70 血湖の都市
「せ、セイジ!!」
セイジの全身から血が溢れ流れていく。
アネモイはその姿を目の当たりにしてしまい狼狽える。
「お?余所見か?まあ、アタシも結構慌てたしな。
天才のアレイスター様ならあれくらい余裕で何とかするだろうけど。にしてもアイツら情けねえな。」
トールは首をコキコキと鳴らす。
「しゃあ!こっちも終わらすか!もうお前相手に実験する価値もないしな。」
「じ、実験?」
トールの身体から更に赤い稲妻がバチバチと放電する。
「当たり前に決まってんだろうが。この力は強えが、どこか使い勝手が難しいんだよ。アレイスター様の愛はかなりデカいからな。
そう簡単にアタシ程度の俗物が使いこなせる代物でもねえし。」
何故か下で休んでいるアレイスターの背中に悪寒が走る。
「失意になりかけてる所悪いが、いい加減お前を仕留めんぜ。」
トールはお得意のハンマを片手で構え直す。
「よっ、判決・・・・『有罪』!」
トールはハンマーをその場で振り下ろす。
すると、有罪の大きな文字がアネモイの頭上に浮かぶ。
「こ、これは!」
「自然の一部雷という災害は神をも飲み込む。災害は時として人だけではなく、全てを砕き、神をも殺す。」
「と、トーーーーール!!!」
アネモイの叫びと共に途轍もない速度の赤雷がアネモイへと降り注ぐ。
当然、風で逸らす事すらできないレベルの貫通力であり、避けるための反応すら許さない。
眩い光が少しずつ収まる。
全身黒焦げの血塗れになったアネモイが空中から下へと落下する。
グシャと地面へと衝突する。
「よっと。」
トールも下へと着地した。
「せ、セイ・・ジ・・」
アネモイは血塗れのセイジへとゆっくりとボロボロの身を無理矢理引きずって進んでいく。
彼女自身も相当なダメージを受けていた。
しかし、マスターへの愛が彼女を突き動かす。
「セイジ・・・」
やがてその手がセイジの手へと伸ばそうとした瞬間、フレイヤによってヒールのかかとで容赦なく踏みつけられ遮られる。
「甘いよ?アレイスター様を傷つけた癖にそれが許させるとでも?家畜用便器風情が。」
彼女の手をハイヒールで更に強く踏みつけ、そのまま手の甲を貫通させた。
最早アネモイに痛みを感じる気力はもう無い。ただ流れる血を無気力に呆然と眺めるだけ。
「早いの、トール。」
「お、間抜け爺さん。」
「かち割るぞ!!小僧が!」
「どうどう。」
「アレイスター様が言うならの・・・」
馬かよ!北欧神のオーディン様そんなんでいいのか!?
ちょっと、言ってみたが効果絶大だった。
なんやかんやとエデンファミリー集合である。ようやく終戦か。
「アレイスター様、オーディンによって不要なSSRは全員バラバラにしております。」
「はい?」
後ろを見ると。
あらま。身体の至る所が亡くなってる。ウェ・・・・
「だ、大丈夫でしょうか?」
ロキさんが優しくおっぱいで抱きしめてくれる。そんなおっぱいに顔を埋めてと。
「何どさくさ紛れにやってんの?」
フレイヤ様が大変嫉妬していらしてる。目が鋭いなんてもんじゃない。
「ご、ごめんよ。俺が情けないばかりに。」
「違うよアレイスター様、そこの役立たずのロキに言っただけだよ。」
フレイヤも優しく抱き締めては撫で撫でしてくる。お姉様方はお優しい。
しかし、どう考えても今回は俺が悪い。
「うんん!それよりもじゃ。」
オーディンも埒が開かないと判断したのだろうか、話を切り替える。
「ああ、そのゴミ2人は『桜花楼獄』に送るよ。
幸いにも結界はもう溶けたし。」
「後はこの辺の残党と後始末か。」
「ま、そうなるの。そこの・・・・何じゃったか。」
「タジャマールでございます。」
最早鉄板ネタかな?
「おおそうそう。後はお前たちに任せるが、良いかの?」
「かしこまりました。」
「1人だと心許ないよね?そう思ってヘルメたちをここに向かわせるように通達しといたよ。
今頃かなりの超速で向かってるから、もう着くと思うけど。」
手筈が良過ぎ。まるでこうなる事を事前に読まれていたかのような・・・・あ、アテネか。
「私は共和国での残作業がまだあります。大変申し訳ございません。」
「まあ、いいんじゃない?その代わりにオーディンとトールが責任持ってここに残ってね。」
フレイヤがニコニコと命令する。
「お前に指示されとう無いが、じゃがしくじったのはワシらじゃ。」
「アタシ巻き添えだけどな。」
「うるさいわ!戦闘狂!」
「さっ、アレイスター様は私と一緒に帰ろう。おいで。」
フレイヤおっぱいに連れられて・・・あれ?なんか変だ。
「アハハ可愛いなあ本当に。」
フレイヤさんは満更でもありません。ロキさんたちが悔しそうな表情を浮かべているけど。他の人たちも。
「じゃ、後は頼んだよ。」
フレイヤはセイジとアネモイをテレポートさせた後、俺を連れてテレポートした。
そして跡に取り残されたオーディン、トール
「しれっとロキの奴も消えおった。」
「実際アイツはまだ仕事あるしな。」
戦いの跡地に2人は座り込む。
「ワシらはどうせただ見てるだけじゃし。」
「だろうな。後は下の奴らに任せるしかねえだろ。ヘルメとかいんなら楽しそうに復讐劇を繰り広げてるだろうしな。
果たしてどんな解体作業すんだか。」
「折角の青く綺麗な海がまっ赤に染まるとはの。果たして恨み辛みはそれで治るのかの?」
「さあな、俺たちも少なからず影響は受けてるし。」
2人は呑気にお酒をどこからか取り出し、酌み交わすのであった。
2人の晩酌が始まった頃、アクアリウムは完全に包囲されていた。
レッドウォルフという赤肌を中心とした暗殺隊によって。
そして無慈悲に攻撃が開始される。
「殺せ!殺せ!」
避難する住民を捕らえては要所なくバラバランに斬り刻まれていく。潰される者、殴り殺される者と様々な殺戮が彼方此方で行われる。
「私たちの存在を知らしめろ。」
ヘルメもまた狂騒の真ん中で市民や衛兵の首を容赦なく刎ねていく。
「あーあー、久々の仕事がただの虐殺とはね。」
ヘルメスは適当にあったテラス席でそんな光景をジュースを飲みながら眺めていた。
ヘルメス自身は特段殺意が湧かない。
アレイスターに命令されない以上、彼女自身は何かしようとは思わない。
ヘルメスもまたアレイスター1択の考えで動く。
アレイスターが殺害を指示したのであれば、自ら先頭で指揮して確実に殺す。そこに嫌という感情はない。
アレイスターの命令に対して忠実に実行し、遂行する事へ快感を感じる。そして愛してもらう。ただそれだけである。
「ま、今回は別に命令されてないし、何かしてこない以上は・・・ね。」
目の前には怯えて隠れている従業員が数人ほどいた。
ヘルメスの姿を目の当たりにし、怯え震えているのであった。
「安心・・・・・はできないか。
まあ、私は興味ないし逃げてもいいよ。アレイスター様が特段何か言った訳でも無いし。
アレイスター様の居ない所ではやる気も無いし。はあ・・・アレイスター様に会いたいなあ。」
「姉さん。」
音もなくヘルメがいつの間にか、テラス席の側へと現れた。
「おーー!我が妹よ。」
「おーー!じゃないです。
姉さんも仕事して下さい。アレイスター様に報告しますよ?」
「ええ!それは勘弁!!で、でもほら!?アレイスター様の指示ではないでしょ!?」
「そうですが、アレイスター様のために動いているのは違いありません。」
「うーーーん。取ってつけたような感じなんだけどなぁ〜。」
「はあ・・まあ確かに姉さんの出る幕は無いですけど。城にはナナカを中心に腕の良い者たちを送りました。」
「あそ、本当に私いる意味ね?オーディンやトールが居んのに私必要かな?」
「さあ?ただまあフレイヤからは1人も逃すなって事だから?」
「それもそうか。アレイスター様を傷付ける国はちゃんと滅ばないとね、しっかりと後悔させてね。」
「姉さんの言う通り、皆もそう思うだろ?」
数人の従業員の後ろには赤い肌の狂人3人が立っていた。
皆これから起きる出来事を楽しそうにニヤニヤと笑みを浮かべている。
「ほんと・・・・・何しに来のかな?私は。」
ヘルメスが呟くと同時に、ザシュっと血飛沫が舞った。
「凄いね〜。」
そんな暇なヘルメスは国に流れている川を観察するように歩き見回っていた。そこは地獄絵図のように死体や人々の血が流れ赤く染まっている。
少し前の綺麗で美しい青い色は一切残っていない。
「これ何百かな?何千?何万?
わざわざここに血を流し込んでるからかな?凄い労力だよ。私はパスパス。」
レッドウォルフの面々は、わざわざ死体を綺麗な水へ投げ入れるか、死体を片手に持っては、敢えて死体の血を流していた。
そんな荒れ狂う地獄の中を鼻歌混じりにスキップして歩き出す。
「大人から子供まで老男男女関係なく死んでいく〜〜。ほんと酷い話だよ。神様だ何だと崇め奉られていたのに。
まあ、そんな興味ないけど。」
「呑気じゃの。」
そんなヘルメスの前にはオーディンとトールが酒瓶を片手に現れる。
「いや〜・・・よく飲めるね。」
流石のヘルメスでもやや退いた。
「やるの事も無いしの。」
「それな!」
3人の神は目を合わせると、気付くと酒を同時に手にしていた。ヘルメスもオーディンから分けてもらっていた。
「「「乾杯!」」」
酒が交わされて暫く。
赤い月が完全に昇りきった夜
「ふぃ〜〜〜終わったかの〜〜。」
「何で酔ってるのかよ〜〜。」
トールとオーディンは何故か悪ノリ状態に。
「あんだけ飲んでればそうなるよ。悲鳴も一通り止んだし、全員死んだんじゃない?」
ヘルメスは周りを『旅人の眼』で見渡す。
「やっぱ全員始末したってよ。」
「おお〜〜〜!おめでとうおめでとう!」
「ヒューヒュー!」
酔っ払い2人の盛り上がりタコ踊りパフォーマンスである。
「アホか・・・・・ヘルメ。」
「姉さん。」
建物の影からヌルッと現れた。
「それで?この街はどうするのよ?」
「物資や物珍しい物を確保した後、オーディン様による大規模魔法で消す予定です。」
「ほほ〜う!任せるのじゃ!」
オーディンは千鳥足になっていた。ふらふらと倒れそうで倒れない。
「こんな状態だと隣国を吹き飛ばしそうだけど?」
「それじゃあ姉さんがやります?」
「それは・・・・・・・ええ〜・・・」
ヘルメスもやる気が起きない。
「いっそのこと、残しちまえば良いんじゃね?見せしめとしてさ。」
意外にもトールからその発言が出たのであった。




