技を前に動揺はしたものの、一瞬で持ち直して現状を把握し出した。
異世界歴の長さは伊達じゃない。
「貴方の力は恐ろしいわね。
でも、貴方自身は脅威にすらならない。」
「ご明察通り。」
もやしで悪かったな。割とコンプレックスだよ。
「そう。ありがとう。
素直さに免じてだけど、貴方自身が脅威にならないのは、結果貴方が普通の人だからよ。
けど、異質はある。才ある人とは思えない。人徳性に溢れるとも思えない。
だからと言って身体的特徴があるとも思えない。
ただ・・・・動きや考え方は努力してきた人そのモノ。」
なんだか凄く辛辣にディスられているような。
「だからこそ異質よ。
この状況下で、しかも最近来たばかりの割にはどうして冷静なのかしら?それも経験かしら?」
いや死ぬかも知らん経験はあるけど、ここまでではないよ。
「知らねーよ・・・・・解るのは、俺はアンタほど立派でもなければ、才能なんてもんはない。人の才を見出すのはできるが、自分じゃあからっきしよ。
ま、その分アンタの言う通りに努力と研鑽の日々さ。それでも見向きなんてされんがね。」
なんだろうね。自分で言ってて悲しくはならんな。クソみたいな世の中だと理解してたからかな。
不思議と・・・・・そういう意味では社会という名の理不尽さを経験できてた。って事か。
この世界で俺にしかない事・・・ね。
嫌よ嫌よの前世でも生かせる事はあったな。
「だからこそ、この世界では好き勝手に生きたいね。そのための努力はするし、例え人に何と言われようともね。
だから俺の道を阻む者は容赦せんよ。」
「でしょうね。けど、ここまでの狼藉が許される訳もないけど。」
「そりゃそうだ。」
断然こっちの世界の方が楽しい。壊して好き勝手組み立てるしな。認めてほしい。って訳じゃない。逆に俺が俺で在りたい。
「尚のこと死ねない。」
「いいえ、殺すわ。」
迷い・・・ね。散々殺してきた割には優しいのか。それとも、日本人だったから?
「『ダイダロス』!」
水の蛇を何頭も生み出し、躊躇いなくソヨへと向けて撃ち放つ。
「私は炎の相性良いだけ。『突風よ』!」
海蛇の頭が風によって全てクリアに吹き飛ばされた。
「何でもアリなのかよ!才能って奴は許せんわ!」
「貴方も召喚士でしょうが!」
ソヨはこちらへ突攻を仕掛けた。風が彼女を守っている限り、俺の攻撃は一切通らない。
「マズい!あ!」
海の力が失われる。
回数制限あったね!!忘れてたよ!つい、気合いで空回りしてた。
刀が首に。
「や!」
ほんの一瞬だけ時が止まるように見えた。
自分が死ぬ瞬間であるからか、刀がゆっくりと首に入れ込まれようとスローモーションで見える。
ああ、終わったか。
「あれ?」
死んだと思った。
けど、刀は首の直前で止まり、刀とソヨが弾き飛ばされていた。
木に刺さった一本の弓矢が死の直前で防いでいた。
「うっ!?」
今のうち!
すぐさま後ろへと下がる。
「逃がさな!っ!」
追撃の矢が体勢を立て直したソヨへと向けて放たれていた。
何とかギリギリで咄嗟に避けていた。
しかし、ここまで正確に矢を射抜いているとは一体・・・・・
「お待たせいたしました!」
あら、アポロンさんでした。太陽の如きオレンジの肌がよくお似合いの方です。
意外な救援に驚く。
「申し訳ありません。少々手こずりまして。ただ霧の中からでも私の眼ならと思い、矢を放ってみましたが。良かった。」
そんな曖昧な感じで助けられたの?結果オーライかい。つか、そのまま撃ち続けてこっち来たのかよ。器用だな。
「まさかここまでやるとは・・・・・いえ、我々が早々にケリを着けるべきでした。
この失態は後程償わせていただきます。」
興奮しないで!
「アポロン神まで・・・てか、男神では?」
「フッ。さあね。」
冷ややかな視線が・・・だって、美人さん召喚したいもん。
「下等な屑如きが・・・・私のアレイスター様にここまでの狼藉を。貴女、タダでは死なさせません。
今からは私が遊び相手になりましょう。さあ、どこからでも?」
アポロンの戦いを生で見た事がない。だって回復系統かと思った。でも、さっきの矢は。
「・・・・・・本当にそれで良いの?」
ソヨから何故か質問を投げかけられた。
「耳を貸す必要もありません。」
「そんな話もできない王様なのかしら?」
「死ね!」
アポロンさんは話を聞かずに勢いそのまま弓をぶっ放します。当然、ソヨはソヨなりに守りの態勢に。
しかし、その守りも神の前では無意味である。
ソヨの召喚した札を徐々に弓で打ち消す。彼女が何かをしようと発動する度に打ち消す。
怒っている割には器用な芸当をしております。更にほんの少しずつソヨを傷つけてるから、マジで嬲り殺しにするつもりらしい。
その弓捌きは正確でかつ神速の早撃ちである。銃を持った相手にすら引けを取らない。そんな気がする。
「化け物っ!」
「醜い貴女よりはマシです。」
「そんな成れの果てで!?」
「殺します。」
今度は強めに弓が放たれると、ソヨは受け止めきれずにその衝撃を真正面から受けてしまう。
「ぐっ!がぁっ!!」
後ろへと転げ回った。アポロンは決して逃さない。
次の矢が既に転がる着地先へ撃たれていた。
「ぐっ!」
咄嗟に横へ転がるも別で放たれた矢が腿へと命中する。
「少し力を入れてみましたが、所詮は下等生物ですか・・・遊びにもなりませんね。
アレイスター様、今お怪我をお治し致します。」
アポロンさんの温かい魔力が俺を包む。
これが神様の母性なのか。
全ての傷が精算されていく。
「ありがとう、驚くほど回復してる。」
「光栄であります。」
うーむ、アポロンとは生や太陽と言われてるが、その実は反面に死と月の女神ヘカテーの話もあったとか。
このアポロンさんがどうなのかは知らんが。
「アレイスター様?そんなに見つめられると・・・・・興奮します。ここでヤリます?」
どうやら中身が暑さで蒸発しているようだ。早めのクールダウンが必須ですね。この戦場で興奮とか無理です。
ただでさえ俺の肝が冷えたばかり。
「もう少々お待ちを。今片付けて参ります。」
そんなアポロンは一礼の後、くるりとソヨの方面へとゆっくりと歩いて近づいていく。
「まだ痛めつけたりないので、死なないでいただいても?」
「神のツラをした悪魔ね。」
ボロボロのソヨにもう戦う気力はない。
しかし理性の塊である彼女は、何とか正気を保っている。
「その顔がグチョグチョに壊れる様は楽しみで堪りません。」
「ほんとっ・・最低なゲス。」
ソヨは死のうとした。自身に残された少しの力で。
「それはダメです。」
アポロンに一瞬日陰が差した。
その瞳の奥を覗いたソヨは魂が拘束されたかのように動かなくなる。
「ま・・・さ。」
ソヨの目に光が失われる。そのまま脱力するように身体が機能停止する。
「ウフフ、あまりこの姿はアレイスター様に見せたくはありません。」
アポロンの表情は非常に冷たい氷の微笑を浮かべていた。




